第22話 昨晩のできごと
――翌日。
「いってー、、、」
日が昇って間もない朝の6時、激しい頭痛と共に目が覚める。
昨晩、初任務遂行のお祝いと称して飲み会をしたのだが飲みすぎたせいで途中から記憶がない。
「飲みすぎた……これ絶対二日酔いだよな…はぁ……」
さんざん酔い加減にはボーダーラインを引いておこうと言い聞かせていたくせに二日酔いになるとは、これじゃ宗治になんも言えねえな。
「?なんでオレ裸なんだ。てか、いつの間に布団で寝てたんだ」
目が覚めると何故か全裸で布団の中に入っていた、大広間で宴会をしていたところまでしか覚えていないせいでここがどの部屋なのかわからない。
とりあえずかかっている毛布をどけ部屋を見る。
「…………」
辺りを見回すと脱ぎ捨てられた服がそこら中に散乱している。
なにがあったのかは知らないがロクでもない事が起こっているのは確かだ。
「っ!!!」
モゾモゾ。と隣で何かがうごめく。なにか嫌な予感がする。
大広間ではない個室。脱ぎ散らかされた服、全裸。記憶の無い朝。言葉だけ聞けばアウト、だが1つだけ救済の可能性がある。
(お、おちつけ。相手が宗治ならバカやって一緒の布団で寝たってだけだ、それ以外ならアウトだ!!)
宗治とは昔っから互いの家で泊まるくらいには仲がいい、一緒の布団で寝たりもした。今回はたまたま酔って昔の様に一緒の布団で寝ただけと言い聞かせることができる。もし違えば地獄の様な空気が流れる。
モゾとうごめく人物は毛布をめくり起き上がる。
「飲みすぎた、、、」
良し!宗治だ。間違っても十兵衛や彩希さんじゃないだけまだマシだ。もしあの2人ならこの先の空気が地獄に変わっていた。
「つかここどこだ?確か大広間にいたはずだが……」
「目が覚めたか」
「ん?彰…ってなんでお前裸なんだよ!?」
「それはオレが聞きたい。それよりお前昨日酒飲んだ後の事覚えてるか」
「なんでそんなに冷静なんだ……まあ、覚えてねえけど」
「そうか」
どうやら宗治も覚えてはいないらしい、となると2人揃って泥酔しこの部屋まで来て服を脱ぎ眠っていたと言う事だ……改めて考えるとなんで服を脱いだんだ。
「お前はどうなんだよ」
「覚えてない。だがオレの見立てが正しければバカやって服を脱いで布団で寝た、それだけ……のはずだ」
「なんで最後言い悩んだんだ」
ハッキリ言って確証はない。自分にそう言い聞かせているだけで間違って宗治とワンナイトフィーバーしたわけではないはずだ。証拠になるかはわからないが体のどこも痛くない。
「ん~」
「「…………」」
隣で何かが動く。なんだなにが起きている。
謎のうめき声と共に動くそれをオレと宗治が認知する。
一瞬にして静寂が流れる。同時に2人の脳内には嫌な考えがよぎっていた。
((ま、まだ誰かいるのか……!!?))
こ、この流れは非常に不味い。
宗治とのワンナイトフィーバー路線は完全になくなった。だが次にある可能性はもう1人巻き込んでいるってことだ!!。
もしこの相手が女性陣なら、俺達2人は間違いなく牢屋行き!!。
祝勝祝いの飲み会で過ちを犯して、なんてことは考えたくもない。だが現実問題として今、2人の間にはもう1人誰かがいるのだ。
(こうなったら……)
(直接……)
((確認する!!))
