第10話 警戒と温泉
ポケポケとGジェネが面白すぎてやめられねえ!!
「うっ」
「起きたか」
頭の奥に突き刺さす頭痛と共に目が覚める。
隣を見ると看病をしていたのか宗治が疲れ切った顔でこちらを見る。
「ここは」
「鈍楽亭だ。幸い壊れてない部分があってな、そこを貸してもらってる」
鈍楽亭には東館と西館の二つがあり、邪陰の襲撃で半壊した鈍楽亭は西館だけである。
上司である東雲不在の中、宗治たちの説得と旅館からのご厚意によって客室を借りられている。場所は東館1階3号客室。
「あ、軍人さん起きた!」
廊下側のふすまが開き十兵衛と彩希さんが部屋に入る。
浴衣姿で脇には桶とタオルが入っている。
「体調の方は大丈夫ですか」
「特に痛みとかは無いですね」
寝込んでいたのが心配だったのか声を掛けてくれる。皆優しいな、実家だったら「起きたか、行くぞ」で特訓させられて終わるのに。
「軍人さん軍人さん、さっきね受付嬢さんが料理を持ってきてくれたんだ」
「え、そうなの?」
「軍人さんたちの分も置いてあるから」
てっきり宿と風呂だけで食事は無い物だと思っていた。
昼食だって外で食べてきたし、、、待てよ夜だけとか?いやそれだけでもありがたい。
なんなら旅館を半壊させた厄介者のはずなのに……これはお礼を言った方が良いな。
「そんじゃ軍人さん、俺お風呂入ってくる!!」
「あ、待って十兵衛さん!」
「廊下を走るなよー」
「わかった!」
ぴゃーっ!!と廊下を走る十兵衛を彩希さんが追いかけて行く。一応注意はしたものの誰かとぶつからなければいいけど。
「なあ、彰」
十兵衛たちが部屋を出た後、宗治は疑問に思っていることを彰に聞く。
「紅桜を使った時の記憶はあるのか?」
「それが記憶が曖昧なんだ。紅桜を使ったところまでは覚えてるんだけどなぁ」
邪陰が襲撃してきてとっさに紅桜と仮契約?できた所までは覚えている。その後は何故か十兵衛たちが帰ってきた所まで記憶が飛んでいる。一体なにが起きていたんだ?。
そんなことを考えていると一つ気になることがある。
「そういえば、脱獄囚たちはどうなったんだ」
十兵衛たちがここに居るということは捜索を中止して来たか戦闘になって帰ってきたかの二択だ。できれば後者の戦闘になって勝ち、捕えて帰ってきたが良い。そしたら、後は東雲さんと合流して敵の拠点を探して倒す、それだけで終わる。
「それがだな 彩希たちが捕まえてくれたんだが、もう一人の脱獄囚に襲われて生死がわからないんだ」
「ま、待て。じゃあ敵の情報は!」
「残念ながら、無い」
深刻そうに語る宗治に対し彰は焦った様に言う。
無理もない。元々断れずに所属したとはいえ、早く辞めたいと思っているうえ殺されるかもしれない状況で敵の情報が無い。戦い損である。
「そっか……東雲さんはなんて言ってた」
ここは頼れる?上司である東雲さんに聞いてみよう。あの人なら何とかしてくれるだろう、ちょっと抜けている所はあるが今回の失敗を何とかしてくれると信じている。
この際、怒られるのは仕方がない。腕立て伏せぐらいならやろう。
「その敵が東雲さんだった」
「、、、は?」
は、え、今なんて言ったコイツ?信じられない、というか信じたくないんだけど。なんで東雲さんが襲ってくるんだ、そもそもこの仕事を持ってきたのは東雲さんだぞ。
それに東雲さんは捕虜を持って特務機関に向かったんだぞ、帰ってくるのがどのくらいかは知らないが。いや、待てよ、これはひょっとして……。
「おいおい、宗治 冗談にしては面白くないぞ」
「いや、本当だ。いつからかはわからないが、もしかしたら初めからかもしれない……」
その言葉を聞き、唖然とする。もし初めから東雲と言う人物はおらず、特務機関の工作員に紛れていて前任者を殺していたとしたら納得がいってしまう。
だが、オレ達をここに連れてきた意味だけは解らない。なぜ妖魔刀剣を渡してきたのかもだ。
「なあ宗治、もしその話がマジだったとして なんで東雲さんは妖魔刀剣をオレに渡したんだ」
「さあな、ただ『適合者』を渡せと言ってたな」
適合者と言うのが何なのかはわからない。だが、敵はそれを求めてここにいるという事だけはわかった。
「その適合者って言うのは誰なんだ」
「彰、お前だ」
……え、オレ?
