第28話 宣戦布告
今月中に30話まで書きたいなー、と思っているので書くつもりです。
白軍服の男の顔は、白い髭を生やした初老の男性という印象だ。
清潔感があり紳士や貴族と言っても違和感はないだろう。
「そうか『ガラク』直属の組織なのだな?」
「いかにも、ワシが『ムクロ隊』五番隊・隊長篠崎 悠馬だ」
篠崎は堂々と答える。
敵の本部に襲撃を掛けたと言うのに変わらぬ威勢にどこか余裕を感じる。なにかまだ手段が残っているかのような余裕だ。
「聞きたいことが山積みだな……」
「そう焦るな、我々が来たのは宣戦の布告とある物の要求だけだ」
「ある物……?」
突然現れ、襲撃した組織『ムクロ隊』の行動一つ一つに警戒する。
現状、外の資料館では襲撃を受けている。そして、既に内部に隊長である篠崎が侵入していると言うことはこの部屋以外にもムクロ隊の者が侵入していると見ていいだろう。
緊張感が高まる中、篠崎は目的を果たす。
「帝国の保有する『太古の遺産』をこちらに渡してほしい」
「っ!!」
(太古の……遺産?なんだそれ)
隣を見ると宗治達もわからないようだ。だが、東雲さんや副長官は険しい顔をしている。なにかやばい物なのか?。
「おや?皆さま御存知かと思っていたのですが……どうやらそうでもないらしいようですな」
「すみませんね、彼らはここに来たばかりなものでね」
「これはこれは、どおりで」
篠崎は彰たちを一瞥するとある物に目が止まる。それはフランから聞かされていた例の物だ。
「そこの君」
「……」
「君だよ、君」
「ん、あ、オレ!」
「そう、君だ」
自分に話しかけられているとは思っていなかった彰は驚きながら確認する。
無論、目の前の男とは知り合いでもなければ、たった今初めましての出会いをしたばかりの相手だ。声を掛けられる心当たりはない。
「腰につけている刀剣が『紅桜』かね?」
「さぁ、どうだろうな……」
(やばい、挑発するような言い方になってしまった……!)
教えるつもりはないと言う意味での言葉なのだが、間違えて「取って確認してみろよ」と言っているような挑発しているようにもとれる言い方になってしまった。
ムクロ隊はガラク直属の戦闘部隊だ、当然紅桜の事を知っていても不思議ではない。
「そうか……いやはや、初めて見たな。どれ見せてはくれないか?」
「はいそうですかと見せるわけないだろ……!」
手を差し出し見せるよう要求されるが当然断る。敵の言葉にそのまま乗るわけないだろ、それに今の状況わかってんのかコイツ。
「そうか……ならば、奪い取って確認するまでだ!」
先に緊張を解いたのは篠崎だ。腰を屈め、握りしめた妖刀に力を入れ契約の言葉を口にする。
「熱しろ・紫月蝶」
刀身から紫色の炎が舞い上がり無数の蝶が生まれる。
炎から生まれた蝶は部屋中で羽ばたき資料や椅子、机に触れると紫の炎へと変わり、新たな蝶を生み出していく。
素人目から見ても危険な能力だと言うのは一目でわかる。燃ゆる蝶が服に引火する。
「あっつ!」
「フハハハッ!さあ、どうす……る…」
高笑いをしていた篠崎は呂律が回らなくなったかと思うと、その場に倒れ込んだ。
その状況は見覚えがあった。東雲さんの方をみると妖刀を抜いており、見ているだけで視界が揺らぐ、どうやら能力を使用したらしい。
「すまんな、状況が状況やで使わせてもらったわ」
「よくやった……東雲、動ける者はすぐに侵入してきた敵を排除しろ」
「りょ…了解」
彰たちは指令室を出た後、二人組に分かれて侵入者を探し回った。
慣れない現場での捜索に初めは手こずるかと思ったが以外にも侵入者は見当たらなかった、と言うのも侵入者が現れてからすぐに戦闘が始まり本部に来ていた敵は皆殲滅したそうだ。
「オレ達の出番なかったな……」
「そうだね」
