第32話 4つの目撃情報
タタラ市。
経済都市として知られるこの都市はあらゆる財閥企業が中心となって経済を動かしている、いわば財閥都市である。
「いや~全然見つからへんな」
「財閥企業に協力してもらっているのに手掛かりは1つだけか……」
東雲と酒井は中央公園のベンチに座り一休みしている。
特務機関に協力している有明財閥、柊財閥の両方の力を使っても手に入った情報は1つだけだ。
「白い軍服を着た”入れ墨”の男と包帯を巻いた着物姿の人物がシオン市の方向に行くのを見た……か」
「手掛かりがあったんはええんやけど、シオン市言うたら『鬼和番衆』がおるからな~」
シオン市、特務機関第一支部が拠点を置いている都市だ。
帝国の最先端技術が集められた場所であり、襲撃を受けた支部の中で唯一ムクロ隊を退けた所でもある。
ムクロ隊を退けたのは当時その場に居た『鬼和番衆』と言う特務機関の切り札部隊、その部隊がいる場所に向かったのであれば心配はないだろう。
「シオン市の方は鬼和番衆に任せるとしてだ、他の情報がないとなると……」
「ここにはおらへんやろな」
向こうも油断はしてない、手掛かりが1つ手に入ったのは良いことだが既に移動していると言うことは二度目の襲撃を掛けようとしていると読んでいいだろう。
「――し、、、しの、、――」
行き詰っていると無線から連絡が入る。
「――こちら酒井、東雲班。どうした――」
「――志藤班と八雲班です。ムクロ隊に関する情報を得ました――」
カルマ都市で捜索していた志藤班と八雲班から連絡が入る。
既に一つ情報を持っているが新しい情報かもしれない、こちらの情報と同じかどうか聞きながら照らし合わせておこう。
「――了解。どんな情報だ――」
「――2日前にカルマ都市にあるチェーン店にて白い軍服の人物4人が確認されました。1人目は顔に入れ墨の入った男、2人目は口元にマスクをした男、3人目と4人目鉢巻を巻いた男とゴーグルを掛けた男とそれぞれに特徴があったそうです」
顔に入れ墨を入れた男、今持っている情報と特徴が一致している。
他の3人に関する情報は初耳だが、これで4人全員の情報が手に入った。後はこの情報を元に各支部に共有、帝国中を探し回るだけだ。
「――こちらも似た様な情報を入手した。白い軍服を着た入れ墨の男と包帯を巻いた着物姿の人物がシオン市に向かったという情報が手に入っている――」
「――こちらの情報でも1人目の男は北西に向かったと言ってました――」
1人目の男は間違いない、ムクロ隊の奴だ。シオン市に向かったと言うことは次の襲撃場所を探していたと言うことだ。
そうなると残る3人もムクロ隊とみて間違いないだろう。
口元に無線を近づけ、残る3人の動向を聞く。
「――他の3人の行方はどうだ――」
「――2人目と4人目の男は南西にあるテンドウ市に、3人目は西にあるテンザイ府に向かっているらしいです――」
頭の中で地図を広げる。
帝都であるカルマ都市を中心に東西南北4つ全てに通じる道は都市部とされている。
西にはテンザイ府があり、そこからテンザイ府から見て離れた南東にテンドウ市がある、そして帝都東にあるタタラ市から北にシオン市がある。
今、この3つの都市にムクロ隊がいるとしてシオン市は支部に任せても問題ない。特務機関の切り札部隊がいる。
残る2つの都市テンザイ府に1つとテンドウ市に2つの部隊があるのであれば……。
(テンザイ府にいる4人に任せたいが……勝てるか?!)
テンザイ府には柊含める4名が現在捜索中だ。
あの4人は東雲の部下とは違い任務での実戦経験がほぼほぼない、家の名前や実力を疑っているわけではないが、いきなりの戦闘になれるかどうか……心配だ。
(全員実力や能力は1級ものだが、経験が少なすぎる……どうすべきか)
「――こちら志藤班、どうかしましたか?――」
「――いや、なんでもない。志藤班と八雲班は急いでテンザイ府に向かえ、俺達もすぐに向かう――」
「――了解――」
志藤班に指示を出し、無線の連絡を切る。
「大変そうやな」
「お前も行くんだよ!」
「わかっとるよ、それで時清くん達にはなんて指示出すん?たぶんやけど向こうもこっちの動向には気づいとるはずやで」
「わかっている」
相手もバカじゃない。特務機関に襲撃を掛けられるほどの策と邪陰を操るガラクの力を持っていて情報工作も上手い、そんな相手がのうのうと襲撃の準備をしているはずがない。
ポケットの中からもう一つの無線機を取り出し、柊達4人に連絡を入れる。
「――こちら酒井、東雲班。柊班、聞こえているか――」
「――こちら柊班です。どうかしましたか――」
反応から見て、まだムクロ隊とは遭遇していないようだ。
「――ムクロ隊に関する情報を志藤班達が入手した――」
「――彰さん達がですか!すごい!――」
わざとではないのだろうが時清の声からしてオーバーリアクションなのは感じられる。
「――その情報の中に白い軍服を着た鉢巻を巻いた男がテンザイ府に居ると聞いた、柊班はその男を探せ――」
「――了解です――」
無線が切れる音が聞こえ、無線機をポケットの中へしまう。
もし仮に柊班がムクロ隊との戦闘で全滅しかけても志藤班と八雲班が駆けつけられる。
ここからだと俺達は間に合わない、掛けられる保険は掛けた。後は到着するまでの結果次第だ。
「心配性やな~」
「お前はのんびりし過ぎだ、東雲」
「そう?まあ幼馴染やからそれくらいわかっとるやろ」
東雲とは物心ついた時から家が隣同士の幼馴染だ。
昔っからのんびりし過ぎなせいで色々な事に振り回されていた。
「だいたいお前は――」
「はいはい、お説教はあとでな~。テンザイ府に向かうで~」
性格とは裏腹に運動神経抜群な東雲は西へ向かって走っていく。
昔からそうだが説教が始まるタイミングになると飛んで逃げる所もなんとかしてほしい。
「はぁ……いつもこうだ」
若干呆れつつため息交じりに愚痴をこぼす。
長年の付き合いと言うやつか、あいつが待っている事は少ない。急いで東雲を追いかける。




