第34話 ムクロ隊3番隊
自身の妖魔刀剣を握りしめた葛城が叫ぶ。
「跳ねろ!水切り!」
葛城の妖刀の攻撃に身構えて足に力を入れ、能力の相殺を図る為に妖刀の能力を使おうとしたその時、地面から植物が生え、足場の地形が崩れる。
「「っ!!」」
「わっ!」
「なにっ!」
足元から生えた植物は目にもたまらぬ速さで成長し、意思があるかのように時清たちに襲い掛かる。
「いいか、これが戦場だ。油断していると死ぬぞ」
植物をうまく利用して足場にしつつ襲い掛かってくる植物をかわす。
これは異能だ。どう考えてもそこに居る邪陰の能力ではない、僕たちに妖刀の能力を警戒させつつ不意を突いた攻撃、これが”戦い”!邪陰とは違う、対人戦の戦いかたなのか!。
「くっ!辰巳!下に向かって”使える”か!」
「わかりました!」
「時清!円!辰巳より上に登れ!」
有馬さんの指示に従う。辰巳さんになにか指示を出していたと言うことは策があるのだろう。
時清たちは上へと登る。辰巳は魔剣を抜き地面から生え続ける植物に向けって能力を使う。
「超えろ・フルダンテ!」
魔剣から紫色の炎が出ると真下に向かって一直線に突き刺さる。ドオンッ!と響き渡る音は花火が地面にぶつかった様に炎の塊がはじけ、周囲の建物ごと爆風で吹き飛ばす。
一瞬にして燃え尽きた植物のせいで足場が無くなるが契約者らしく身体能力は高いので難なく着地する。
「今のは……」
「ワタシの魔剣・フルダンテの能力です。効果範囲と威力が強いので普段は使わないようにしているのですが、今回は危なかったので使わせていただきました」
「は、はぁ……」
説明としては十分なのだが1つ疑問な事がある。なぜ、有馬さんは辰巳さんに抱きかかえられているのかがわからない。
「いい忘れていたが、俺は契約者じゃない、契約者なのはお前たち3人だけだ」
心の声が漏れていたのか説明してくれた。
周囲を見回すと周囲の物はフルダンテで吹き飛んでおり、植物も塵と化した。
砂埃が巻き上がるせいか建物が吹き飛んだこと以外に重要な相手の動向がわからない。
「いやー危なかった、危なかった」
「っ!」
「能力を使ってなかったら死んでいたよ」
煙の中から現れた葛城は砂埃がついてはいるものの、傷一つない先程と同じ姿だ。
御頭噛神も同様に無傷だが、葛城の隣には不自然に壊れている場所がある。
(あの場所、なんで壊れているんだ……)
「さて、攻めに行くか!」
――ガアアアアッ!
膝に力を入れ、脚力で飛びこんでくる葛城を有馬が刀身で受け止める。
鉄と鉄がぶつかり合う音が鳴り響く、それに合わせて御頭嚙神も時清たちに襲い掛かる。
辰巳のフルダンテもこの範囲では有馬を巻き込んでしまう、ならばと時清は能力を使おうとするが、それよりも早く円が照準を合わせて能力を使う。
「貫け・突過丸」
突き出した短刀が光り輝くと同時に閃光の如く速さで伸びて行き、御頭噛神の頭を貫く。
――ガギャアアアアッ!!
大きく叫び声を上げ悶絶しようと体をよじろうとするが、円は突過丸を伸縮させ何度も何度も容赦なく突き刺す。
獅子の顔にひびが入る。それでも止まらない円の攻撃にしびれをきらしたのか、地面から植物が襲い掛かる。
「っ!!」
攻撃をかわそうと体勢を変えようとするが、それよりも早く時清が植物に向かって能力を使用する。
「凍れ・札姫!」
刀身から出た花札模様の冷気に触れると植物はその名の通り凍り、動きを止める。
その隙に体制を整えた円は距離を詰めて殴りにかかる。
「おりゃああ!!」
円の異能は高性能。この異能は自身の身体能力を強化するシンプルな能力だが、他の契約者とは一線を画した身体能力の為、その拳は邪陰と同格に殴り合えるにまで到達している。
――ギャガガガガッ!!
