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サムライ✕ACCEL  作者: ミミササ
序章・百鬼兄弟編
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第1話 サムライとの出会い その1

投稿、遅いです。


「クソクソクソクソッ!!!!」


 ハイジャックされた列車の中、拳銃を握りしめ体を震わせながら小さくで怒鳴る。

 昨日まで軍学校の情報科にいた実戦経験のない自分の戦力等たかが知れている。


(どうして……)


 重要任務だと聞いていたが既に始めっているのかすらわからない。

 背にしている座席の向こうには武装したテロリストが3人。一緒に居た案内人はトイレに行ったきり戻ってこない。


(どうしてこうなった!?)



 ――遡る事26時間前――



 帝国歴1903年。スチームパンク技術が発達したことにより30年前カムイ帝国は永きに渡る戦争に終止符を打ち、勝利した事により莫大な利益を得ることになった。


 そんな我らが誇らしき帝国の士官学校に所属している、オレ志藤 彰(しどう あきら)は何故か理事長に呼び出しをくらった。

 無遅刻、無欠席、成績中の下、規律違反なしという至って普通なのに。

 仲のいい同期は皆面白半分で茶化してきたが当の本人であるこっちの身からすれば血の気が引くような出来事だ。その証拠に変な噂まで広がり始めた。

 理事長室の前に立ちノックをしドアノブに手を掛ける。正直言って人生で一番緊張しているし体がすごく重く感じる。


「失礼します」


――場所・帝国軍事学校理事長室――


「やあ、待っとったで~」


 中に入ると黒い軍服に身を包んだ気さくな男性と執務机から圧を放つ傷のある渋顔の理事長がいた。

 あまりのテンションの差に内心困惑しつつも面に出さずぐっとこらえる。


「帝国士官学校 三年 志藤 彰(しどう あきら)、招集につき参りました」


 震えながらも精一杯の気持ちで発する。自分でもなんて言っているのかわからないくらい緊張している。


「よく来てくれた、志藤くん」


 重たい圧から発せられる低い声にビビりながらも姿勢を崩さず目線を合わす。


「君にいくつか頼みたいことがあるのだが、いいかね?」

「はい!もちろんでございます!」


 そんなわけはない。本当なら茶を濁しつつ逃げたいところだが、この学校に入った以上断ると言う選択肢はない。


「君には今から我が国の重要任務に就いてもらう。無論このことは外部に漏らさぬよう気を付けてもらいたい。もし、外部に漏らした場合君を処分することになるが……いいかね?」

「了解です」

(い、いやだあああ!!)


 心の中で悶絶する。だってそうだろ誰だって『失敗したら殺す』なんて言われたら断りたいだろ!!。断れるなら断りたいぃぃ!!、でもこっちに拒否権ねぇんだよおおお!!。

 内心悶絶しているこっちの気も知らずに理事長は淡々と話しを進める。


「任務は二つ。一つはある人物と組んでもらうこと。二つ目は上層部からの指示に従う事、これが君の任務だ。詳しいことはそこにいる案内人の東雲くんがしてくれるそうだ」


 軍服を着た糸目にアイシャドーの男の方へ眼をやるとニコニコしながら手を振っている。この人が東雲と言う人なのだろう。すごく気さくな雰囲気だ。

 瞬間、脳裏にアホみたいな考えがよぎる。


(もしかしたらこれ、断れるんじゃね?)


 そうだよ、そもそもなんでオレなんだ。重要任務なんて非戦闘員のオレじゃなくて他のもっと有能そうなやつに変更してもらったほうがいいはずだ。善は急げ!。さっそく――。


「そやけどよかったわ」


 口を開きかけた所で東雲さんが遮る様に言う。


「断られたら他見つけなあかんかったけど、楽にすんだわ~」


 は?え、もしかして初めから断れたの……。まじで?。

 己の選択ミスに気付く、初めから正直に断ればよかったのではと……、だがもう断れる雰囲気ではない。


「ほな、明日10時。中央駅前で会おや~」

「はい」


 澄み切った目で返事を返す。もう後戻りはできない。



――場所・中央駅前――



 必要な分だけの荷造りを持って列車が来るのを待つ。結局約束の時間になっても東雲さんは来なかった。まるで昨日の出来事が嘘の様に感じる。

 理事長に渡された黒の軍服と外套に身を包み、過ぎ行く人混みの中待つ。既に約束の時間から30分過ぎている。


(昨日は衝撃的だったな……)


 現実味を帯びない中、呆然と昨日の出来事を考える。


(あの後、同期達には質問攻めだったし噂は余計に広がるしで大変だったな。一応名目上オレは遠征ってことになったけど絶対また変な噂広がってるよ……)


 抜け殻のような状態でまたしてもアホみたいな考えがよぎる。


(あれ、これ逃げれるんじゃね?)


