第42話 暴風暴雷
葉藤と竜彦は自身の妖刀を掴み能力を開放する。
「駆動・雷電」
「ぶっ飛ばせ!風緑!」
妖刀に稲妻を纏い轟雷の音と共に放電をまき散らしながら突っ込み、妖刀から吹き出した暴風が竜巻の様に渦巻いて衝突し合う。
青い稲光と緑の暴風がぶつかり合い衝撃波が周囲の物を吹き飛ばす。その姿は風神と雷神が喧嘩をしているようだ。
「あーあ、これはこれは……」
「外まで行きそうなのだ」
「これ、作戦の意味あるのか」
「バレなければ構わないよ」
「だ、そうなのだ」
「ええー……」
暴風と稲妻の衝突が激しすぎるあまり、お互いが近づけない状況でいた。
「やるな、お前!」
「貴方もなかなか……!」
「ああ!だが、速さがあっても力が足りねえな!」
「なにっ!」
この勝負も長くは続かない。先に勝負を制したのは荒れ狂う暴風であった。
稲妻を呑み込むほど大きくなった暴風は葉藤を地下5階から3階へと押し上げた。
「フハハハ!まだまだだぞ!」
「おおー、飛んだね」
「これで戦局がわかれてやりやすくなったのだ」
「そんじゃ、ここでお別れか」
「みんな気を付けるんだよ」
竜彦、三玖理と関奈は3階へと上がり、瑞季と玄筆は5階で亡霊と相対する。
――第一支部、地下3階。
風緑の暴風であいた穴から3人は上の階層へと上っていく。
幸い支部には鬼和番衆の5人とムクロ隊の者しかいない、拠点の移転と言ってもすぐには移動しないのだが今回の様な襲撃を危惧した本部からの命令で連絡があれば直ちに鬼和番衆を除く全員が避難するようにしてあったのだ。
「避難するよう指示を出してくれた副長官に感謝しないとね」
「おかげである程度は自由にできるのだ」
「どうした!お前の力はこんなものか!」
吹き飛ばされた葉藤に追い打ちを掛ける。能力を使わずに一太刀を素早く振りかざし防がれる。
「これは本気で行かなければ行けませんね……!」
「打開策は見つかったか!」
勢い任せに振るった一太刀が押し切り、体勢が崩れた隙に蹴りを入れる。
蹴り入れた足は空を切り、葉藤は目では追えない程の速さで移動する。
「消えたか、面白い」
「本気で行きますよ」
風緑の一撃のせいで破壊された電灯のせいで視界が暗い。
一発ぶちかましたおかげで不利になった。暗闇を高速移動する葉藤に位置を音で探すが、見つけても暗闇のせいで見えない。
「竜彦、アイツどこ行った。まさか、逃がした?」
「その辺でシュッシュ、シュッシュ言ってる音がアイツだよ」
「高速系の契約者だったのだ」
「あの速さにあの妖刀で攻撃されたら反応できないかもね」
「厄介なのだ」
葉藤の異能は『加速』、関奈の言った通り高速系の異能だ。百鬼兄弟の兄、龍宗と同じ高速系だ。龍宗と違うところは意識までは早くすることはできない事。
「っ!溶かせ!融徹!」
3発の銃声が響き弾丸が竜彦目掛けて飛んでいく。
それに気付いた三玖理が妖刀を抜き能力を発動させる。融徹の能力は触れた物を溶かす能力、暗闇に目が慣れてきていたのもあって全ての弾丸を溶かす。
「あっぶねー。サンキュー、三玖理」
「どういたしまして」
「当たっていたら大変だったのだ」
鬼和番衆の契約者は隊長ただ一人、それ以外は全員生身の人間なのだ。
高速系の厄介なところはその名の通り早いことだ。だが、逆に言えばそこが弱点とも言える。高速系の異能は移動が速くなると同時に体の感覚が軽くなる。
3人の考えは同じだった。『加速』の弱点である感覚の軽さを利用した攻撃が頭の中に思いついていたのだ。
「三玖理が防御で竜彦が攻撃なのだ、トドメはわたしが刺すのだ」
「まあ、仕方ねえか」
「それが一番の最適解だものね」
一番戦うことを楽しみにしていた竜彦が少し残念そうに言う。
死んでしまえば元も子もない、契約者でない自分たちは弾丸一発でも当たってしまえば致命傷にだってなる。三玖理も作戦に同意する。
「お話は終わりましたか」
「今、終わったところだよ」
「そうですか、ではわたくしからも一言。次の本気の一撃で殺します」
「そうか!そうか!なら俺達も言っておこう。その一撃は防がれて終わる」
高速移動しながら発砲する葉藤の攻撃を三玖理が防いぎつつ、最後になる予定の攻撃を警戒する。
3人ともが音を追っていた。その刹那、青い稲光に突風を纏った一撃が襲い掛かるのを視界にとらえる。
『――異能の刃・疾風迅雷――』
加速の異能と妖刀雷電の異能力を掛け合わせた異能の刃は先程とは比にならない速度で突っ込んでくる。場所は関奈のいる方向。
「屈め!関奈!」
「っ!!」
「ぶっ飛ばせ!風緑!!」
異能の刃と妖刀の能力がぶつかる。
衝突した両方の一撃は一見、拮抗しているように見えるがそうはいかない。雷電が風緑に押し切られたように今度は風緑が押されている。当然だ、異能の刃は異能と妖魔刀剣の能力両方の性質を持っている、そうそう突破できるものではない。
「強くなったなっ!」
「強くなったのではありません。始めからこれくらい強かったのです」
風緑との衝突により葉藤の動きは止まる。作戦は成功。こちらの勝ちだ。
「開けろ・群雲裂」
「ぐはっ!」
突如として葉藤の胸を妖刀が貫く。
その刀身は空間を裂き関奈の手元へと繋がっている。群雲裂の能力は空間を切り裂き、認知できる空間とつなげる能力。
作戦通りにトドメは関奈が刺し、宣言通りに次の一撃は防がれて終わった。
「始めからこれが狙いでしたか……」
「こう見えても修羅場は何回も潜り抜けてきたからな」
「貴方の能力の弱点も知ってた。だから動きが止まる瞬間を待って、止まった瞬間に感覚が軽いまま押し上げればバランスを崩す予定だったのだけど……」
「想定の上をいく隠し玉を持っていたのだ」
本来の作戦は風緑で押し上げるか静止する。押し上げた場合、勢いそのまま群雲裂の能力で背後に刀身を突き出し倒す。今回は前者が当てはまった。
「なるほど、わたくしの負けですか」
「そうだ、だが一つ訂正させてもらう」
「?」
「お前は強かった」
竜彦の言葉を聞き終えた葉藤は目を閉じる。
――ムクロ隊一番隊隊長・葉藤砲宗、死亡。
「隊長たちの方は終わったかな」
「終わっていると思うのだ」
「終わってなければ参戦しに行くか!」




