第18話 夢
予定ではあと5話で序章・百鬼兄弟編が終わります。
「うおおおおおっ!!」
天樂の攻撃を紅桜で弾きながら突っ込んでいく。
「電気符号:音声・終了!」
黒く染まった衝撃波の音を紅桜で受け止める。
音声・終了は音宗が使う異能の中で一番の殺傷能力を持っている。その威力は重音の倍以上あり、異能の刃・電撃音衝波の切り札でもある。
「ぐっ!」
勢いに押され距離を取る。
(今の攻撃は今のオレじゃ受けきれないな)
紅桜を使いこなせるとは言え仮契約をしてまだ数分である、能力が未知数とは言え彰自身の限界はある。音宗はそこを狙っているのだ。
(いける!この勢いなら!!)
「電気符号:音声・重音!」
破壊力のある重音で体力を削りに行く、消耗戦だ。
「このままじゃ……」
消耗戦になれば彰自身の限界が来る。そうなると、負けるのは目に見えてわかる。
「あっちは大変そうだな」
「降りてこい」
「降りるわけないだろ」
彰が焦りながら戦う中、十兵衛と龍宗は睨み合っていた。
「このまま睨み合いをするつもりか!」
「いや、お前の隙ができるのを待つ それだけだ」
両者の間に静寂が流れる。どちらかが突っ込めば隙ができる、その瞬間を互いに狙っている。まるで猛獣が獲物を狩るように睨み待ち構える。
「はぁ、はぁ、はぁ……」
「なかなかやるじゃねえか」
彰は音宗の攻撃をかわし受けきった。そのせいで体力は消耗し息は上がっている、ここに至るまで暴走を繰り返し蓄積されたダメージから見てそろそろ限界だろう。
(なんでだ、何故オレは狙われているんだ……)
彰はずっと疑問に感じていた。ここまで強い百鬼兄弟が特務機関を襲撃せずに黎明監獄を襲撃し、こんなスラム街でゲリラ戦の様な事をしていたのかがわからなかった。
慎重と言えばそれまでだが、影で生きる殺しの依頼を受ける者がこんなリスクを負ってでもする仕事とは思えない、ならそれとは別に目的があるような気がした。
「なあ、なんでオレは狙われてるんだ」
「それは教えないといけないのかよっ! 奏でろ・天樂!」
紅桜で攻撃を弾く。
相手は答える気はなさそうだがどうしても理由が知りたい。オレを、紅桜を狙っている理由が。
「残念ながら教えられない、依頼だからな」
「秘主義務ってやつか」
「そうだ」
「乗り換える気も降伏する気もないか」
「ない」
どうやら覚悟は固いらしい。裏社会の信用がかかっているのか殺し屋としてのプライドなのか、どちらにせよ依頼内容を聞くのは難しそうだ。
「そうか、じゃあ最後の質問だ。何故その依頼を受けた」
「……教えられない。だが、しいて言うなら報酬が魅力的だったからだ」
「報酬か……それだけか。それだけのためにこんな危険な依頼を受けたのか」
「”それだけ”だと……!!」
なにか堪にさわったのか青筋を立てキレ始める。
「俺達兄弟が望んで止まない”平和な幸せ”がそれだけだと……ふざけんじゃねえ!!」
「ぐっ!」
怒りをぶつける様に遠距離から近距離に攻撃を切り替え斬りつけてくる。
いきなりの切り替えに防御するが勢いがつきすぎて体が飛ぶ。
「奏でろ・天樂!」
「不味い!」
空中を転がる中すかさず能力で追い打ちを掛ける。
地面に紅桜を突き立て姿勢を変え、飛んでくる音の塊をかわす。攻撃は背後にあった瓦礫にぶつかり破裂する。
「腹が立つ、お前達みたいな死への恐怖も知らないガキ同然の奴らに説教されるのはな 俺たち兄弟が今までどれだけ苦労して生きてきたか知りもしねえくせに……」
「確かにオレはお前たちがどう生きてきたかは知らない。だが、それはお互い様だろ」
「なんだと」
「お前だってオレがどうやって生きてきたか知らないだろ、それと同じだ。 皆が皆そうだ、誰だって相手の人生を全て知っているわけではない。だから簡単にものが言えてしまう」
人生なんてものは生きてきた本人にしかわからない、自分をよく知っているのは自分自身だ。
