第26話 同僚
一応、第4章の途中までのサブタイトルと最終回のサブタイトルはできてます。
午後6時、駅前広場。
定刻通り広場に集合し特務機関本部へと向かう。
「ほな、だいぶ遅うなったけど本部へ行こか」
そう言って東雲さんの運転する車へと乗り、出発したが本部がどこなのかが未だわからない。外の景色を見る限り街中を走っているのは確かだ。
「本部ってどこにあるんですか」
「外の景色見とったらわかるで~」
外の景色と言っても先程から市街地を走っているだけで士官学校や軍事施設に向かっている訳でもない。いったいこの人はどこに向かって走っているのか、段々気になってくる。
(どこに着くんだ……)
車に揺られながら外の景色を眺めていると彩希さんが宗治に尋ねる。
「そう言えばアンタはどこに行ってたの」
「散歩だよ、散歩。そう言う彩希は?」
「私はずっと実家で手伝いしてたわよ、暇人のアンタと違ってね」
「はいはい、彰と十兵衛さんはどこに居たんだ」
彩希さんからの嫌味を軽く流した宗治はオレと十兵衛に聞く。
「俺はずっと軍人さんと一緒にいた!」
「十兵衛と一緒にデパートで時間を潰してた」
デパートで時間を潰している間、十兵衛はすごく楽しそうだった。
てっきり騒がしくなるものだと覚悟していたのだが、その心配はなくむしろずっと大人しくしており、映画を見ている時もおもちゃ屋に寄った時も目を輝かせるだけで騒ぎはしなかった。
「ふふ~ん♪」
十兵衛は嬉しそうに左腕に付けた新品の時計を眺めては時間を確認している。
(大人しくしてたご褒美に腕時計を買ったが、そんなに嬉しいか?)
大人しくしてくれたご褒美に腕時計を買った。もちろん十兵衛にだ。
十兵衛とは出会って数日のコンビだが、信頼関係はかなり築けている方だと思っている。これからも世話になるんだ、贈り物の1つくらいはしておいて損はないだろう。
「もうそろそろ着くで~」
すっかり話に流されてしまったが本部に着くらしい。前方の景色を見ると帝国の歴史物が展示されている『帝都大歴史資料館』があり、駐車場へ車を停める。
「ここが……本部?どう見たって歴史資料館なんですが」
「表向きはな、ここで説明すんのもあれやし、中に入ろか」
疑問を感じつつも歴史資料館へと入ると特に変わったことはない。
いたって普通の資料館だ。しいて言うなら大資料館と言うだけあって大きいくらいだ。
「はぐれやんように着いてきてな~」
言われた通りに後をついてくとエレベーターに乗り込む。「表向き」と言う事はきっとこの地下に特務機関本部があるのだろう。
そう思って乗り込むと東雲さんはカードの様な物を取り出しボタンの下にある差込口へと入れると地下1階を押す。
(やっぱ地下にあるのか、だとしたら一般人にもバレないか?さっきのカードはバレないようにする為のものなのか?)
考えれば考えるほどわからなくなるがこの時間が楽しく感じる。妄想が捗るというやつだ。
エレベーターが地下へと進むが1階では止まらずに2階よりさらに下、存在しない階へと進んで行く。
(地下か!やっぱり地下にあるのか!あのカードは地下施設にある本部に行くためのカードなんだな!!)
男心がくすぶられると言うのはどうしようもない物で冷静を装っても内心めちゃくちゃ興奮してしまう。小説や映画などでしか登場しない地下施設が帝国の特務機関と言う組織の本部、そう考えるとわくわくしてしまう。
「今回君たちの他にも4人の新入隊員がおるで仲良くしてな~、っともう着くで」
エレベーターの動きが止まり、ドアが開く。
目の前には廊下が横に伸びており、エレベーターから降りるとボタンの横の壁に全体地図が載っている。全体が6層にもなる円形の階で出来ており、それぞれの層について詳しくは書かれていないが迷子にならないためなのか階段の位置と部屋の位置くらいしか書かれていない。
「そんじゃ第6層に行こか~」
「「「「はい!」」」」
オレ以外にも興奮していたのか全員の声がいつも以上にやる気に満ち溢れていた。迷子にならない様に東雲さんについて行く。
――特務機関・本部。第6層――
第6層に着くまでの間、本部に居る警備の人に何度か検査を受け6層に着いたのだが長官が不在の為、急遽別件を当たっていた副長官が来るとのことで少しの間待機するらしい。
「ごめんな~、もう少し時間が掛かるみたいやからこっちの部屋で君たちの同期と待っとってほしいんやわ」
「「「わかりました」」」
「了解」
まだ少し用事があるのか東雲さんはどこかに行ってしまった。
「大変そうだな」
「あれがいわゆる中間管理職なのか」
案内された部屋のドアを開ける。
「「あ」」
中に入ると豪華に彩られた部屋と4人の人物がいた。
その顔は今朝、喫茶店でぶつかったメンツと同じ人物だ。その中の1人と目が合う、今朝ぶつかった相手だ。
「貴方は今朝ぶつかった人!」
覚え方が少し失礼だがオレも同じ認識だ。
少し背の低い銀髪の少年と言う印象の男は頭を下げる。
「今朝はすみません、僕の不注意で……」
「いえいえ、こちらの方こそ。まさか同期だなんて」
「軍人さん知り合いなの?」
「知り合いもなにも今朝ぶつかった人だよ」
「今朝……ああ!喫茶店の!」
十兵衛、お前覚えてなかったのか。
忘れていた十兵衛とは違い相手の方は覚えているのか、今朝の桃色の髪の少女が話しかけてくれる。
「まさか同期だなんて、運命を感じちゃいますね」
「そ、そうですか」
「はい!」
陽気に接してくる少女に思わず照れてしまう。
香水をしているのか少し甘い香りがする。軍服姿でも可愛くて陽気に接してくるとか、絶対この子モテるだろ。
「そういえば、自己紹介がまだでしたね。僕は木犀学園 高等部2年の柊 時清です」
「同じく、高等部2年の有明 円です。よろしくね」
(柊と有明ってどっちも侯爵の名家じゃねえか!?)