十兵衛と共に各階層を駆け回ったが既に戦闘は終わっており、残っていたのは傷ついた先輩達だけだった。
本部自体の侵入者がいないのを確認した後、外にある資料館へと向かった。資料館の方は被害が大きく、建物のあちこちが壊れており先輩たちの大半がそこに居た。
それでも侵入者は確認できなかった。
「いったいどうなってるんだ?どこに行っても侵入者なんていないぞ」
「軍人さん、軍人さん。もしかしたらだけど……」
――グバババババババ!!――
十兵衛がなにかを言いかけたその時、玄関の方で嫌悪感溢れる不気味な笑い声が館内全体に響き渡る。
「っ!」
「今のは……!」
「行こう、軍人さん!」
十兵衛と共に玄関へ向かう。
現場に到着すると、数名の偵察戦闘員の先輩たちがなにかに向かって構えている。
死角になっているせいで相手がなにかはわからないが概ね予想はつく。
(……?なんで先輩達、動かないんだ)
近づくにつれ、先輩たちが何故が棒立ちでいることに気が付く。てっきり戦闘が始まっているものだと思っていたのだが、全員体を震わせながらぶつぶつと何かを呟いている。
「っ!軍人さん止まって!」
なにかに気が付いたのか十兵衛の指示通り止まって、少し離れた位置から様子を見る。
「……まだ、死…にた」
(……っ!!)
なにかを呟いている隊員達をよく見ると皆、俯きながら血まみれで一定の方向に向いている。その異様な光景をもっとよく見る、すると視線に気が付いたのか全員がこちらに振り替える。
先輩たちと写り合うはずの瞳には目が無く、真っ黒な空洞から赤黒い血を流しながら見つめてくる。
それと同時に先程まで向いていた方向からドスン、ドスンと大きな足音が響き予想通りの者が姿を現す。
――グバババババババ!!――
3メートルはあろう大きさの子供の姿をした邪陰が頬を引き裂く勢いの笑みでこちらに向かってくる。
「喰らえ・紅桜」
紅桜を抜いて能力を使う、先手必勝と言うやつだ。
強化した身体能力で邪陰に向かって駆ける、一直線に向かってくる邪陰の足を赤い閃光が一撃で斬り落とす。
「沈め・村正」
倒れ込む邪陰の頭部を村正の一撃で叩き潰す。
ズドン!と大砲の様な音共に頭部が潰れたのを確認する、再起の余地がない邪陰はそのまま消滅していき、棒立ちしていた先輩達も崩れるように倒れる。
おそらく、死んでいるだろう。言葉を喋ってはいたが傍まで近づくと全員傷口が大きく中には潰されて死んでいる者もいた。
「多分、侵入者は”邪陰”だろうね」
「ああ」
どこに行っても侵入者がいなかったのは相手が邪陰で既に討伐された後だったからだ。そうなるとムクロ隊の本部組織であるガラク、そこにいるフランと言う男の仕業に違いない。
(フラン……あいつは一体何者なんだ)
正体不明の敵、そしておそらく紅桜をオレに渡るようにしたのもこの男だ。
いろいろと考えたいことはあるがひとまず、やるべきことは別にある。
「十兵衛、この辺りに敵がいないか探すぞ」
「うん!」
まずは襲撃を掛けたムクロ隊の捜索、周囲の索敵に徹することが重要だ。見過ごして隙を突かれて死ぬのなんて絶対嫌だからだ。
その場を離れようとしたとき、死んだ隊員が持っていたあるものに目がいく。
(これは……)
それはさっき配られた『邪陰記帳』のあるページを開いていた物だ。
中を見るとさっき倒した邪陰の写真と絵が記されており、上記に名前らしきものが書かれている。
「”暴喰落粛童”って、アレ危険な奴だったのか」
なるほど、と彰は感心する。
百鬼兄弟と戦ってきた彰たちにとってそこらの邪陰程度では既に驚かなくなっていた、比較対象がおかしいのは言うまでもないが修羅場をくぐり抜けた実力は既存の戦闘偵察員よりも強くなっている。
「とりあえず索敵が先だな、その後東雲さんに報告するか」
その日、特務機関は大規模な襲撃にあった。




