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♰04 子爵邸の使用人達。

(2023/12/07⭐︎)


本日、4話更新。(1/4)


   ●♰●♰●



 魔界に戻ると聞いて、ジョンは動揺を走らせた。


「え? ほ、報酬は? 対価は?」

「それは徐々にもらうことにする。そうすれば、私はあなたから対価をもらいにちょくちょく地上に戻って来れるでしょ?」

「な、なるほど。……それにしても、地上の知識で本当に足りるだろうか」

「取り引きは成立したから、あなたの知識で足りるはずよ」


 ……多分。理不尽な天秤になるなら、最初から取り引きは成立しないはずだ。……本当に多分。


 自信なさそうなジョンから、この王国の名前から教えてもらった。


 ジェラルス王国。

 ここは、南西に位置する田舎領地だという。領主は代替わりを繰り返しているが、昔からの名称で『トレイニン領』と呼ばれる。領主とおべっかつかいは『ダバス伯爵領』と言い張っているが、これからは違うだろう。

 田舎領地だから、騎士団の到着も最短は六日はかかるという。

 なら、その間、子爵邸にいるべきか、と首を傾げる。


「まぁ、使用人が問題ないなら、臨機応変に子爵邸に待機して、緊急事態に動けるように備えるよ」

「き、緊急事態、とは?」

「『魅了』の痕跡がバレた時のために、囮になる」

「そこまで……!」

「私には魔界に戻るっていう逃亡手段があるから、最善策じゃん。上手くすれば、謎の魔物が伯爵を殺害して放火した、というだけに留められるだろう」


 確実な逃亡手段がある私が背負ってしまうのが最善策だ。

 問題は、悪魔の関与がバレるか否か。

 今のうち、『悪魔召喚』の部屋を片付けないとな。


 涙ぐんで馬を操るジョンに「ところで」と話題を変える。


「お腹空いてない? ジョン」

「……正直、空腹感はあるが、食欲は皆無。…………え? 君は空いているのか?」

「いや、全然」

「そ、そうか…………人間の食事が必要なのか?」

「知らない。試しに食べていい?」

「あ、ああ。ありあわせのものでいいのなら」


 異世界転生してからもう半日は経っていたが、私の方は空腹感は皆無。

 人殺しているしね。食欲は湧くはずもないのは、善人らしいと言えばそうなんだが、私の方はそれとは違うもよう。

 そもそも、魔物の食事は違うの? という話をしつつ、キンバリー子爵邸へ帰宅。

 数日の食料はあったので、ジョンが連絡のための手紙を書いたり送っている間に食事を試させてもらった。


【リンゴ】 【パン】


 拳より大きめな赤いリンゴと、フランスパンのように硬めの丸いパン。結論から言えば、食べられた。味覚も前世と変わらずあると思う。

【オレンジジュース】もいただいて、一息ついた。


 使用人の部屋を使うといいと言われたけれど、私は地下室へマットと毛布と枕を持ってそこで休むことにした。


 その間、ジョンは領地の貴族として緊急招集を受けたので、出かけた。領主は燃えた屋敷で行方がわからないだろうし、当然の対応だろう。

 この時点で、善人のジョンが疑われることはあるまい。



 私は『異世界転生の祝福(ギフト)』でわかることを把握しようと、目をかっ開いて、浮き出る文字を読んだ。

 読むというよりも、正しくは『読み込む』という方がしっくりくる。文字を読むより前に、内容を理解するのだ。読むタイムロスがなくていい。


 初めての魔法使用でわかったことは、力加減でケージの消費量は変わることがわかった。

 だから、消費量は明記されていないのかもしれない。力加減で、消費量は変動するから。


 なら、地下にいながら、最小威力で魔法発動回数を満たせるんじゃないかと思って『風魔法』を発動して、難なく新しい魔法を解放した。

 流石に『水』で地下部屋を水浸しにしたり『土』で砂まみれにするわけにもいかないので、『雷』をバチバチやって習得をしてから、残るは『闇』をやっておく。


 悪魔だからだろうか。『闇魔法』は、レパートリーが多かった。

 目暗まし。姿暗まし。闇に乗じる魔法だ。


 または影縛りやら、金縛りやら。デバフの類の魔法ばかりだ。ちゃんと『闇球(ダークボール)』と攻撃魔法があったが、やはりデバフ効果がある。これも金縛り効果と目暗まし効果を与えるんだとか。