柊家と有明家は言わずと知れた帝国きっての名家である。どちらも財閥を保有しており、貴族階級は侯爵と言う最高位の地位である。
特に柊家は帝国御三家と呼ばれる程地位が高い。
(あれ?でも、前にあった時はもっと歳が上だった気が……)
「それでこっちが」
「京極 有馬だ。警察庁で警視をやっている」
「ワタシは真斗馬 辰巳です。真斗馬流剣術の師範をさせていただいてます」
奥で座っていた2人が自己紹介をする。警視と剣術の師範。どちらも戦闘面では頼りになりそうだ。
真斗馬流剣術は帝国四大剣技の一つであり、その師範と言うのなら物凄く強いのだろう。
「よろしくお願いします」
「よろしく」
「先に言っておく、敬語は使わなくてもいい。話したいように話してくれたらそれでいい」
「わかった!」
ガタイが良く身長が2メートルを超えていそうな黒髪の優しそうな辰巳さんと握手をする。
手を握ってみてわかるのはとても大きいと言う事だ。暗闇の中に現れたらクマと間違えるかもしれない。
目つきの鋭い黒髪オールバックの有馬も気さくな雰囲気で接してくれている。十兵衛も無邪気に返事をする。
「それじゃあ、こちらも自己紹介を、士官学校 4年の志藤 彰です」
「彰と同じ4年の八雲 宗治だ」
「志藤と八雲……って侯爵と伯爵の!」
「そうです、はい」
オレも宗治も一応貴族だ。宗治の家が伯爵でオレの家が侯爵だ。
これでも一応パーティーなどには出席しているが、柊家と有明家の跡取りは全員オレより歳が上だったはずだ。
「軍人さんって貴族だったんだ」
「俺も彰も実家が裕福ってだけだ、それ以外は普通だよ」
「一応オレも爵位は持ってるんだけどな」
貴族の爵位と言うのは少し複雑なもので当主には今の爵位を、次期当主にはその1つ下の爵位が与えられる。オレの爵位は子爵で親が伯爵、祖父が侯爵だ。宗治の家は親が子爵で兄の方が男爵のはずだ。
「彰さんは爵位を持ってたんですね」
「おさがりですけどね」
「実はボクも持っていて、同じ人がいて少し親近感が湧きました!」
「そうですか」
「僕の方は身内がごたごたしていて正式には決まってないんですよ」
「それは大変ですね」
(貴族あるあるだな、後継者争いか)
身内同士のごたごたと言うと次期党首の座をめぐっての争いだろう。
そうなると後継者が正式に決まらないのだ。
「なにか困った事があったら教えてください、出来る限りの事はしますので」
「いいんですか!頼らせてもらいますよ」
時清と軽く握手を交わす。名門貴族との縁は作っておいた方がいいだろう。
「紹介が少し遅れましたがこちらは」
「喫茶店 愛宕の看板娘、愛宕 彩希です。よろしくお願いします」
「俺は山田浅右衛門十兵衛!!またの名を十三代目山田浅右衛門と申す!」
こっちの話に入ってしまっていたせいで紹介が遅れてしまった。
「喫茶店愛宕の看板娘って愛宕さんの所の娘さんか、いつも仕事終わりによく利用させてもらっている」
「有馬さんですよね、いつもサンドイッチを頼んでくれる」
「覚えててくれたのか、今後ともよろしく」
「はい!」
どうやら2人は見知った顔だったらしい。
喫茶店に行ったのも、きっと有馬の提案なのだろう。見た目に反して中身は案外普通の人なのかもしれない。
「山田浅右衛門、ああ!御様御用と言う刀剣の試し切りをしていた!」
「そうだよ!水無月一刀流の所!」
「実は水無月一刀流と真斗馬流は交流がありまして、今後ともよろしくお願いいたします」
「うん!」
十兵衛も交流があったのか。というか十兵衛の家が水無月一刀流を教えていたなんて初耳だが?。
水無月一刀流。帝国四大剣技の一つであり、最も古い剣術だ。長い歴史が作り出した伝統ある剣術の為無形文化財に登録されているものだ。
(十兵衛のことをサムライだと思ったのはこれが原因か)
思い返せば踏み込みや剣の太刀筋を見てみると確かに剣術が用いられていた。
そう考えると妙に納得がいく。
――コンコンコン――
自己紹介が終わったタイミングでノックがし、扉が開くと東雲さんともう1人黒髪に紫のメッシュが入った男性が顔を出す。
「全員いるか」
「副長官が来たで、行こか~」