目にあたる部位を殴りつけた結果、片目が崩れボロボロの状態になった。
「マジかよ……!」
葛城はそん光景に気を取られたその一瞬、有馬のサポートに回った辰巳の一撃に気が付かずに頭上から獣の一撃を受ける。
辰巳の異能、獣人化は自身を半獣へと変身させ獣の様な動きと身体能力で戦うスタイル。常人なら一撃で致命傷となる攻撃を行えられる。
「っ……てぇ!」
地面に落下した葛城は自身の体から植物を生やし、落下と直撃のダメージを緩和していた。
「あっー、いってえな……」
――ガガガガガガッ!
「お前ら意外とめんどくさいな」
「タフって言いたいのか」
「まあ、そんなところだ。俺は長いの面倒だから本気出すわ」
地面から植物が生え、地形が変わるのと同時に葛城は動き出す。
その瞬間、葛城は消えた。
先程までの直線的な動きではない、植物中を駆け回り居場所を撹乱させてフルダンテと突過丸の動きを封じさせた。
「これじゃ、相手の位置が……!」
「いや、これでいい。辰巳!円!それを一撃で屠れるか!」
有馬の指さす先には状況に慣れていない御頭嚙神が外で舞っている姿だった。
「いける!」
「いけるよ!」
2人は狙いを御頭嚙神に定めて能力を使う。
「超えろ・フルダンテ!」
「貫け・突過丸!」
――ガギャアアアアッ!!
突過丸で御頭嚙神の片目を貫き、盲目にするとフルダンテの火力で消し飛ばし、植物を半壊させる。
残る敵は隊長の葛城のみ、相手もバカではないフルダンテの攻撃くらいはかわしているはずだ、足場の大半が燃え尽きたことで今いる位置がおおよそで分かる。
(次に来るのは背後だ)
「っ!」
有馬の予想通り葛城は背後にあられた、しかしそれは有馬の予想とは違い時清の背後に現れたのだ。
その事に気付いていない時清は背後から胸を一突きに刺される。
「ぐはっ!」
その場に倒れ込むが相手の攻撃の手は緩まない、葛城は有馬に向かって一撃を叩きこもうと刀を振るう。
「祓え・夢食い」
有馬の妖魔刀剣の能力、夢食いは対象とする発動中の一つの能力を刀身に纏うことで妖刀を強化する能力。
今回纏ったのは植物、葛城の異能だ。纏った植物は触手の様にうねり、葛城に襲い掛かる。
「跳ねろ・水切り」
夢食いと水切りがぶつかり合った瞬間、夢食いは水切りの様に刀身が弾かれる。
水切りの能力は刀身に触れた物を跳ね返す能力、葛城が消えたように見えたのは水切りを自身の異能と弾かせて高速移動をしているように錯覚させていたのだ。
弾かれた夢食いに纏われた植物はそれでも尚、葛城の腕を縛り付ける。
「うっとおしいな」
腕に着いた植物を切ろうとした瞬間、背後から脇腹を一突きされる。
「凍れ・札姫」
刀身から出た花札の冷気が葛城の体に広がる。
「お、お前、刺されたはずじゃ、、、」
「僕の名前は柊時清です」
「柊……って、まさか、、」
「『時間操作』の異能を持つ一族の柊です」
異能には2種類のタイプがある。
1つ目は一般的な契約者がもつ異能。これは邪陰の一部を体内に封印することで契約を果たし、邪陰の力の一部を手に入れる異能。
2つ目は邪陰の全てを体内に封じ込め、永久契約を果たす異能。昔の人々が口にした名は異質な超越者。
葛城の体はだんだんと凍結していく。
「安心してください、死にはしません。死んだら困るので」
1時間後。
彰たちがテンザイ府に着き獨録街に向かった所、現場はカオスな状態だった。
一部の建物が吹き飛ばされ、戦闘があった場所は焦げ跡と凍結した植物があちこちに散らばっていた。
(な、なにがあった……?)
「あ、彰さん!」
「時清、この状況はいったい……」
「ムクロ隊と戦闘になったんですよ」
「それで結果はどうなったんだ」
「三番隊隊長の葛城 透と言う人を捕まえました」
時清が見せてくれたのは脇腹に妖魔刀剣が突き刺さった男が凍結している物だった。
「お、おう」
(なんか凄い事になってる気が……!)
その後、合流した東雲さん達と共に葛城と言う人物を本部に持ち帰った。




