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『悪魔転生』のちに『赤き悪魔女帝』  作者: 三月べに@『執筆配信』Vtuberべに猫


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♰39 『アラクネ』の頼みごとは『鍵』の処理。

   ●♰●♰●



 村に張り巡らされた糸を辿り、『アラクネ』の『アネッサ』の元へ向かう。


 なんでもこの周辺の衣服は彼女が製作して、肉を対価にもらい受けているそうだ。

 使い古した衣服をさらに離れた村へ、魔獣などの肉と交換していくことで、最果ての村も服を着ているということになる。

 正直、冬期になると獣人化の出来ない魔物の住人は、食料と引き換えにしてでも衣服をもらうのだ。毛布や毛皮も、冬期には貴重品。

 つまりは、衣服を生み出す『アネッサ』は、ここの有権者だ。


「わぁ……瘴気が目に見えるね」

「高位の魔物にとったら、ただ煙いだけだもんな」

「蜘蛛一杯いるな」


 岩山が広がる中に、濁った紫の煙が漂っているし、黒ずんだ枯れ木もどきも生えてある蜘蛛の糸だらけの場所を、空中から見下ろす。

 蜘蛛の姿は確認できなくとも、『魔力感知』で数多いることは把握出来た。


 ロン曰く、この蜘蛛系魔物達が周囲の魔獣を食い尽くしてしまったから、圧倒的に食糧不足。

 だから、衣類と交換するようになったらしい。ここは何の捻りもなく、通称『蜘蛛の巣』と呼ばれている。


 蜘蛛の糸は四方八方に伸びている。テリトリーには、糸を張り巡らしているのだろうか。入口に舞い降りて、魔力を当てて、糸を震わせた。


「ルビィ様は、礼儀正しいですね。ノックをするなんて」


 何故か褒める大公爵。常識では???


「いきなり入って、この領域にいる魔物と戦闘になったら、話すどころじゃないでしょ」

「そもそも、何話すの? ルビィ」

「服が欲しいわけじゃないよな?」


 双子が、首を傾げた。


「どう作っているのか、聞きたいだけだよ。待ってていいけど」

「この中にルビィ様をお一人で行かせるわけにはいきません」


 ふるふると首を振って、大公爵は同行を決める。

 まぁ、強い気配がある上に、多勢すぎるものね。戦闘にはなりたくはない。


 糸を辿って、中型犬サイズの蜘蛛が一匹、目につく。でも、奥にもいると表記された。

 うっすらと、ぎょろりとした多くの目が見える。腰に手を当てて、首を傾げて見つめ返す。ササッと、蜘蛛達は引き返していった。


「許可を得たみたいですね」と、ロン。

「煙いのに」と文句を垂れつつ、私より先に足を踏み入れる双子。


 ここの瘴気は、煙と同じだ。

 私達レベルの魔物では有害ではないので、突き進む。あちらこちらに糸、糸、また糸。岩の間を塞ぐ糸の壁。頭上に張られた糸。そして、漂う濁った紫の煙。そこかしこに、蜘蛛型の魔物が潜伏。様子を伺っている。


 一番強い魔力の気配を目指せば、一際極太の糸の壁が多くなり、迷路のように入り組んだ。

 やがて、出会うのは、キセルを吹かした下半身が巨大蜘蛛の女。


【アラクネ】 【アネッサ】 【蜘蛛の巣の女王】


 大柄の女性ではあるが、着物を羽織っててもわかるほどにウエストは締まっていて、撫で肩だ。

 そして巨乳。美しい膨らみと魅惑の谷間である。本物だな。

 結われた黒髪と、八つの黄色の瞳。


「何用どす? 客人殿」


 そう気だるげに、京都弁ような訛りで尋ねられた。着物だから、似合うな。


「急に尋ねて申し訳ない。お詫びに肉を受け取ってほしい」

「肉をくれると言うはるなら、いただこう。して? 用件は?」

「その肉を得るために、衣類を等価交換していると聞き、興味が湧いた。地上のような衣服を、ここで作っているの?」

「……」


 ふぅー、と煙を吐いて、八つの瞳で見据えるアネッサ。冷静な様子だ。


「そうどす。それに答えるだけで肉をくれるかえ? 気前がええなぁ。我が子らが食う分が増えるなら、それでええどす」


 愉快そうに、真っ赤な紅が塗られたような赤い唇を吊り上げた。


「衣服は手軽な物だけ、器用な者で作り上げていき、肉と引き換えにしているやす。糸を扱うのは、蜘蛛の魔物の専売特許どすえ。この辺りの肉は食べ尽くしたさかい。あればあるほどええ」

