♰06 初魔界と魔獣。
本日、4話更新。(3/4)
●♰●♰●
魔法の練習をしつつも、飲み食いを楽しみ、ボードゲームを楽しみ、お喋りを楽しみ。
ダラダラ過ごしていれば、進展がないまま、六日目に王都騎士団が到着したらしい。
それから丸二日、ジョンが帰ってこなかったので、使用人達の空気が流石に張り詰めていた。
私も適度に眠りながら、いつでも動けるようにしておいた。
でも、何事もなくジョンは戻ってきた。
「ダバス伯爵の死亡を確認して、金庫を開けた! 資金がないと滞っていた作業があったため、至急使う必要があったんだ。用意した言い訳も通じた。疑われてはいないよ」
出来れば、私の『観察眼』で疑われていないかどうかを確認したかったけれど、犯人の悪魔がのこのこ出ていくのも、リスキー。
実力者とかいて、見抜かれては困るものね。
「もう一日、様子見をして、疑われていないことを確認出来たら、奥さん達を呼び戻して。私は魔界に戻るね。命の危機に直面したら、呪文を唱えてね? あなたの命を守るためでもあるけれど、一番はまだ私に対価を支払っていないからよ? わかった?」
「ああ! わかっているよ! 何から何までありがとう……! 悪魔殿!」
がしりと手を握り締めて、輝かせた目をウルウルさせるジョン。
『悪魔召喚』で『取り引き中』の悪魔は『いでよ、悪魔』の一言で目の前に呼び寄せることも出来るらしい。
『祝福』さんが教えてくれた。実質、対価は未支払いなので、まだ『取り引き中』状態なのだ。
使用人達も「また会いましょう」「ありがとう」と握手をされて、見送られた。
【魔界へ 帰還】
行ったことないけどね。魔界。
ブゥン。
黒に歪んだ視界が明るくなったかと思えば、廃れた街中にいた。
というか……廃墟?
【第十三王国】 【廃墟の街】
「第十三王国?」
【魔界は十三ヶ国に分かれており、悪魔が治める王国は三ヶ国があって、ここはその一つ。最も無法地であり、弱肉強食至上主義の王国。
悪魔は悪魔の王が治める王国のどれかに、生まれてから一度は降り立つ】
……ふぅーん。弱肉強食ねぇ?
この廃墟の街も、弱者が負けた証なのかね。
いや、そもそも……貧相よね?
二階建ての建物もあるけれど、一階建てがポツリポツリあるだけ。素材は、石のレンガかな……?
【中には、取り引きの対価として気に入った地上の街を魔界へ飲み込んだ王国もあるが、第十三王国は一番建物の発展が乏しい王国である。労働に使う魔物も略奪する魔物に食われていたため】
弱肉強食ぅ……。
地上の街を魔界へお持ち帰りとは、一体どんな『取り引き』だったのやら……。
てか、どうやって差し出したし、召喚主。
魂って確か、本人の承諾がなければもらえないんだよね? そういう規制があるなら、丸ごと街をもらうって、無茶なのでは?
【対価は人や家畜を除外した街そのもの。対等な願いを叶えたはず】
叶えたはず、か。
……荒地に取り残された住人達が可哀想だな、と思った。
そういうことで、初魔界。
私は『祝福』さんを頼りに闊歩することにした。
魔界の土はろくに植物を育てないので、必然と魔物同士の食い合いとなるとのことだ。
悪魔と違って、大半の魔物は空腹を覚えて食事が必要となるそう。ちなみに、悪魔は口から食べ物を摂取しても、魔力などに変換するとのことだ。
睡眠は異世界転生者の私にとって一種のリセット行為であって、それによって『成長ポイント』が加算されるらしい。
ただし、六回までが100ポイントだったが、今は10ポイントに変わってしまった。最初の六回だけは、初心者キャンペーンのポイント増加だったらしい。寝ておいてよかった。
何事も、初心者に優しい救済処置は大事よね。
その出会いは、唐突だった。
グルルと唸り、よだれを剥き出しの牙から溢れ出させる、どう見ても野犬の風貌で大きな獣。
【魔獣。
野犬のように、襲いかかり食らい尽くす凶暴な魔界の獣
[補足]食糧には不向き】
街中に、普通にモンスターにエンカウントするなら、予め教えてほしかった。
まぁ、廃墟だから、想像は出来ただろうけども。
チラッと周囲に視線を走らせれば【魔獣】【魔獣】【魔獣】と姿を見せている魔獣だけではなく、瓦礫に身を隠して狙いを定めている【魔獣】も表記してくれた『祝福』さん。
まぁまぁ力を込めた『火球』一発を撃ち放ち、『MP』の減りを確認。
一斉に飛びかかる魔獣達にバチバチっと雷魔法で感電させたあと、すぐさまに『目暗まし』で視界を奪う。
風魔法の刃を一刀に放って、八つ裂きにしてやっと退治完了。
【成長ポイント:50】
……会得ポイントぉ。
初心者期間の睡眠の方が多かったのは、地味につらいな。
こちとらバトルよ。負けたら食われちゃうのに。
野犬型の魔獣は役に立つ素材はないというので、死体は燃やし尽くした。
死体の匂いでまた魔獣が寄ってくると思ったが、手遅れでまた来た。
でも今回は、同じタイプの魔獣とすでに戦闘済みだったおかげか、『鑑定眼』にて、相手の『HP』ケージが見れた。確実に仕留められる加減を覚えられるほど、魔獣狩りをすることになった。
『MP』がだいぶ少なくなったので、大事を取って、回復するまで大穴が空いた二階建ての建物で休憩することにした。
見晴らしがいいので、景色を眺めながらの一休み。
空は青いが、濁った模様だ。そして、仄暗い。太陽はなさそうだ。
空の明るさだけで、辺りが見える仕様が、魔界らしい。
戦い慣れたせいか、徐々に『成長ポイント』は減ってしまい、最終的には『5ポイント』まで下がった。
魔界に来る前に会得しておいた『収納ボックス』から、サムからおすそ分けでもらった果物を、寂しい口に放り込んだ。
こういう果物さえも、育たないのだろうか。
どうせ廃墟なら、手頃な場所で育ててもいいかな。建物も綺麗にして、壁も立てて、睡眠できる安全確保をしよう。
することもないもんね。
他の街も気になるところだけど、ジョン達の悪魔の認識からすると、上手く交流出来ると思えない。
隠れ家として、チャレンジしよう。
私はそんな気分なのである!
そういうことで、私は陽が暮れるまで街全体の把握をしつつの安全な休憩ポイントを見付けることにした。
がしかし、不安が過る。
……魔界って、夜、あるよね?
太陽がないから夜がないという可能性が浮かんだが、チラチラと空を見上げている間に、空が暮れた。
真っ青な夜空には星一つ、なかった。
大きな満月だけが、ぽっかりと夜空に穴を開けた。