第12話 拠点襲撃 その1
中に戻ると十兵衛は戦闘態勢に入っていた、鋭い雰囲気を纏い待機している。
「どうだった?」
「生きてたが大丈夫だ。宗治たちの尋問?でなんとか……」
「?なんで疑問形なんだ」
「いや、気にしないでくれ」
十兵衛よ、この世には知らなくても良いことだってあるんだ。
まあ、教えたところでなにも変わらないと思うが、受付嬢さんのために配慮しよう。
「それで、尋問をしたってことは何か聞いたんだろ?」
「百鬼兄弟の居場所について喋ってもらった。場所は東にある廃工場だ」
「東にある廃工場って、どこ?」
宗治が十兵衛に居場所を告げると、緊張が解けたのか雰囲気が緩くなり、十兵衛はキョトンと首をかしげる。
「ここに来る途中に乗った列車の外に廃工場があっただろ?」
「?寝てたから覚えてないけど」
(そうだ、コイツ寝てたんだった……)
列車の中で東雲さんの話を聞きながら外を見ていたオレとは違い、十兵衛はずっと寝てたんだった……そりゃわからねえよな。
(ど、どうやって説明するか……東以外の説明方法がわからねえ、街の特徴もまだ把握しきれてねえし、宗治と彩希さんに説明してもらうか)
どう説明するか悩んでいると空気と化していた受付嬢さんが割ってい入る。
「あの、ここを出てすぐにある時計台の裏の方にある工場だと思います」
「時計台って、あのおっきな古時計の事?」
(そんなところあっ……たわ)
旅館を出てすぐのところにある大きい時計台、昼飯を食いに行ったときに確認したわ。
完全に忘れてた。初めての任務の事と十兵衛がどっか行ってくせいで記憶から抜けていた。
「そうだと思います。この辺で工場があったのは時計台の裏と線路の近くのしか無いです」
(線路の方じゃないんだ……)
とんだ思い違いをしていた、てっきり列車の中で見かけた線路側だと思ってた。
「ん?でも、そっちの方は駅の方じゃないよな」
「そうだよね」
二人してこっちを見てくる。やめろ、その『あれ~おかしいな?』みたいな顔でこっちを見るな。恥ずかしくなる。
でも、間違っていたのは事実だ、そのことについては訂正しなければ。
「ごめん、オレが勘違いしてた」
「あれれ~彰くんでも間違える事あるんだ~」
「お前だってオレを敵と間違えてただろ!」
宗治に煽られ恥ずかしさが増す。誰にだって間違いくらいはあるだろ、それにお前ほどオレは世渡り上手じゃねえんだよ!。
「そっか。誰にでも間違いはあるもんね」
十兵衛……お前の明るさが今身に染みて感じるよ。
ところで、その明るさに焼かれそうな宗治は大丈夫なのか、すごく苦しそうだが。
「それで、居場所はわかったけどこれからどうするのよ?向こうが攻めてきてないのが不思議だけど」
居場所が分かった所で作戦も何もない。現状、百鬼兄弟が攻めてこない理由もわからない。
もしかしたら、居場所を変えて作戦を組んできているのかもしれない。そうなると奇襲に対処ができない。
「そうだな、今最も簡単なのはここで待つ事といないかもしれない拠点を襲撃することだ」
「また、二組に分かれて行動って手もあるが……」
「無駄だろうな。今この中で一番実力があるのは十兵衛さんだけだ、百鬼兄弟の実力が十兵衛さん並みにあったら」
十兵衛含む一組が百鬼兄弟の両方に出会ったとすると相方は足手まといになる。
仮に二組別々に出会ったとしても十兵衛のいない方は確実に負ける。
「どっちにしろ、負けるか」
窮地に立たされた状況だ、何か手はないのか……。
(どうする、頼みの綱である東雲さんはいないし……一か八かに掛けるか、、、)
この時、頭の中には一つの作戦が思い浮かんでいた。
それは、オレが紅桜を使い戦う事だ。
(まだ、使いこなせてないけど 今はやるしかない……)
使った時の記憶は曖昧だが少しでも状況がよくなるのならこれに掛けるしかない。
「十兵衛、宗治、彩希さん」
「「「?」」」
「一か八かに賭けないか――」
――廃工場――
時刻は21:00。不気味な雰囲気を漂わせる廃工場で百鬼兄弟はあるものを動かしていた。
「兄貴こんな厳重にしなくても良かったんじゃねえか?開けるのめんどくさいし」
地下室に繋がっている、人の倍以上はある大きなダイヤル式ロックを動かしながら音宗は不貞腐れる。
「そうだな」
「だろ?だから今度からは隠しとくだけにしようぜ」
「……そうだな」
龍宗は淡々と答える。傍から見れば兄が弟の話を流しているように見えるが、本人たちからしてみればこれが普通なのだ。
兄である龍宗は常に何かを考えていて、弟である音宗はその考えに答える。これが今まで百鬼兄弟が生きてこれた理由だ。頭脳派の兄と武闘派の弟、これが長年定着している兄弟のポジションだ。
「――順調ですか」
「っ!!」
音宗は気配もなく背後から現れた声を掛けられ振り向く。
「アンタか」
そこにいたのは短い銀髪に金色の梟のピアスをした男、依頼者がいた。
「適合者は現れましたか」
「ああ、アンタにとってうれしいニュースだ、適合者は現れたぞ」
その言葉を聞いた男はニヤッと不気味な笑みを浮かべ喜んでいる。
見ているだけで恐怖を覚えそうになるくらいだ。
「そうですか、なら後はお任せします」
「待てよ」
立ち去ろうとする男を音宗が制止する。
「この依頼が終わったら本当に貰えるんだろうな」
その言葉に男は張り付けた笑みで答える。
「ええ、お約束いたしますよ。貴方達の幸せと新しい居住地は」
その言葉を聞いても安心はできない、音宗は心の奥底に強い不安を感じる。
対して龍宗は至って冷静な態度でいる。まるで報酬なんかには興味が無いように話を受け流す。
「なら良い、俺達の目的は幸せを手に入れることだからな」
「では、ご健闘を祈ります」
そう言って男は目の前に広がるワープホールに入っていく。
「アンタもな、フランさん」
「開いたぜ兄貴」
龍宗は音宗が開けた地下室の扉の方へ向かう。
中には無数の邪陰が寄せ集まっており、その場に居る全ての邪陰がこちらを凝視している。
「それでは、向かおうか 適合者のいる――鈍楽亭に」