 じゃんじゃん会得しよー。と、ひらすら繰り返して発動。


 そのうち『MP』が切れてしまったので、寝ることにした。


 横になって目を閉じてもステータス表記が見えたので、オフ! と念じればやっと消えてくれたので、すやーと眠った。




 扉を開く音に反応して目を開く。ジョンが帰って来たかと思ったが、足音が複数のようだ。


【『成長ポイント』を会得】


「……ん?」


 成長ポイントってなんぞよ。

 と思ったが、次に出てきたテロップを読みよりも、開かれた扉に意識を向けた。ジョンが男性三人を引き連れてきた。手紙を送って、戻ってきた使用人だろう。


「あれ? 角は!?」

「寝る前に魔法の練習して消せるようにしてみた」


 にへらと笑って胸を張る。『姿暗まし』の応用で、角だけを消せるようにした。

 これで人間にしか見えないだろう。立ち上がって、エプロンドレスをポンポンとはたく。


「ハッ! す、すまない! 着替えを用意しなかった!」


 私がメイド服のまま寝た理由は着替えがなかったと気付き、慌てふためくジョン。


「いいよ、私も言いそびれたけど、不自由ないし。それより、信用出来る使用人で間違いない?」

「あ、ああ。話した通り、私の願いを叶えて救ってくれた悪魔だ」

「初めまして、悪魔です」


 ジョンが紹介してくれるが、やっぱり名前が欲しいな、と思う。

 魔界に戻れば、悪魔だらけだというと、不便そう……。

 あとで『ノーネーム』状態を、どうにかしてみようか。


 メイドっぽくお腹の前で手を組んで一礼する私に、緊張に強張った顔を崩せない三人。

 人外、それも悪魔なのだから、その緊張も当然だろう。


「今のところ、イレギュラーは起きていないので、ジョンの願いは叶っているわ」


 言いながら、確認したが取り引きは【成功】の文字が浮かんでいる。

 まぁ、騎士団も来ていないから、捜査も進んでいないだろう。


「イレギュラーが起きたら、私が囮になってジョンが犯人にならないようにはするけれど……招集はどうだった?」

「領地の騎士団が調べているところだ。ダバス伯爵の死亡は確認されている。現状、領主の死で仕事を割り振って、王都へ知らせを走らせたから、そちらに捜査を委ねると結論が出た」


 ふぅん。ちゃんと死亡は確認してくれたか。あとは上手い具合に酔ったせいの事故の火災とかにならないかな~。ならないだろうなぁ。

 なんせ、あちらこちらで火の出を出してしまったもの。計画的に火をつけるべきだったわ。


「あ、あの。料理人のサムです。悪魔様、旦那様の願いを叶えてくださりありがとうございます。自分に出来ることがあれば、なんなりと仰ってください」


 強面の男性が、頭を下げた。警戒を解いたようだ。緊張はしたままだけど。

 金髪の年上男性だ。


「じゃあジョンに食事を。食欲がなくとも栄養をお腹に入れるものを」

「悪魔殿……! サ、サム! 悪魔殿には、美味しい物を振舞ってくれ!」

「は、はい!」


 感動しなくてもいいじゃないか、ジョン。あなた昨夜から食べてないでしょ。心配するのは当然。

 悪魔も食事をすることにギョッとしているけれど、サムは作ると頷いてくれた。


「自分は庭師ですが、力仕事ならお任せください。マイキーです。この度は誠にありがとうございました。親切な悪魔様がおいでくださり、幸運です」


 確かに、腕が太めな中年男性が一礼した。

 日に焼けた肌と黒髪。目じりの方が細くて、性格が穏やかそうに見えた。


「じ、自分はデイクです! 従僕です。なんなりと!」


 一番若い青年が、ぺこぺこと頭を下げた。

 茶髪に、鼻当たりにうっすらしたそばかすがある好青年だ。


「じゃあ、マイキーは庭の手入れをしつつ、周囲に気を張っててくれる? 何か異変があったら知らせてほしい」

「かしこまりました」

「デイクは勝手で申し訳ないけど、女性の使用人の部屋に案内してくれる? 残っている服を勝手に借りるわ」

「へ!? え、えっと……それなら、自分の恋人のリサの部屋を案内します。オレから借りたことをお話しておきます」

「あら。カノジョさんがいるのね。どんな子?」


 サクッとそれぞれの動きを決めて、和気あいあいと交流する。

 私が悪意のない悪魔だとわかってくれたようで、三人からの緊張はすぐにほぐれたようだ。


 悪魔なのに、いい悪魔だから、感謝している様子。


 少ないだけあって、使用人も含めて大家族のような絆があるようで、当主のジョンとも気安いようだ。

 これが最低限の人員か。あとは、素早くは動けない年配だという。

 着替えももらったので、ひと風呂浴びた私は、サムが作ってくれた肉がゴロゴロ入ったビーフシチューを堪能しつつ、話を聞いた。

 彼らの思い出話も聞いたが、私も私でちょくちょくとこの世界、国、街を把握するために情報を聞き出す。


 魔石という採掘する魔法の石で、熱湯にしては調節する魔道具を使用しているらしい。

 トイレの仕組みも聞きつつ、私はハッと気付く。

 私、トイレ行ってないな……? 行きたい気配が皆無? もしや必要ない? 食料、どう消化されているのかしら……?


 本を片手に地下に戻っても、トイレに行きたいとは思わなかった。逆に怖いね。



 

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