第2話 サムライとの出会い その2
顔を上げたサムライはニヤっと口角を上げ笑顔をこちらに向ける。
(な、なんだコイツ……)
いきなり現れたかと思ったら一瞬にして武装していた男を斬り、平然と話しかけてくる。
一般人であれば、いきなり人を真っ二つに斬るなんてことはできない。つまり人斬りもしくは、そういう関係の人物かもしれない。ただ敵ではなさそうだ。
だが、今の時代に刀……なぜ?。
「?軍人さんだよな、あんた?」
サムライが首を傾げる。
「ああ、一応そうだが……君は?」
「俺は山田浅右衛門十兵衛。またの名を十三代目山田浅右衛門と申す」
「は、はあ」
「今日アンタに合う予定の奴って言えばわかるか」
山田浅右衛門。聞いたことがある御様御用と言う刀剣の試し切りをしていた家系であり、過去には帝国の処刑人を担当していたことから人斬りと呼ばれていた一族だ。
昨日、理事長から聞かされたある人物と言うのはコイツのことなのか。というか、よく見たら綺麗な顔してんな。
「君が理事長の言っていた人か」
「そうだ!」
元気良く返事をする。
その声色からは人を殺めた恐怖などみじんも感じない。こっちは未だに体の震えが止まらないと言うのに。
そんなことを気にしていないのか、先程から十兵衛は何かを探すようにこちらを見る。
「なあ、刀はどうしたんだ?」
「刀?」
なんの話だ。もしかしてだけどコイツ……。
(刀が主流の武器だと思ってんのか!?)
銃が発明されてから数百年、技術革命も起こり時代は刀剣から火薬へと移っっている。だが、一部の閉鎖的環境では未だに時代が追い付いていないこともある。もしかすると十兵衛はそう言うところで育ってきたのかもしれない。だとしたら困った、これからの仕事に支障が出るかもしれない……。
「貰っただろ?」
「……へ」
「あの、おっさんから」
「もらってないけど……」
どうやら予想とは違うらしい。もらうと言うから察するに刀は支給品だったりするのでは?。オレ、まだ貰ってねえよ……。
「いやーごめんな、二人共。残りの奴、片づけとったら遅れたわ」
十兵衛の後ろからトイレに行っていた東雲さんが刀袋と血まみれの刀を握り帰ってきた。返り血を浴びて。
「お、来たか。おっさん」
「あはは、十兵衛くん。僕まだお兄さんや」
表情こそ笑っているが、目が笑っていない。
(ぜったい、怒ってるな)
「ほな、避難やら遺体の回収やらして運行開始したら、説明しよか」
――半日後――
左腕と腹部に銃弾を受けたオレは応急処置をしてもらい。
無事だった駅員さんに最寄りの街まで行ってもらい軍に救助要請をしてもらっている間、かろうじて繋がっていた列車の乗客を救助し、再び運行可能になるまで半日かかった。
(もう、疲れた……)
隣を見ると十兵衛もぐったりとしている。
急な出来事に巻き込まれたうえ半日も崖の上で待たされれば疲れも増す。
「着替えが無かったから、この格好で説明するで」
(鬼か!この人は!!)
