第24話 動き出す影
――とある都市の地下施設。
上品な客室に飾られた地下施設、そこは裏社会が支配する闇カジノである。そこから通ずる隠し廊下にて、フランはワープホールの異能を持つ紳士な雰囲気を持つ仲間アルセーヌ・ジョーカーと共に他のメンバーが集まる一室へと向かう。
扉が見えてきた頃、部屋から女性の泣き叫ぶ声がする。
「またですか」
フランはボソッと呟きため息を吐く。呆れながらも扉を開け中に入る。
中へ入るとバニー服を着た美女が拘束され、その隣では中年のおっさんが青白い顔をしながら死んでいる。それを見た美女がぐちゃぐちゃに泣きはらしながら叫ぶ。
「どぼじでぞん”な”びどい”ごどずる”の”ー!!」
「そんな顔されると……好きになっちゃうじゃない」
美女の目の前には銀髪と黒髪をのハーフな髪を持つ顔の火傷が目立つ色白の美少女が、恍惚の笑みを浮かべながら愛おしそうに撫で見つめる。
「その絶望にうちひしがれ、何もできずに感情的になっている所がすごく、すごく、すっごく、可愛いよ」
恐怖と絶望に震え失禁するバニー美女に色白の美少女、已己巳己 巴重は愛をささやく。
「か~わいいよー、もっと絶望してアタシだけを愛してね」
「欲望を開放するのも大事ですがそろそろその辺にしておきましょう、巴重さん」
フランが巴重の拷問を中断する。欲望を満たすのは良いが部屋を汚されては掃除がめんどうだ。
巴重は残念そうに返事をする。
「はーい……」
拘束したバニー美女に手を当てるとおっさん同様、顔を青白く変色させたのち死亡する。
これが已己巳己 巴重の異能である。毒量の操作による死だ。
「貴方を助けるためにわざわざ殺し屋まで雇ったのですから下手を踏まないでください」
フランが百鬼兄弟に黎明監獄の襲撃を依頼したのはたった一人の最後の脱獄囚、已己巳己 巴重ただ一人を救う為だったのだ。
『地獄の拷問官』已己巳己 巴重。元・帝国機密尋問官。元々は帝国の暗部でスパイなどの尋問や拷問を担当していたが、過度な拷問の末に何人もの人物を殺害し意見してきた上官すらも殺害したことから黎明監獄にて死刑囚として収監されたいた。
「巴重くん、他の皆はどこにいるのかね」
「隣の部屋、アタシの愛がうるさいからって」
「悪いことではありませんが程々にしてくださいね」
そう言って隣の部屋へと入る。
中に入ると既に5名の全員のメンバーが待機している。
「遅かったな」
杖を持ったペストマスクの男がカッ!と杖を地に突き口を開く。
「少々厄介な状況になりましてね」
「それは目的に関係することなのか」
「ええ、ありますよ直人さん。率直に申しますと紅桜の適合者が見つかりました」
「ほう……」
男の名は入来院 直人。『救済の狂医者』の異名を持つ、元帝国軍医療部隊だった男だ。
マスクで顔は見えないが直人は興味津々と言った具合で顎の部分に手を当てる。
「それで紅桜はどうした」
「回収できませんでした」
「そうか、一筋縄ではいかなかったか。時利、貴様の情報は本当だったらしいな」
そう言って背後を振り返り、ソファーに座った青年に話しかける。
「俺は家にあった情報を教えただけだ、それ以外はわからん」
「いえ、貴方の情報は我々の計画において最も重要な役割を果たしてくれてますよ」
柊 時利。黒髪に黄金の瞳を持つ青年、帝国御三家の名門柊家の長男であり、元当主候補第一位である。現在は家を飛び出し、考古学者として活動している。
隣に座るもう一人の青年に時利は話かける。
「輝は知らないのか」
「……知らないし、どうでもいい。俺は恨みを晴らせればそれでいい」
有明 輝。桃色の髪に赤色の瞳、有明財閥の元次期会長であり、元特務機関偵察戦闘員である。特務機関所属時は『爆裂の魔人』の異名で知られていた。東雲とは同期であり、一番の出世頭でもあった。
「まあまあ、そう言わないでよ。私達は同じ目的を持った仲間なんだし、なにか知ってることはない」
「知らん。俺よりもお前の方が詳しいだろ」
「そんなこと言わずにさ~、教えてよー」
黒と緑が交差した髪色が特徴の少女が抱き着き絡む。
葉加瀬 調。邪陰の研究を独自にする研究員であり、それを知る特務機関からは『神秘の研究者』と呼ばれている。
「うるさい、旦那が起きる」
「あ、愛美ちゃん起きたんだ。今紅桜の話してたんだ」
「興味ないわよ。アタシは旦那といられればそれだけでいいのよ」
ソファーの後ろから下着姿の美女が現れる。
紫色の髪色に碧眼、肉付きのある体から漂う色気は大人の色気と言えるだろう。
寝ぐせの付いた髪で目を擦りながら足元にある綺麗な男性の遺体を抱きかかえる。
「愛美さん。この計画に貴方は必要不可欠なのです、どうか我々の為にもお力を貸してください」
フランは深々と頭を下げ協力を申し出る。
「アタシは旦那といられるならそれでいいわよ」
「ありがとうございます」
伊芸 愛美。現在も活動しているプロの歌手である。美しい顔立ちに綺麗な髪、バランスのいい体系を持った大人の女性と言った見た目をしている。その魅力に魅了される者が多く絶大な人気をはくしている。
頭を下げるフランに直人は気になっている事を尋ねる。
「それでボス。紅桜の力はどうだった、僕たちでも勝てそうか」
「能力的には不可解な点が多いですが、計画的には問題ありません。ですが」
先程までの柔らかい雰囲気から鋭い目つきになり空気が変わる。
「紅桜は我々の計画において脅威でもあります。そこで下部組織である彼らに出てもらおうと思います」
アルセーヌが異能を使いワープホールから7名の契約者が出てくる。
彼らの名はムクロ隊。全員が帝国とは違う白い軍服を着ている。
「彼らは我々の方で選別した契約者になります。紅桜は計画までに手に入らなければ諦めますが、重要なのは”太古の遺産”です。それが無ければ計画は破綻します」
太古の遺産。これこそがガラクの目的であり、計画の要でもある。
「それではムクロ隊の皆さん。場所を移動しましょうか」
部屋を出て隠し通路の奥の部屋へ向かう。
そこは入るな危険と書かれた張り紙がされており、場の雰囲気には似つかわしくない張り紙だ。
「皆さん。この中にあなた方隊長の部下、副隊長の方々がいます。仲良くしてくださいね」
フランが扉を開くと中には二人の人影と五体の邪陰が待機していた。
「期待していますよ」
帝国の裏でガラクと言う大きな影が動き出す。




