第21話 初任務の宴
予定変更で24話で序章は終わります。
あの後、本部の応援が駆けつけて音宗は連行されていった。兄の龍宗は最後の一撃が致命傷となって死んでいた。倉庫で拘束されていた脱獄囚も1人を除き全員死亡。
その後の取り調べによって明らかになったのはあの男の名前がフランと言うことと所属している組織が『ガラク』と言う事だけ、それ以外は何も知らなかったらしい。
この日街に人がいなかったのは、いくつかの犯罪組織に脅されて避難していたらしい。それも元をたどると百鬼兄弟に行きついたのだが。
結局『ガラク』の目的もわからぬまま『百鬼兄弟襲撃事件』は幕を閉じたのだった。
この事件は特務機関の圧力によって『廃工場爆発事故』と言うことで小さく報道されたらしい。
百鬼兄弟と戦ってからの2日間、色々大変だった。
損壊した住宅地の建て替えや修繕費、協力してくれた鈍楽亭の感謝と謝罪、圧力をかけるための人員の動員など事件の隠蔽にかなりの時間と予算がかかったが東雲さん曰くこれでもかなり早い方だとか。
まあ、なんにせよこれで初任務は終わりだ。もうこんな仕事はもうこりごりだ、早速東雲さんにやめることを伝えようかと思ったのだが……。
「それでは事件の解決を祝って乾杯!」
「「「乾杯!!」」」
「か、乾杯」
午後19時、復旧した鈍楽亭の大広間にて何故かオレ達5人は飲み会をしていた。
いやまあ、何故って理由はわかってるけどさ。
百鬼兄弟の一件は特務機関内でも相当な問題だったらしく、その解決祝いとして本部からボーナスとお祝いの品が送られてきたらしい。それでこの数日間の頑張りをたたえての飲み会らしい。
「色々大変だったけどなんとなったね。軍人さん!」
「あ、ああ」
(い、いえねー!実はもう仕事辞めたいですなんていえねー!)
この空気でいきなり「オレ仕事辞めて士官学校戻りたいです」なんて言えねえ、てか許可すら降りねえと思う。
「どうした?元気なさそうでけど、どこか具合でも悪いのか」
「いや、ちょっと考え事しててな……」
「考え事か……どんな事考えてたんだ」
「それは、ちょっと言えないかな」
さすがに言いずらい、宗治ならともかく相棒の十兵衛や上司の東雲さん相手だとな…。なにか含みのある言い方になってしまったが十兵衛はさほど気にしていないようだ。
会話の内容が聞こえていたのか宗治が近づいて来る。
「彰!今くらいは悩み事なんて忘れて楽しもうぜ!」
「……それもそうだなって酒くさっ!お前飲んでるだろ!!」
「ん?ああ、飲んでるぞ」
絡んできた宗治をどかそうとするとアルコールの匂いが鼻をつく。一応成人しているから大丈夫なのだが酔っぱらうラインをわかっているのかが心配だ。
2日酔いとか洒落にならん。
「酔い加減には気をつけろよ」
「大丈夫だって、俺酒に強いから!」
嘘である。コイツは昔酒を飲んで泥酔したところをオレに介抱された経験がある。当時は未成年だったから親にバレないように宗治の兄に協力してもらい家に運び込んだ。
次の日は2日酔いで学校を休んでいたがな。
「東雲さんなんて、もうあんなに飲んでんだぜ」
指さす方を見るとお祝いの品として送られてきた酒の2割を飲み干し、現在焼酎1本を飲み干している化け物がいた。
「うわっ」
「あれに比べたらマシだろ」
「確かにマシだが……」
そういう問題ではないと言いたいが、あれじゃ言えることも言えねえ。たぶん話も聞けねえ状態だから辞めたいと言っても忘れてるだろうな。
「それに、こんな仕事だ楽しめるうちに楽しもうぜ」
その言葉を聞き改めて考えてみる。
確かに死ぬのは怖いがそれはこの仕事に就く限りどこに行ったって同じだ、一般の軍人として生きていたらこんな力や経験は持たない、特別な経験だ。
それなら十兵衛や宗治たちの様に今を生きて楽しんだ方がいいかな。
「そうだな……よしっ飲むか!」
「そう来ねえとな!早くしねえと飲み干されるぞ!」
「おうっ!…てか彩希さんは?」
「そこで潰れてる」
「デヘヘ…」
床を見ると泥酔した彩希さんが空瓶を持って寝っ転がっている。
潰れるの早すぎだろ……。
「彩希さんお酒弱いのか」
「本人は強いと思ってるらしいが、見ての通りだ」
過信とは実に恐ろしい。こうも簡単につぶせて見せるのだから酒を飲むときはある程度のボーダーラインをつけておこう。
「っとその前にちょっと電話してくる、先飲んどいてくれ」
「早く戻って来いよ」
大広間を出て廊下にある電話機を使い、あるところへ電話を掛ける。
「――もしもし、雫ちゃん?」
「彰くん」
受話器から聞こえるのは透き通った様な美しい声色。
音宗と戦った時に思い出していた少女だ。
「ごめんね、ちょっとごたついてて」
「気にしなくていいよ、私彰くんと話せるだけでも嬉しいから」
雫ちゃんは優しい子だ。昔っから変わらずに接してくれる。
「それで今日はどんな話を聞かせてくれるの」
「実はな、数日前に――」
「フフッ♪」
それから連絡できなかった数日間のことを雫ちゃんに話した。
特務機関や任務の事は喋っていないが、少し早めの実技が始まって今は遠征に出ている事にしてそこで事故が起きたことにしておいた。
「それで新しい友達ができたんだ」
「新しい友達……どんな友達なの」
「サムライみたいな友達で、あと幼馴染とも会ったんだ」
「幼馴染って……私とは別の、幼馴染?」
雫ちゃんは今の実家がある場所の前に住んでいた家の幼馴染だ。引っ越した後は宗治が幼馴染になったが、オレにとっては2人とも幼馴染だ。
「そうそう、引っ越した後の」
「…………そう」
電話から聞こえる声のトーンが少し下がったような気がする。
「どうした?なんか急に元気なさそうになったけど」
「大丈夫だよ。なんでもない」
「そう?」
なにか少し引っ掛かる、この話題は少し控えよう。
となると後は……。向こうの近況だけ聞くか。引っ越してから忙しくて十年近く会えていない。
「おじさんたちは元気そう?」
「う、うん、元気だよ。パパもママも頑張ってくれてる」
「そっか」
「じゃあ、私そろそろ寝るから。またね」
「ん、また」
ガチャリと受話器を戻し、電話を切る。
「さてと戻って飲むか」
大広間に戻ると既に泥酔している宗治が絡んでくる。
「遅かったな」
「すまんすまん、オレの分ってまだある?」
「あるぞー」
残っている酒を飲み、その日は全員泥酔して一夜が過ぎた。
――廃病院――
誰もいない廃病院で少女は病室で1人先程の会話を思い出しながら胸元をグッと握る。
「彰くん……」




