第41話 ムクロ隊1番隊
次回、戦闘が始まります
2日目、夜。
シオン市にて、特務機関第一支部にて入れ墨の男と包帯を巻いた着物姿の人物が侵入。
これを撃退すべく出動要請が掛かり応じた者は5名。全員が同じ部隊に所属し、実力は特務機関の歴史に残るレベルである。戦績は全戦全勝、創設時から無敗を誇る最強の部隊『鬼和番衆』。
全員、黒の軍服に赤い三本戦が両肩に刺繍されている。
「また新しい敵か……」
「しかたないのだ。長官が不在の今、現場は混乱を極めているのだ」
「東雲たちの情報だと相手は三蔵さんか柊時道かのどちらか」
「どちらにせよ、俺達相手に不足は無しだな。そうだろ?隊長」
「ああ、三蔵さんだと嬉しいな」
第一支部本部は未来都市と呼ばれるシオン市の国営企業、そのビル群の地下に存在する。
前回の襲撃を受け、支部を移転しているがそれでも間に合わない。故に本部から情報を受けた際、あらかじめ防衛線を拠点内部に張り、待ち伏せしているのだ。
「そろそろかな」
地下に通じるエレベータが1つ稼働し、降りてくる。到着の鐘の音が鳴り2人の人物が地下へと踏み入る。
「残念、三蔵さんじゃなかった」
鬼和番衆、それに対するのは一犯罪組織の下部組織。その中でもまとめ役を担う隊長、その姿は入れ墨を入れており見た目通り怖がられる男だ。
そして、副隊長には数千年前の時より蘇えされた伝説の亡霊。その姿はとても数千年たっているとは思えない程保存状態の良いミイラとなっており、手には歴史に名を残した彼の愛刀、天帝五刃の一振り”空の御前”が握られている。
「どうしました?知り合いでもいましたか」
入れ墨の男が聞く。
「答える気はないよ」
「そうですか、ところでここを通してはいただけないでしょうか。我々とて無抵抗の相手に刃を向ける気はないのですが……」
「ないな」
「ないのだ」
「ありません」
「ないが100パー」
「ないよ」
全員で否定する。当然だ、ここの守りは彼ら5人だけなのだから通してしまえば止める者はいない。男は大木ため息をつき悩むように言う。
「困りましたね。わたくしはともかく隣にいる彼と戦うとなると勝ち目しか見えません。貴方達が何者であろうが相手が伝説の亡霊では話になりませんよ?」
「そうかですか、ところで相手は”伝説の亡霊”で合っているんですよね?」
「ええ、そうですよ」
男のバカにしたようないい様に鬼和番衆偵察担当の空崎 三玖理が聞き返す。男は当然の様に余裕をもって答える。大きなツインテールが特徴の彼女だが、華奢な見た目に反して精神力はかなり強く、なめられた行動が嫌いなのだ。
「だってさ、どうする?関奈ちゃん」
「ちゃんはやめるのだ」
「わかったよー……」
「手もどけるのだ!」
三玖理は隣にいた参謀担当の花村 関奈の頭に手をのせて作戦を尋ねる。165センチある三玖理に比べて150センチ程しかない小さな体の関奈はよく頭に手をのせられる。
「竜彦と三玖理とわたしが入れ墨の相手をして、隊長と副隊長が亡霊の相手をすればいいのだ」
「ちょっと待て!俺も亡霊と戦いたい!」
「ダメなのだ、竜彦が戦うと滅茶苦茶になるのだ」
「嫌だよ!あんな弱さそうですぐに終わりそうな相手!」
「仕方ないのだ、これが戦いやすい作戦なのだ」
遊撃担当久漸 竜彦は関奈の作戦に文句をつける。
血の気の多い竜彦にとって目の前にいる伝説の名を冠する亡霊はとても魅力的な相手だ、それなのに戦わせてもらえない所かおこぼれの様に入れ墨の男の相手をさせられるのは嫌気がさす。
その様子を見て呆れた副隊長の秋雲 瑞季は竜彦を落ち着かせる。
「我慢しろ竜彦、文句があるなら隊長に進言しろ」
「隊長~」
「ダメだよ、竜彦。君が本気を出したら戦闘が大きくなる」
「それを言ったら隊長も一緒でしょうよ」
「だからだよ、わたしが本気で戦えば短期決戦で亡霊を倒すことはできるけど君の場合はどうかな?わたしの予想だと街全体を巻き込むと思うのだが」
「うっ……」
痛いところを突かれる。確かに隊長である花座利 玄筆の魔剣や異能を使えば短期決戦で亡霊を打ち取ることは可能だ。それに隊長が持つ魔剣は時道と同じ”天帝五刃”の一振りだ、それこそ相手にとって不足なしと言えるだろう。
竜彦の妖刀では遠く及ばない。むしろ被害が増えるだけだ。
「だからここはわたしと瑞季に任せてほしい」
「……わかった、隊長の言う通り俺がやったら被害が大きくなるだけだ。ここは作戦通りにあの弱そうな奴で我慢するよ」
「話は終わりましたか?」
敵を目の前にしていると言うのにあまりにも長い話し合いに男は思わず割って入る。
作戦もなにもかもが筒抜けのこの状況、本当に大丈夫か心配になるが男からすればむしろ好都合だ。
「ああ。たった今、終わったよ」
「あまりにもひどい言われようでわたくし思わず泣いてしまいそうです」
竜彦からの散々な言われようにわざとらしいウソ泣きを始める。
「あーあ、竜彦が泣かした」
「これは竜彦が悪いのだ」
「まあボロクソに言ってたしな」
「これは擁護できないね」
「えー、急に裏切るじゃん。みんな」
擁護されるとでも思っていたのか竜彦は声のトーンを落とす。
このボケの空気を締めくくるべく男は嘘泣きをやめる。
「さて、そろそろ実力行使に出ましょうか。その前に、自己紹介からしましょう。わたくしの名前は葉藤 砲宗です、そして隣に居るのは『伝説の亡霊』柊 時道です」
「知っているよ。本部から情報は来ているからね」
「おや、ご存じだったのですか」
「相手が一番隊副隊長の柊 時道だってわかった時から」
「そうですか、でしたら初めからご存じだったわけですね」
「そう言う事になるね」
本部からのムクロ隊に関する情報は各支部に送られている。無論、彰たちがいる古史町の近くにある第四支部にも届いている。
「では、自己紹介は無しにして。室力行使に入りましょうか」