静まり返る部屋に窓から漏れる冷たい風が流れてくる
――廊下――
「十兵衛さん、廊下を走ると危ないですよ」
「ごめんごめん」
廊下に出てすぐに十兵衛は走ることを止めたが危ないので彩希にも注意を受けていた。
「まったく」
口では文句を言いつつも彩希は内心ドキドキしていた。今、気になっている人と二人きりで温泉に向かっているのだ。
身だしなみや食事での所作はできるだけ綺麗にしているつもりだが、十兵衛といると緊張してそれどころではない。むしろ変なところがあれば見ないでほしいと思うくらいだ。
今回どさくさに紛れて一緒に行動できているがもしかしたら、自身が気に入っている恋愛小説の様に混浴するかもしれない。そう考えてしまうと恥ずかしさで顔が熱くなる。初めは彰とのBL展開を期待していたが気付けば自分が堕ちている。
当初の期待も忘れてとうとう温泉前まで来てしまった。
「そ、それじゃあ私は こっちですので……」
「うん、じゃあいっしょに入ろ!」
そう言って彩希は女湯に入りに行こうとすると十兵衛からとんでもない提案を受ける。
「え、いやいや、いきなり一緒に入るのは……それに、混浴でもないし」
「?もしかしていやだった」
不思議そうに答える。いくら気になる相手だからと言っていきなり混浴と言うのはおかしな話だ。もしかしたら十兵衛は彩希の事を異性として認識していないのかもしれない。
「いやじゃないです!一緒に入りましょう!!」
だが、異性とまともに接したことのない彩希はバカだった。いくら十兵衛のことが気になるからと言って異性だと思っている相手と混浴をするなんてことは普通はしない。頭の中がお花畑だとかそういう次元じゃない程バカだった。
「そっか!」
そう言って十兵衛と共に女湯へと入る。
――着替え中――
(い、勢いで行っちゃったけど大丈夫よね。)
十兵衛の方を見ない様に背を向けながら服を脱ぐ。
今更だが彩希は自身の行動に違和感を持っていた。普通に考えればおかしいのはわかるのだが、頭がお花畑状態だったせいで気が付かなかった。
着替えている途中にふと自分の体を意識する。
(私、どこも変……じゃないわよね)
自分ではさほど大きくないと思っている胸を触る。いつもなら気にならないのだが異性といるとつい気になってしまう。男は大きいのが好きだというが自分がそれに分類されるのかわからない。それに十兵衛が自分の事をどう思っているのかすらもわからない。
そう考えると不安が少しづつ形成されていく。
(じ、十兵衛さんの事だからなにもしないわよね)
恐る恐る十兵衛の方を見る向こうも服を脱いで下着姿になっている。パンツとさらしの二つ。
(さらし?なんで?)
十兵衛は男のはずだ、少なくとも彩希はそう言う認識だ。それなのになぜさらしを胸にまいている?。
彩希の頭の中は混乱していた。
「あの」
「?」
「もしかして十兵衛さんって女の子、なんですか」
「そうだよ、俺女だよ」
そう、十兵衛は生まれた時から女性だ。その言葉に彩希の淡い恋心は消え、固まる。女性であったという安心感とが入り混じり複雑な感情になる。
「ど、どうしたの」
衝撃的な事実に固まる彩希に声を掛ける。先程からよそよそしかったが、下着になったとたん動かなくなってしまったからだ。
「すみません、てっきり男性かと思っていました」
「え、そうなの?」
「……はい」
彩希は申し訳なさそうに答える。複雑な気持ちとは言え女性を男と思って接してたのは失礼だと感じていたからだ。
「そっか ま、誤解が解けたならいいや、それじゃ一緒に入ろ」
そんなことはどうでもいいと言わんばかりの明るさと気にしなさで接してくれる十兵衛が彩希には眩しく見えた。