「地上の衣服の作り方は、どこで学んだの?」

「大昔に、地上に出たさかい。その際に、見たものを参考にしただけどす」


 ふぅーとまた、煙を深く吐いた。地上に出たことあるのか。


「あ、だからダサいのか」と、余計な口を出す元ジェス。おだまり。


「そんな凝った衣服など、この辺鄙な村に住む魔物達には必要あらへん」


 しれっと返すアネッサ。

 それもそう。私達のように凝った装飾も要らない、簡易で着れる物でさえあればいい。


「本題だけど、私、衣服を作ってほしいの。ただ作るんじゃなくて、染料になる植物も用意するから色とりどりのものを頼めるからな? もちろん、肉は用意する。地上の魔物肉を」

「……植物やと?」


 目を見開いたアネッサは、姿勢を変えて身を乗り出した。頬杖をつく姿勢で、キセルを吸う。


「ウサギの魔獣肉を提供している村には、主食が草になるように植えたところ。魔界生まれの植物の『創造』に成功した。あとは、順調に成長出来る環境作りだけど、こういう瘴気があるところだと、先ず無理。他のところで作るから、どう? 引き受けてくれる?」


 証拠に植物を『創造』して見せるが、瘴気が満ちているので枯れて朽ちてしまった。


「にわかに信じがたいやなぁ……。お前はん。悪魔やろ? 精霊の加護でも持っているのかえ?」

「ええ、持ってるわよ」

「……」


 ふはー、と大口開いて、煙を広く吐いたアネッサは、目をパチクリさせる。


「それなら、肉ではなく、頼みごとを引き受けてくれなはれ。それで衣服の件は任せておおきに」

「頼みごと?」


 食事問題よりも引き受けてもらいたいものがあるの?

 私は首を捻った。


「こちらどす」と、のっそりと巨体の蜘蛛の身体を起こして、脚を動かして歩き始めたアネッサのあとに続く。


 少しの間、歩いたから、染料について問われた。

 何色か、どんな植物か、糸には染みるのか。


「ルビィ様の色を!!」と連呼する大公爵にはチョップを食らわせて黙らせた。

 まだ考え中ということにした。


 到着したのは、これまた分厚い繭。

 何かが入ってることはわかり【???】としか表記されない。


「あれどす。あれを処分しておくれやす」としか言わないアネッサ。


 不思議に思いつつ、繭に近付くと、アネッサはササッと後ずさった。

 え。何。なんなの。


 真っ暗な繭の中に何かがあるが、何かは全くわからない。


 手を伸ばすと、またアネッサはササッと後退りして距離を取った。危険な気配はないけれど、あのアネッサが警戒するのは、本当になんなの。


「おい、なんだよ」

「オレ達のルビィに何かあったら許さねーぞ」


 大人しかった双子は怪しんで喧嘩腰に。


「だったらどっちかが代わりにとればいいだろ」と、大公爵が冷たく言い放つ。


「おやめや! 加護のあるべっぴんはんにやらしときな!」


 アネッサが声を上げた。


 加護のある? 精霊の加護があるから、私に任せたい? 浄化効果が必要?

 それほど禍々しいわけでもないけれど……?