勢いよく毛布を剥ぐ。
そこにいたのは空瓶を抱きしめ今もなお酔い続ける東雲さんがいた。
「も~僕も飲めへんよ~」
「「…………ふぅー」」
張りつめていた緊張感が解け、肩の力が一気に抜ける。
そう言えばまだ残っていた男枠が。女性陣じゃないだけまだよかったが、それでも全裸の事実は変わらない。すると宗治が「あっ」と何かを思い出したらしい。
「そう言えば昨日酔っぱらった東雲さんに連れられてこの部屋で野球拳したんだった」
「あ~、なんかそんな記憶あるな」
昨夜、泥酔しまくった東雲さんの提案により借りている部屋で野球拳をした。
だから全員全裸だし、昨日の記憶もない。
「とりあえず」
「着替えるか」
謎は解けた。これにて一件落着だ。
脱ぎ散らかった服を着て1階へ降り、洗面所へ向かう。
蛇口をひねり出てきた水で顔を洗い洗面台の鏡を見る。
「なんだこれ、刺されたか?」
鏡に映った首筋には蚊に刺されたような跡がある。
特には気にせず顔を拭き廊下に出ると受付嬢さんとすれ違う。
「おはようございます」
「お、おはようございます」
目を逸らしながら何かを伝えたそうにもじもじとこちらを見ている。どうしたんだ?。
「どうしました?」
「その……」
頬を赤らめながら近づき耳元で囁く。
「昨日はありがとうございます。その、私も初めてで少し恥ずかしかったです」
硬直する。初めて……何が?恥ずかしかった?昨夜、なにかあったのか?。
恥ずかしかったのか顔を赤らめながら受付嬢さんはその場を去っていく。
「昨夜……」
昨夜のことは電話を終え、大広間に戻ってからの記憶がない。
(昨夜、蚊に刺されたような跡、恥ずかしかった……)
しばらくの間言葉の意味を理解できなかった、だがオレの意思とは反対に脳は理解を得ていた。
言葉の意味を理解し段々と青くなる。もしかして、やっちゃった……?え?オレ、昨日受付嬢さんとワンナイトフィーバーしちゃったのか!!??。
き、緊急事態発生!緊急事態発生!事件は部屋で発生したんじゃない!大広間で発生してたんだ!!。
「あの!!」
振り返るが既に受付嬢さんはおらず大急ぎで大広間に向かうと外の景色を眺める十兵衛がいた。
宗治は昨日の事を覚えていないし東雲さんはまだ眠っている、そうなると十兵衛か彩希さんに聞くのが一番だろう。
「なあ、十兵衛!昨日、受付嬢さんにオレなんかしてたか!!?」
「……知らない」
十兵衛は素っ気なく返す。
異常事態だ……。いつも明るく元気なあの十兵衛が今日に限って不機嫌だ。昨晩、起こった出来事がただ事ではないと言っている。
(あ、あの十兵衛ですらも不機嫌になるとは…昨日のオレはなにをしでかしたんだ!?。思い出せ!昨日なにをしてたか……だめだ、考えれば考えるほどわからなくなる)
ひとまず大広間を出て記憶を遡ろうと頑張るがなにも思い出せない。
くそっ!ワンナイトフィーバーの記憶すら無い、マジで昨晩なにがあったんだ!。
「おはようございます」
「さっきぶりだな」
思い出そうと必死になっていると向かいから宗治と彩希さんが歩いて来る。
ちょうどいい昨晩の事を覚えているかどうか聞こう。
「おはようございます。彩希さん、昨晩何があったか知りませんか」
「昨晩ですか?」
冷静を装って聞いているが内心かなり焦っている。
どうにかして知らないと。
「すみません、わからないです。私も昨日は酔いつぶれちゃって……」
「そう……ですか」
「どうした?なんかあったのか」
最後の希望がついえた。彩希さんと宗治は覚えていないし十兵衛は教えてくれない。
あとは本人に聞くしか……。
「おはようさん」
「東雲さん、おはようございます」
「おはよ、こんなところでどうしたん?」
「東雲さん……」
最後に現れたのは先程まで酔いつぶれていた東雲さんだ。たぶんこの人も覚えてないかもしれないが、聞いておいた方がいいだろう。
「今朝、受付嬢さんにあったら様子がおかしくて十兵衛に何があったか聞こうとしたら教えてくれなくて
……東雲さん、昨晩のオレがなにをしていたか覚えていますか」
「うん、覚えとるよ」
「…………へ?」
ここに来て救世主が現れた。
まさかまさかの東雲さんが覚えていてくれた、このチャンス逃すわけにはいかない。
「教えてください!」
「確か、酒が入りすぎて――」
――昨晩――
