第33話 柊班
次回は戦闘です。
――テンザイ府。
僕たち4人はムクロ隊の捜索のためテンザイ府に来ていた。調査に進展がないまま探すこと数時間、立ち食い蕎麦をすすっていたところ、東雲さん達から無線で連絡が入った。
どうやら僕たち4人や酒井さん達が探しても手に入らなかったムクロ隊の情報を彰さん達が入手したらしい。同期として心の底からすごいと感じた。
その情報の中に鉢巻を巻いた白い軍服の男がテンザイ府に向かったと言うことで、酒井さんからの指示でテンザイ府に居る僕たちが探すことになった。
「――了解です――」
無線機の連絡を切る。
初めての対人任務と言うこともあってか心臓の音が聞こえるくらい緊張している。
もし、ムクロ隊の隊長と戦闘になったら勝てるのか、対人戦の経験が浅いのはわかっていますが……。
「どうした」
「わっ!え!?あ、……はい」
隣に居た有馬さんに突然声を掛けられた。
驚きすぎて変な声がでちゃったけど……。
「緊張しているのか」
「はい、実は対人戦になった時にちゃんと戦えるか不安で……」
「不安か、そういうのはどうにもできないが精一杯の事をやればいいと俺は思う。お互い命が掛かってるしな」
「有馬さん……」
「万が一戦いの中で命を落としても恨みはしない。これはそういう仕事だ、俺もお前もやれることをやればいい」
「はい!ありがとうございます!」
有馬さんに相談してみた所、緊張が少し和らいだ。初めは少し怖いイメージを持っていたが、とてもやさしい人だ。
蕎麦を食べ終わり、店を出ると円さんが僕に先程の連絡の事を尋ねる。
「時清、酒井さん達なにか言ってた?」
「うん、テンザイ府に居る”鉢巻を巻いた白い軍服の男”を探せって」
「難しいことを言いますね」
「白い軍服の情報が無いのに鉢巻を巻いてると言ってもなー」
実際問題、白い軍服の情報が無い上に鉢巻を巻いていると言われても見つけ出せるのは難しい。
こうなったら、鉢巻のを巻いている人物だけを探しつつ白い軍服の情報も探すしか……。
「ワタシ達4人が手分けしても良いのですが……」
「もし戦闘になったら、ボク達が負けるかもしれないしね」
(ど、どうしたらいいんだろう……)
「……1つ考えがある」
どうしようかと悩んでいると有馬さんが1つの提案を申し出てきた。有馬さんにはなにか考えがあるようだ。
「俺の知り合いがこの近くにいる、そいつから話を聞こう」
「……有馬さん、それ早く言って欲しかったです」
この数時間の捜索は何だったのか、問いただしたくなる気持ちを押さえて言う。
「すまんな、そいつに会えるのは午後の時間帯だけなんだ」
「それで、その人はどこに居るんですか?」
「あそこだ」
そう言って指さした方向は演劇公演をやっている公民館だった。
――公民館。
有馬さんの知り合いがいると言う場所にやってきた。
演劇公演をやっていると言うことで中は盛大に賑わっており人の波が外にまであふれかえっていた。
「有馬さん。その知り合いの方って言うのは、どこに居るんですか」
「ここの職員だが、人が多すぎて見つけらないな」
さすがにこの中から見つけるのは至難の業だ。
顔を知っているのは有馬さんだけだし見つけられたとしても時間的に遅くなる、やはりここは手分けして探すしか……。
「あれ、有馬くん?」
背後からした声に振り向くと茶髪のポニーテール姿の職員の女性が立っていた。
「やっぱり有馬くんだ!久しぶり!」
「久しぶりだな、美月」
「有馬さん、この人が……」
「ああ、篠崎美月。俺の元相棒で今は公民館の職員をやっている」
「はじめまして!」
元気よく挨拶をされる。印象としては元気はつらつと言った好印象な感じだ。
有馬さんの相棒と言う事は元警察官と言う事だろう、そうするともしかしたらなにか情報を知っているかもしれない。
「美月、聞きたいことがあるんだが」
「お、なになに?この美月博士になんでも聞きなさい!」
「白い軍服を着た鉢巻を巻いた男の事を知らないか」
「白い、軍服……?ん~、あ!そう言えば!この前の仕事終わりにそれっぽい人が獨録街に行くのを見たよ!」
「本当か!」
「もちろん!この私の目に狂いはありません!」
獨録街、彰さん達が百鬼兄弟と戦ったと言う場所だ。
ここからだと数十分で着く。
「ありがとう、感謝する」
「いいってことよー、それよりも今度ご飯行かない?」
「この仕事が終わったら行ってやる、それじゃまたな」
「「「ありがとうございましたー!」」」
その場を去って目撃情報のあった獨録街へ急ぐ。
――獨録街。
時刻は午後1時。
お昼時の時間も終わりに差し掛かるころだ。
「ここに向かったと言うことはなにか目的があるとみていいでしょうね」
「でも目的ってなんだろう?支部の襲撃ならここに来ることはないんじゃないかな」
「そうですね、でも目的があるとすれば彰くん達が戦ったと言う”百鬼兄弟”の残したなにか」
「それ自体が目的か」
彰さん達が戦った百鬼兄弟はガラクから異能を得たと聞いた、そうなると百鬼兄弟はガラクから何かを受け取っていて、直属の組織であるムクロ隊はそれを探しに来たということになる。
「幸い、ここら辺の住民はあの一件以来しばらく避難していないらしいです」
「なら今のうちにやるしかないな」
戦闘があったと言う場所に近づくと特務機関が人よけに使っていたテープが見えてきた、その奥には白い軍服に鉢巻を巻いた男がたたずんでいる。
それに気付いて全員が足を止めて男の方を見る。
「特務機関の連中がいないから楽だと思ったんだが……どうやら、そうじゃねえみたいだな」
軍服の上から着ている白い外套には黒文字で『3』と書かれいる。
気だるそうに振り向いた男の目は青く澄んでおり、髪は黒く性格の様に寝ぐせが付いている。
腰には1本の刀剣を掛けている。
「戦う前に聞きたいんですが、貴方がムクロ隊の人で間違いないんですよね」
「……違うと言ったら信じるか?」
「えっと……」
しまった返しが思いつかない!
ど、どうしよう、何て返すのが正解のなのかな……。
「信じる。ただし、その場合は所属している部隊とここに来た目的を聞かせてもらうがな」
「……まあいい、全員倒せば問題なしだ」
そう言った男の人が刀を抜くと遠くにあった廃工場から何かが物凄い早さでこちらに近づいて来る。
「俺はムクロ隊三番隊、隊長の葛城 透だ。そしてこいつは副隊長の御頭噛神だ」
――ガアアアアッ!!!
姿を現したそれは頭部が青い獅子の様な見た目をしており、全身が布で覆われている獅子舞の様な姿だった。どう見ても邪陰だ、名前があると言うことは……。
「黄泉帰理を経た名前持ちの邪陰ってことですね」
「邪陰記帳にも名前が載っているね」
円が邪陰記帳を開き調べると”御頭噛神”と名前と共に絵で姿が掛かれているページを開く。
その姿を照らし合わせると確かに姿が似ている。
「副隊長と言う事は他にも隊員がいるとみていいでしょうね」
「あいにくとお前らにやられたせいで隊員は俺達2名だけだ」
「そうか、どちらにせよ聞きたいことは山ほどある」
4人全員が妖魔刀剣を抜き戦闘態勢に入る。
「捕まってもらうぞ」
「できるならな!」