「は? 精霊の加護の力が必要なら、オレら吸血鬼の方が扱う方がいいんじゃね?」


 元ジェスの言う通りだ。処分のために浄化が必要だとしても、呪術使いの吸血鬼が扱えば問題ないと思う。


「呪われた品なら、まだかわええが、そうではないから、赤いお嬢はんが適任どす」


 よくわからないけれど、手を突っ込んだら噛まれるわけではないみたいね。品ってなんだろう。


 双子がこのテリトリーの女王様に噛みつく前に、済ませてしまおうと、ズボッと繭の中に手を突っ込んだ。



 手探りで掴んだのは――――鍵。


【迷宮の鍵】



 そう表記された真っ黒な掌サイズの鍵だった。


「『迷宮の鍵』どす。はよ、それを処分しておくれやす。迂闊に触れることも出来ない代物で長年扱いに困ってたんどすが、これで肩の荷が下りるさかい。よろしゅう頼みます」


 いや、にこにこしながら、丸投げやめて、アネッサさんやい。


「ほう……こんなところに『迷宮の鍵』が」


 ロンの顔が、僅かに強張った。


「迷宮って、アレ? ダンジョン?」


 ロンを見上げてから、大公爵に尋ねる。


「ええ、簡単に言えばダンジョンですね。異空間に繋がる『鍵』を使用することで、『迷宮』と呼ばれる場所に『転移』します。『鍵』によって違いますが、その『迷宮』を攻略すれば、手に入れられる『能力』があるのです。それもまた『鍵』によって異なります」


「そもそも『迷宮の鍵』とは、『異界』の産物でしてな」と、大公爵に続くロン。


 大公爵が、カッと目を見開いて睨む。

 ロンは、しれっとした顔で続けた。


「『異界』とは、『魔界』の災害の一種です。『赤い夜』が七つ続くと『異界』から『異形』が入り込むのです。『異形』は巨大魔物の比ではない怪物です。討伐すると、この『鍵』が現れますが……私めの聞いたところ、『異形』の中で生成されて、死後に完成すると云われています」

「どうして、そう云われているの?」


 『魔界』の他に『異界』もあるのか。知らんかった。


「なんでも『異形』が取り込んだものが、『迷宮の鍵』に大きな影響を及ぼしたそうです。私めが聞いた『異形』は、第一王国の端で大暴れした際、多くの火魔法を受けたそうで、その影響で『迷宮』内は火炎地獄だったとか。残念ながら、得た『能力』は何か、そもそも攻略が出来たかどうかも知りません」


 ロンの説明が終わり、私が手にした真っ黒な鍵が注目を浴びる。

 それから、私達は煙を吐いたアネッサに目を向けた。


「『迷宮』内は城でやした。わっちには相性が悪すぎる相手でしてな、攻略は無理と判断したんどす。しかし、こんな代物、いつまでも大人しくするとも限らないさかい、はよう処分しておきたかったんや。攻略して『能力』を得るなり、好きにしておくんなし」

「攻略、ねぇ? 相性が悪いってどういうこと?」

「見ての通り、わっちは蜘蛛。我が子達も蜘蛛どす。しかし、城を守るのは騎士と決まっておるやろ? 生きている騎士ならまだしも、相手は身のない騎士。太刀打ちできんせん」

「身のない騎士?」

「「あーね。『シャドーナイト』ってことだろ」」


 双子が口を揃えた。


「それには闇魔法の気配がするし、アンデッド型魔物だろうな」

「その騎士は鎧だけで動く魔物の『シャドーナイト』ってこと」


 闇の気配は、私も感じる。


「『迷宮』には魔物もいるの?」

「まぁ異界生まれの魔物って感じで特殊だけどな」

「異界自体、特殊だもん。シャドーナイト相手に蜘蛛の糸じゃあ太刀打ちも出来ねーわな」


 おちょくるな、そこ。


 魔物もいる『迷宮』か。本当にダンジョンだ。


「はよう処分しておくれまし」


 しっしっと追い払うが如く、急かすアネッサ。


「どこで手に入れたの?」

「近くに『異形』が来たんどす。すでに手負いだったので、始末は楽やった」


 情報は、他にはないのか。まぁいいか。


「じゃあ、取り引き成立ね。私は悪魔のルビィ。また来るよ」

「おおきに。ルビィはん」



 森を出てから、さて、どうしようか。

 鍵を掲げて見る。


「これ地上でも使っていいものかな」

「試すなら、地上へ出て、攻略してから精霊の元に行かれた方がいいかと。どれほど放置されていたかはわかりませんが、誤作動がないとも言い切れません。周囲を巻き込んで『迷宮』が開かれては、伯爵邸の皆々が大変です」

「それは大変だ」


 ロンが言う通りだ。


「とりあえず……『迷宮』に行く人ー?」

「「はーい」」

「どこまでもついていきます」

「おともいたします」


 全員行くというので、一度地上へ出る。


 『魔境』と呼ばれる魔物の巣窟の山で、『迷宮の鍵』を使った。


 魔力を注いで、かちりと回す。闇が開き、周囲を飲み込んだ。




 

2024/03/19

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