彰が戻ってから数時間後。大広間には悪酔いする彰と宗治、静かに酒を飲む十兵衛と東雲と酔いつぶれた彩希が騒いでいる。
「飲め飲め!まだまだあるぞ!」
「2日酔いとか関係ねえ!」
「二人共、よお飲むねえ」
「…………」
騒ぐ2人を止めるでもなく東雲は酒をたしなむ。十兵衛は隅で1人静かに飲んでいる。
酒をあおる中宗治は先程彰がどこかへ電話していた事を思い出す。
「そういえばさっきどこに電話してたんだ?」
「さっきか?んー、初恋の人」
「っ!ゲホッゲホッ!!」
「マジか!」
唐突な色恋発言に十兵衛は驚いて酒で咽る。
「その相手って今でも好きなのか~?」
「そうだな……好きだよ」
「おお~新鮮だね」
宗治はこの状況を楽しんでいる。
幼馴染と言えど彰から恋愛話を聞くことは無かった。なんならそういう相手がいても内に思いを秘めるタイプだと思っていたからだ。
酒が入った今、ブレーキを掛ける者はいない。
「告白はまだなんだよな」
「そうだな」
「相手は誰かと付き合ってたりするのか」
「それは知らないけど……」
「じゃあ、取られる前に練習するか」
「告白のか!?」
「当たり前だ。今の関係が崩れるかもしれないが、少なくとも定期的に連絡を取り合う中なら脈なしってことは無いだろ。それに他の誰かに取られたくないだろ?」
「そうだな!じゃあ練習するか!!」
先ほども言ったがブレーキはない。
それ故に悩むことが無い。普段なら励ますだけだが今は違う、もう告白する前提で話が進んでいる。
「練習相手はお前な!」
「いやだよ!なんで男に告白されねえといけないんだ!」
「じゃあ東雲さん?」
「僕もパス」
「あとは……」
十兵衛の方を見ると顔を赤らめ、チラチラとこっちを見ながら何故かもじもじしている。
お手洗いにでも行きたいのだろうか。
「失礼します」
ふすまが開き受付嬢さんが新しい酒を持ってきてくれる。
ナイスタイミング!運よく来てくれた受付嬢さんに告白の練習相手になってくれるか聞いてみよう。
「受付嬢さん!」
「は、はい!」
「少し、お時間をいただいても良いですか」
「いいですけど……」
「実は――」
「――って感じで何回も受付嬢さんに愛の言葉をささやいてたな」
「「「…………」」」
思い出した。
そう言えば昨日雫ちゃん向けに告白する練習相手として受付嬢さんに相手してもらって何回も口説いてたんだった。
思い出すと恥ずかしい。きざなセリフとかも言ってた気がする。てか考えてみたらクズみたいな行動してるな、オレ。
「まあ、その後自信が付いたとか言って飲みまくて、僕と一緒に野球拳して眠ったんやけどな」
「あ、ありがとうございます。おかげさまで全部思い出しました」
「そっか」
「とりあえず受付嬢さんに謝りに行ってきます……」
「気いつけてな」
その場を離れ廊下を探し回る。
やばいやばい、本人は特に気にしてなさそうだったけど酔っていたとはいえ練習で何度も口説こうとしていたのはクズ過ぎる。
しかも相手は出会って数日の人だ、もうすでに最悪な印象を持たれてるかもしれない。
しばらくすると受付嬢さんを見つけた。
「受付嬢さん、昨日はすみませんでした!」
「え、ど、どうしたんですか」
「酔っていたとはいえ練習で何度も口説こうとして……本当にすみません。昨日の事は忘れてください」
「そ、そのことなんですけど。わ、私てきには、その……う、嬉しかったので!だ、大丈夫です」
受付嬢さんは顔を赤らめ目線をずらしている。やばい、めちゃくちゃ怒ってる。
彰は怒っていると勘違いしているが、受付嬢は人質に取られた際に助けてくれたことや全力で鈍楽亭を守ろうとしていた彰の様子を見てまんざらでもなかった。
初めは告白相手に対して少し嫉妬していたが、口説かれるうちに嬉しさが勝ってしまっていたのだ。
こうして昨晩のことは思い出し受付嬢さんに謝罪したのだが、1つ疑問が残る。
(なんで十兵衛は怒ってたんだ?)
受付嬢さんならともかく、十兵衛が起こる理由がわからない。
そんなことを考えつつ大広間に向かうと全員が集まっていた。
「彰くん、丁度呼びに行こうとしとったんや」
「えっと、どういう状況ですか」
「連絡だってさ、軍人さん」
機嫌をなおしたのか十兵衛が話しかけてくれる。
怒っていた理由はわからないが、まあ良しとしよう。
「全員揃ったな。そんじゃ説明するで、この間僕が不在やった時に本部から新人隊員全員の招集がかかった」




