第17話 上司参戦
「俺の大事な家族を攻撃すると言うことがどういうことなのか教えてやるよ」
普段の冷静さを忘れ、キレる。
口調は変わり、斬り落とされた腕の痛みなど忘れ、ただただ怒りに溢れる。
「時間制限!!」
今までとは比べ物にならない速さに加え、怒りの感情によって体から漏れ出る熱が攻撃の手を加速させる。
「ぐっ!うっ!かはっ!」
紅桜で強化されているとはいえ、ボロボロなうえ早すぎる攻撃に上乗せされた熱のダメージは火傷するように痛い。
「軍人……さん……」
「お前、さっきより弱くなっているな」
「ぐっ!がはっ!おえ!」
「どうでもいいがな」
攻撃の手は緩めない。
彰は紅桜を使いこなす代わりに暴走状態より弱くなっている。これは紅桜の本質である狂暴な力を抑え込んだ反動だからだ、彰自身もそのことは理解している。
「沈め・村ま――がっ!」
動きを止めようとする十兵衛の村正を蹴り飛ばす。
「お前はお前で邪魔だ」
「喰らえ・紅桜!」
「時間制限」
十兵衛に意識が逸れた瞬間、紅桜の能力を使う。
受けたダメージを回復させる。未知数の力が宿る紅桜を警戒して龍宗は攻撃をかわしながら攻めて行く。
「ぐはっ!」
「お前の攻撃はもう当たらない」
「喰らえ・紅桜!」
「っ!」
さらに能力を上乗せにして身体能力と再生速度を上げる。
この速さの攻撃を常人が受けていたのなら一撃で致命傷になっていただろう、宗治がいなくて良かったと心底思う。
「まだやるか、面白い」
「喰らえ!紅――」
「させねえよ!」
強化しようとする彰に追撃の蹴りを撃ち込む。これ以上強化されれば状況は不利になる、そう判断したのだが蹴り入れた足が動かない、紅桜で強化された彰が掴んでい居るのだ。
「っ!」
「読めてたぞ」
「ぐあああっ!!」
掴んだ足を握りつぶす。お菓子の様に折れたその痛みは想像するだけでゾッとする。
あまりの痛みに絶叫する。契約者とて元は人間だ痛覚は人並みにある、身体能力が高く邪陰の一部を封印しただけのただの人間だ。
「奏でろ・天樂!」
「ふっ!」
「俺を忘れてんじゃねえ!!」
「っ!!」
「電気符号:音声・重音!!」
飛んできた音の塊を斬ると追撃の攻撃が来る、音宗の重音に彰は吹き飛ばされる。
「兄貴、大丈夫か」
「大丈夫なように見えるか」
「ごめん、俺のせいで……」
「気にするな、弟を心配するのは当然のことだ。 それよりお前は適合者と戦え、俺はあのサムライと戦う」
「おっけー!」
「狩れ・竜騎士」
龍宗は能力を使い空へ飛ぶ。
片腕欠損、片足骨折の龍宗に彰と戦えるだけの力は無い。そうなると必然的に相手は決まる。
空中戦のできないサムライこと十兵衛と、ダメージの少ない弟は適合者と戦う。
「決着を就けようか、適合者たちよ……」
その言葉を合図に2人は契約言葉を唱える。
「奏でろ・天樂!!!」
「喰らえ・紅桜!!!」
彰と音宗が相対する――。
――邪陰の群れ。
「倒しても倒してもキリがないんだけど……」
「くそっ、これじゃ彰たちが終わらせる前に死ぬぞ……」
魑魅魍魎の百鬼夜行。
倒しても倒してもキリがない、次から次に新しく増えて行く。まるで誰かが増やしているのではないかと疑えるほど数が多い。
「とにかく倒さないと……放て・レーヴァテイン!」
「泳げ・濡れ燕!」
――ヴギャグォジャアァァッ!!。
レーヴァテインで襲い掛かる邪陰を薙ぎ払い、邪陰の能力で生み出された電撃を濡れ燕で無効化する。
それでも数は一向に減らない。攻撃を防ぎ倒しても勝機が見えない、このままだと本当に死ぬ……!。
「ほんと、どうなってんだ」
「宗治っ!!」
「しまっ――」
大型の虫の腕が来る。今日1日の戦闘、作戦変更の対応、数多の邪陰との疲労から油断した。
契約者でもない俺がこの攻撃を受ければ次に来るのは良くて死か邪陰の群れの中だ。反応はできない凝視することしかできない。
「――よっと」
――ヴァギャアアっ!!
死を悟ったその時、見覚えのある黒い軍服が邪陰を一閃に斬る。
「「東雲さん!」」
「助けに来たで~宗治くんに彩希ちゃん」
東雲さんがいつもの様に気さくに話す。
理解が追い付かない。旅館にいた東雲さんが偽物で本物と入れ替わっているのまでは理解できるが、何故本物が今ここに居るのかまではわからない。
「支部に情報受取に言っとる間になんか大変なことになってるなあ。……どうしたんや?僕の顔なんかついとる」
「東雲さん……であってるんですよね」
「?他にだれがおるんや」
「いや、さっき会った東雲さんは敵が変装した偽物でしたので」
「偽物?そんなんおったんか 一応、僕支部に行くって手紙書いといたんやけどなあ」
「……なるほど」
点と点が繋がる。
俺たちが鈍楽亭に戻ってくる前に東雲さんは支部に行き、いない間に偽物が中に侵入して手紙を捨てるか持ち去ったと考えると納得がいく、つまり……。
「入れ違いってことか」
「ちょっと!アンタ一人で納得してんじゃないわよ!私にも説明しなさいよ!」
「東雲さんが席を外したタイミングで運よく偽物が手紙を消して入れ替わったんだよ だから誰も気づけなかったってことだ」
彩希に説明すると「なるほど」と納得した顔をする。
東雲さんはあごに手を置き質問する。
「なるほど、そんでこの状況は」
「端的に言うと百鬼兄弟と戦闘状態になった結果です」
「そういうことね。よう頑張った、後は僕がやるわ」
「東雲さん、彰たちが百鬼兄弟と戦っているのでそっちにもいかないと……」
「ほな、はよ終わらせんとな 惑わせ・村雨」
握った妖刀の周囲が歪む。
「なんだこの能力」
「気持ち悪い……」
その場に居るだけで周りの景色が歪み、耳鳴りがする。頭の中が揺れる様に感じて気分が悪くなる、乗り物酔いに似た感じだ。
「危ないで目閉じとき」
「「はい」」
言われた通り目を閉じるがそれでも気分が悪い、さっきよりマシとは言え頭痛もする。
「さてと、戦いましょか」
――ギャ、ギャ、ギャ
村雨の能力に充てられた邪陰の正気は歪んでいく、自分が何者なのか目の前に居るのは敵なのか同族なのか判断が鈍る。
「よっ!」
動きが鈍り能力がまともに使えない邪陰たちは仲間に攻撃したりしている。そん中、東雲は邪陰を一体ずつ倒していく。
その数はどんどん減っていき、やがて完全に消える。
「もう開けてもええで」
「っ!!」
開いた視界の先に映ったのは邪陰のいないボロボロになった獨録街だ。百鬼夜行は終わり、残ったのは嵐の後の静けさだけだ。
「百鬼兄弟の狙いは彰です、早く行かないと」
「そっか ほな、はよ行こか。彰くん達の所に」