 無論そんなことをすればただでは済まない。良くて重罪である。

 だが今のオレを止められるものはいない。ならば――。


「お待たせ」

「っ!!?」


 背後から顔をのぞかせ耳元でささやかれる。血の気が引き心臓が止まるかと思った。


「なはは!そない驚へんでもええやろ」


 振り向くと東雲は両手を振りながらニコニコしている。

 昨日は気づかなかったが案外身長は高く180cm以上はある。ガタイはあまり良くないが顔立ちは可愛く糸目にピアスと言うモテていそうな腹の立つ顔をしている。


「これ切符ね。ほな、行こか」

「はい!」


 流れるように後をついて行く。逃げ道は無くなった。

 改札を抜け乗降場へと向かう。


「僕らが乗るんは10時45分発の『テンザイ府』行きやで……これやな」


 時刻は10時45分、列車は煙を上げ少しづつ動いている。

 つまり……。


「あかん!!乗り遅れた!!」


 東雲さんは列車に向かって走り手すりにつかまる。

 おいて行かれた事に気が付き慌てて後を追う。


「うおおおおお!!!」


 全速力で追いかけるが情報科で成績も良くない上運動神経の悪い自分では到底追い付くはずもなく、最後車両の手すりになんとかしがみつく。


「はあ、はあ、はあ……」


 準備運動もせず久しぶりに走ったせいで全身が重く疲れる。周りから見れば動き出したばっかの機関車を全力で電車を追いかける軍人なんてお笑い物だろう。

 足なんてまるで生まれたての小鹿のように震えている。


「だ、大丈夫」


 顔を上げると先に乗り込んでいた東雲さんが笑うのを堪えながら、口元を抑えている。

 笑うんじゃねぇ。こちとらこれが精いっぱいなんだよ。

 だが、自分から見ても笑ってしまうのなら仕方ない。ならば変顔をしながら笑わせてやる。


「大丈夫に見えますか」

「フ、フフ……そ、そうか。そんじゃ、休んでから中に入ろっか」


 今にも決壊しそうになったのかニヤついた顔を背ける。勝った。



――列車内――



 体の疲れも収まり中に入る。乗客はあまりおらず、両手で数えられる程度しかいない。前方車両に進んで行けばそれなりに居るとは思う。

 適当に空席になっている場所に向かい合って座る。


「ごめんな~。ちょっと調べ物しとったら遅れたんやわ、許してぇや」

「……次からは気を付けてくださいね」


 本当はもっと文句を言いたいがおそらく自分のために調べ物をしていたと考えると怒れないので我慢する。


「それで任務と言うのは何をするんですか」


 当然の疑問だ。重要任務と言っても詳細までは知らない。そのための案内人なのだから説明の義務くらいはあるはずだ。

 こちらの質問に東雲さんは両手を前に出し待ったをかける。


「その前にちょっとお手洗いに行ってくるわ」


 そう言うと席を立ち前方車両にあるトイレへと向かう。


「……」


 呆然とする。

 この数分で東雲さんが自由人であることだけわかった。自由奔放と言う言葉はあの人のためにあるのかもしれない。


(オレ、本当に大丈夫かな……)


 おもわずため息を吐く、向いていない仕事を引き受けて列車には乗り遅れる。

 不安の連鎖につい弱気になってしまう。


(そもそも、なんでオレなんだよ!!。他の奴でも良かったんだったらそっちにしろよおおおおぉぉぉ!!!。あと、断れよ!!オレええぇぇぇ!!)


 昨日までの自分に腹が立ってくる。

 周りの視線など気にせず、頭を抱え悔し涙まで出てくる。

 他の乗客からはなんだコイツという視線を向けられるがそんなことはいちいち気にしない。


「はぁ」

(いったん落ち着こう、どうせもう逃げられないんだし到着するまでの間ゆっくりと景色でも見て……)


 いったん現実から目を背けて窓を見た瞬間――。


ドンッ!!――


 爆発音とともに車両全体に激しい揺れが波打つ。

 轟音と共に起こった衝撃で車内は騒然と化す。そんな中、彰は椅子から転げ落ち頭を打つ。


「いってええぇぇぇ!!!。うおっ!!?」


キキーッ!!!――


 頭を押さえ立ち上がると今度は座席の方へと倒れ込む。どうやら今度は列車が急停止したらしい。

 判断としては正しいが乗客としては怖い以外の何物でもない状況だ。


(な、何が起こっているんだ……)


 彰は頭を打った衝撃から平衡感覚がつかめておらずフラフラと立ち上げり窓に手をかけ立ち上がる。

 急停止した列車と爆発音でパニックになった乗客は皆混乱し、外に出ようと連結通路や窓の方へ駆け寄る。それは生存本能からの判断であり誰もがその行動をとる。

 

 だが、次の瞬間。乗客全員が黙り込む。

 先程の混沌とした状況から嘘の様に静まり返った現状に彰は理解が追い付かなかった。

 ただ一つ言えるのは皆一様に口を開け後方車両をみている。


(後ろになんかあんのか?)