返り血の付いた格好で東雲さんは言う。
着替えが無かったと本人は言っているが、そのせいで余計に鬼っぽくみえる。
「その前に自己紹介から始めよか、僕は東雲 金司”おっさん”じゃなくて、”お兄さん”やでよろしくな」
だいぶと気にしてるのだろう。最後だけ強めに言っていた。
「俺は山田浅右衛門十兵衛!!またの名を十三代目山田浅右衛門と申す!」
「帝国士官学校 四年 志藤 彰です」
流れに沿って自己紹介をするが応急措置をしたとは言え、痛いものは痛い。
痛みを我慢しているせいか少し声が低くなる。
「そんじゃ彰くん。今から任務の内容について話すけど、彰くんは幽霊とか妖怪って信じとる?」
「は?」
いきなり何を言い出すんだこの人は。
任務の話かと思えばオカルトを信じてるかとか、ついに頭でもいかれてしまったのか?。
「ああ、これ一応任務と関係ある話やで」
「いないんじゃないですか」
オレは基本的にオカルト否定派だ。
技術が進化して便利なものが増えた現代においてお化けや妖怪など幻覚や見間違いと言えるからだ。
もし、仮にいたとしても発展した文明が負けるはずないだろう。けっしてオカルトの類が”怖い”と言う訳ではない。けっしてだ!!。
「そやんな、普通はそう思うよな。でも、これから着く任務は”そういう”関係の任務や」
「えっと、妖怪退治をしろってことですか」
「そういうこと」
やはり昨日から現実味の無い事ばかりだ。
学園長に呼び出されては変な仕事を任され、次の日には列車テロに巻き込まれ、変な仕事が妖怪退治……。もう、散々だ。
色んな出来事に頭痛がし、頭を抱える。
「その妖怪の事を僕らは『邪陰』って呼んどる」
「その邪陰ってなんですか……」
東雲さんは胸ポケットから一枚の写真と切り取られた新聞を出す。写真には人とも動物ともつかない禍々しい化け物が写っていた。
合成にしては上手なその写真におもわず震える。
「これは君たちの数か月前、君たちの前任者が撮った写真や。見ての通りこの化け物が邪陰や」
「”前任者”ってことは」
「撮影した子たちはこれを持って、無残な遺体で見つかっとる。痕跡的に邪陰に食われたんやろな」
(い、いやだああぁぁ!!)
前任者が化け物と戦って死んだってことはこの任務、通常任務より危険じゃねえか!!。だからこその重要任務なんだろうけどさあ!。
「ただ、これだけやったら僕たちが対処するで問題は無い。問題はこれが”人為的”に起こったってことや」
「誰かが裏で操っているってことですか」
「そういうこと。その相手もこれに載っとる」
手渡された新聞にはある事件について書かれていた。そこには血まみれの監獄と看守の遺体の写真が載っている。
日付を見るに去年の出来事だろう。
「相手は百鬼兄弟っていう二人組で、そこに載っとる『黎明監獄襲撃事件』で8人の看守を殺して7人の脱獄犯を出した指名手配犯や」
百鬼兄弟という指名手配犯がいて、裏から糸を引いている事だけはわかった。
だが一つ疑問に思うことがある。
「前任者は邪陰に殺されて亡くなったんですよね。なんで、指名手配犯が裏で糸を引いているとわかったんですか?」
「それは――」
プシューッ!!――
機関車の排気音が静かに響く。タイミング悪く着いてしまった。
「っと着いたで、そのことについては明日話すよ~。」
東雲さんは荷物を持って降りていく。
ふと、隣を見ると十兵衛はよだれを垂らして眠っていた。どおりで先程から静かだったわけだ。
(寝てたのかよ)
任務の説明で寝ていられるその図々しさを少し羨ましく思いながらも、位置的に起きてもらわないと困るので。
十兵衛の肩を揺さぶり、起こす。
「着いたぞー」
「*~んあ?。もう」
「そう。だから降りてくれ」
「っ~~~、わかった」
眠たそうに目を擦り、荷物を持って降りて行く。あの様子だと話は聞いてなさそうだ。
どんだけ熟睡してたんだよ。
――獨録街――
列車を降りて目的地に到着する。
獨録街。
帝国第二都市、テンザイ府から少し離れた場所にあるスラム街。
――各地方から上京してきた者達が落ちぶれて行きつく先。治安は帝国一悪く、日常的に暴力沙汰や殺人が行われている。
そして獨録街に行く者は基本的に公務員か裏社会の者だけである――。
(い、一番治安の悪いところに来ちまったああぁぁ!!)
寒空の下、心の中で絶叫する。
場所だけで言えば十数年生きてきた中で最も最悪な場所だ。単なるスラム街程度なら問題は無いが、前述の通り治安が最悪なのだ。
駅から歩いて徒歩30分。
住宅街にある『鈍楽亭』と書かれたボロボロの小さい旅館へとたどり着いた。近くには移動式屋台や薄暗く灯った店がある。
「ここが君たちの活動拠点や、一時的なもんやけどな。任務に必要な連絡とかのサポートは僕がするで。まあ、困った事があったら聞いてえな~」
そう言うと東雲さんは番号札の付いた部屋の鍵を2つ渡し、荷物を持って別の部屋へと行ってしまった。
(マジで……どうなるんだろ)
春を終え、少し気温が上がってきた5月半ば。平凡だったオレの人生で最も忙しく苦労の絶えない特別な物語が始まった。