相手の事なんて気に掛けない限り知ろうともしない。だからこそ簡単に言葉が出る。
「それがなんだ!それだけで俺達の夢を……」
「オレは死にたくない。お前からすれば仕事だから”それだけ”と思うかもしれないがオレは生きたい。だから死なないため……殺されないために戦う」
相手の事を知らないのは音宗も同じだ、彰の人生だって知らない。だから侮辱とも受け取れた”それだけ”のことと言う言葉を口にできる。皆が皆、完全に知っているわけではないのだ、お互いの事を。
「……そうだな、俺だってお前の事は知らないし知ろうともしない。 だが俺達からすれば夢にまで見た物なんだ!それを手に入れるために死んでもらう! 電気符号:音声・重音!!」
「くっ!」
衝撃波を斬り前へと突き進む。
決着をつけに行く、これ以上は体力的にも肉体的にも限界だ。作戦を考える余裕はない。最後に紅桜を使い真正面から叩き潰す、それだけだ。
「喰らえ・紅桜!」
「お前がどうなろうと俺達兄弟は夢が欲しい!手に入れてやるんだ!」
「オレも死にたくないから戦う、お前達百鬼兄弟がどんなに夢が欲しくても!」
プラズマ状のマイクを出し、コードを妖刀天樂と繋ぎ合わせ能力と異能を組み合わせる。来る、異能の刃だ!。
「奏でろ・天樂!!。 電気符号:音声・終了!!」
――異能の刃・電撃音衝波!!
最後の攻撃が一点に集中する。
「俺達はお前達とは違う!お前たちの様に生まれた時から平和なんてものはなかった!!」
百鬼兄弟は貧民街の最底辺として生まれ自分たちなりに頭を使い、命がけで最も稼げる殺し屋を家業にしていた。
彰たちの様に子供の時から両親はおらず、肉親は自分たち兄弟だけだった。
「だから勝たなきゃいけない!幸せな、平和な日常を手に入れるために!!!」
音宗は求めていた。兄との平凡で殺しをしなくても良い平和な日常を、死んだ奴らが言う「死にたくない」と言う言葉、全てが嫌になる。だからこそこの依頼の報酬である”平和な日常”を兄と得るため全身全霊の渾身の一撃を放つ。
「それなら!」
紅桜で渾身の一撃を受けそのまま紅桜を手放し体をひねる。
拳を強く握りしめ大きく腕を振りかぶる。
(コイツ、紅桜を手放して……!?)
「オレだって幸せな日常が欲しい!あの子と一緒に居る平和な……昔みたいな日常が!!」
脳裏によぎるのは昔よく遊んだ幼馴染の顔だ。
宗治と出会う前、引っ越す前に住んでいた田舎で出会った幼馴染。その子にもう一度……。
「欲しいんだ!!」
「ぐはっ!」
振りかざした拳は音宗の腹部に入る。
避けることも防ぐこともままならず受けた一撃が食い込み、勢いそのまま吹き飛ばされる。
「音宗!」
「こっちを忘れるな!沈め・村正!!」
「くっ!狩れ・竜騎士!!」
一瞬の隙を逃さず十兵衛は地面を蹴り上げ空高く蹴り上がる。
竜騎士の能力でまっすぐ突っ込む。地面に降りれば負けは確実、ならばこの空中戦こそが最後の決め手にして全ての決着だ。
村正と竜騎士がぶつかり一度動きが止まる。
(ここだ!ここで決めるしかない!)
「時間制限!!」
この一瞬の隙、これがすべてを決める。
龍宗はすかさず異能を使う、その時月明りが十兵衛の背後を照らし自身の最大の失態を理解する。
「なっ……」
「読めてるよ――」
照らす明かりの下には無限に続く闇がある。光と影。
一撃目の時点で勝敗は決していた。致命傷の龍宗に竜騎士を完全にコントロールするほどの力は残っていなかった、だからまっすぐ突っ込み異能を使う為竜騎士をぶつけた、その時点で一瞬だけ全身は十兵衛の影に覆われていた。
村正は影に沈み、全身の体重は重力にそって落ちていく。
――異能の刃・沈殿影法師!!
「グハァッ!!!」
契約者ならなんてことの無い高さだ、だが重くのしかかる影が星の重力にそって落ちた勢いでダメージが入る。
「クソッ……が……」
最後の敵、百鬼音宗が地面に突っ伏す。
「ハァ、ハァ、任務完了……!」
十兵衛と彰は能力を解き地面に刃を突き立てる。