 ぼやける視界に目を凝らし窓の外を見る。

 目の前の光景に彰は愕然とした。後方車両は傾き一分前まであった3車両は1車両にまで減っていたのだ。

 そしてここは海に面した崖付近の場所だと言う事こと、下の海からは黒い煙が炊き上がっている。消えた2車両は言わなくてもわかる。恐る恐る上を見上げる。


――ゴロゴロ


 このまま待っていれば爆発の衝撃で落ちるかもしれない岩石の巻き添えをくらう。つまり、この状況は考えうる限り最悪な状況であるということだけは理解できる。それは他の乗客も同じだろう。

 この状況に乗客はただ呆然とするしかなかった。今、自分たちが最悪な状況に陥っている事だけはわかっていた。現状、彰ただ一人だけがこの状況を正確に理解していた。これ以上の”最悪”が今、向かって来ている事に。


 腰につけている回転式拳銃を取り出し、床に落ちた荷物の中から弾薬を取り出そうと手を伸ばした瞬間――。


バンッ!!――


 一発の銃声が視線を集める。

 視線の先は前方車両に続く扉、そこには武装した三人の男がおり手には銃が握りしめられている。


(さ、最悪だぁぁ~っ!!!)


 とっさに身を屈め見えない様に隠れる。

 ”最悪”は的中した。突然の爆発、車両の転倒、武装した男達。この状況は明らかな襲撃だ、それも計画的に仕組まれた。



――現在――



「誰も動くな。全員その場に立て」


 真ん中にいた男が手前にいた人物に銃口を向ける。

 一人、また一人と立ち上がり段々とこちらに近づいてきている。


(乗客が邪魔で撃てねぇし、3対1で勝ち目が薄い)

「立て」


 オレの番となる。

 拳銃を腰に隠しゆっくりと立ち上がる。


「軍人か、服を脱げ。銃を持っているかもしれないからな」


 言われた通り外套を脱ぎ手に持った瞬間。


「うわあああぁぁぁ」


 3番目に立たされた男が叫びながら通路にいた、2人の男に掴みかかる。その一瞬、武装した三人の気が逸れる。


(今だ!!)


 手に持った外套を武装犯の男に投げつけ押し倒す。左手で銃を持った腕を掴み、腰にある拳銃を右手で抜き頭に2発お見舞いする。


――バンッ!バンッ!


 2発の銃声が同時に響く。掴みかかった男と共に武装犯は倒れる。


「キャアアアァァ!!」


 手前に居た女性の叫び声と共に乗客全員がしゃがみ込む。

 立ち上がり、残り2人となった武装犯と銃撃戦になる。状況は依然不利なまま。残り4発、すべてを撃ち込む。

 銃口を向ける前に右側にいた武装犯に狙いを定め顔に2発撃ちこむ。

 武装犯は力なく倒れ、すぐさまもう一人に狙いを定めるが。


「ぐっ!!」


 既に向けられていた銃口から5発撃たれ、左腕と腹部に計2発受け窓際に倒れる。

 もう一人が近づいてこないよう、威嚇として上に向かって発砲する。


 この時3つの奇跡が起こっていた。相手に隙ができたこと、相手が素人だったこと、受けた弾丸がどちらも致命傷ではないこと。彰はそんことには気づいていない。


(どうする!どうする!どうする!)


 背にしている座席から顔をのぞかせる。負傷した左手では弾丸を装填することすらできない。

 彰を急かすかのように武装犯はこちらにゆっくりと近づいている。


「っ!!!?」


 近づいて来る武装犯、その後ろにある前方車両への扉が開き誰かが立っている。


(新手か……)


 仲間にしては格好が違う。武装犯は銃を手にしているが後ろに立っている人物は銃を持っていない。

 だが銃の代わりに刀を持っている。長い黒髪を後ろにまとめ、黒い(はかま)に草履、その風貌はまるでサムライの様だ。


ズバッ――


 サムライが刀に手を掛けた瞬間、目にもとまらぬ早業(はやわざ)で武装犯を横一文字に切り裂く。

 斬られたことに気が付いていないのか武装犯は表情を変えずドサッと上半身と下半身が分かれ、倒れる。


「大変だね、軍人さん」

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