♰32 最果ての村で獣っ子に餌付け。
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ロンが転移先としてマーキングしている魔界の村に転移。
【魔界】 【第十三王国】 【最果ての村】
村の入り口。ぽつぽつと置いてある建物は、石造りの簡易的な一戸建ては、ドアすらないものだった。
私がいた廃墟の街の方が、まだいい建物だったのか。
「獣人族……?」
遠目で見えるのは、獣耳を生やした人々が見えた。
狼だけじゃないな。
「ルビィ様は生まれたてでしたな。地上には獣人族がいますが、それらは遠い先祖が魔物だった名残りで、私めのように変身能力を持たない地上の魔物です。なんて、言ってしまうと迫害を受けた獣人族に失礼に当たるでしょうが。あちらは獣型の魔物が住む村です。基本、獣人化で過ごしています」
ロンはそう顎髭を撫でて、白い狼耳をピクピクと揺らす。
「……そういえば、触れ損ねたけど、ロンって人型に変身するのね。今、狼の耳と尻尾があるけど」
「これは獣人化ですね。地上では人間のフリをして『偽装』しておりました」
ホホッ、と笑って見せた。
「千年生きといて、『偽装』も出来ぬ方がおかしいわ」と、ハンと鼻で笑い飛ばすリスタ。
バチバチと睨み合う。仲良くしろって……。なんでそう突っかかるかな。
「遠い祖先は、ざっと一万年ほど昔に遡ります。魔物の特徴が力とともに引き継がれたのでしょう。ただ、変身には魔力とは別に魔素を必要とします」
「魔素って?」
話をしながら、村に入って闊歩した。
一応ロンの勧めで目立たないローブを羽織っているが、怪しい一行にしか見えないだろう。注目を浴びる。
「変身の際に現れる部位を補うエネルギーですね。魔力に引き付けられて形作りますが、その形の源が魔素となります。この姿も魔素で維持しているのです。空気中にあるとも言われていますが、ほとんどが魔力が変換された魔素になるそうです」
「変身と言えば」
「そうそう。オレらの『第二形態』も魔素で変身してるわけ」
「ルビィ様も、名づけの進化の際に、魔素を使って姿形が変わったはずですよ」
そうなんだ。全然知らなかった。
変身でも必要とされる魔素。私も進化で角とかが変わった時にまとったということね。
「悪魔だと、とても身近です」と、大公爵が言った。
「悪魔の通常の状態がデフォルトです。なので、髪や指が欠如しても、回復の際、デフォルトに戻ります。魔素が欠如部分を補ってくれるのですよ」
「マジか」
髪を摘まむ指ごと、まじまじと見てしまう。
この姿を維持するために、魔素が使われるのか……。
双子吸血鬼には「なんも知らないんだ、ルビィは」とケラケラ笑われた。
「それにしても、警戒されているね」
村の住人が遠巻きに見て、一向に近付こうとしない。
「そりゃ当然っしょ」
「『偽装』で強者だって隠しても、身なりが小綺麗なんだから、『偽装』してるってバレバレっしょ」
「力ある魔物だってバレてんだよ」
……それもそうね。
こちらは目立たないローブをまとっているが、汚れ一つない。
あちら側は、ボロ切れのような服をかろうじて着ているだけ。
必要最低限隠せていればいいような服装が目立つ。逆に私達はしっかり着込んでいるのだ。バレバレなのは、当然か。
「村長。しばし滞在させてもらう。対価は、食料だ」
村長と呼ばれたのは、熊男だった。この村の守護者らしい。彼が外敵から村を守っているようだ。
むっすんとした顔は、大きな鉄板で肉を焼き始めれば、ほっこりと緩んだ。チョロい。
「ほら、ルビィ。食べるだろ」と、リスタが持参してきた香草をまぶした肉串を差し出してきた。
「ルビィ様。お好きなタレをかけたこちらをどうぞ」と、逆側からロンがキンバリー伯爵邸から持ってきたであろうタレを塗り込んだ肉串を差し出してくる。
そして、バッチバチと火花を散らせるのだった。
なんなの? 火花散らないと、気が済まないの?
両手が塞がってしまった私は、リスタの香草肉から食べた。次に、ロンのタレつけ肉。
「……合わせたら、もっと美味しいと思う」
「「!」」
私の提案に、嫌々、本当に嫌々合わせる二人。
なんなの、マジで。
肉を焼いている香りが満ちたけれど、まだ村の住人は警戒したまま。
がつがつ食べる熊男な村長が呼びかけても、子ども達を中心に、近寄ってこない。お腹を空かせた虫の音は聞こえてくるのに。
しょうがないので、繊細な力加減で肉を細切れにして串に刺したものを手に持って、子ども達の方へと足を進めた。ビックリして固まる一同。
「ん」と、差し出す。
子ども達は、獣人化していて、もっさもさの髪と獣耳を頭に生やしている。
中には獣顔だったり、手ももっふり獣のものだったり。獣人化が未熟なのか、そういう獣人化なのか。
薄汚れた服を握り締めて、よだれを垂らして凝視する。
食べたいだろうけど、まだ身構えてしまう子ども達をじっと待ってあげた。
おずおずと手を差し出して受け取るのは、黒豹の獣人のような男の子。
長い髪で目元が隠れてしまっているが、不安げな表情をしているとわかる。
「ん?」と、他の子にも差し出すと、黒豹の子を皮切りに手を伸ばしてきた。
「はむっ! はむはむっ!」
黒豹の子はがっついた。あとの子達もだ。
足りなくなったと思えば「追加です」と、後ろから大公爵が渡してくれた。
「あなたが渡せばいいのに」
「ここは餌付けしたルビィ様の顔を覚えさせるためには、手ずからがいいかと」
「餌付けしているわけじゃないよ? 本人達の前でやめて?」
キラキラした顔で何言ってんだ。いたいげな子どもの前で、何を宣うんだか。
「これすごい! どうしてすごいの!?」
「美味しい?」
「おいしいって、何?」
美味しいって概念がわからない子達……なんて不憫!!
「そうだね。いつも食べている……そうだな、魔獣の肉は食べているどんな感じ?」
「んー、苦い?」
「うえってなる!」
「これと違う!」
「それは『不味い』だね。でもこっちは『美味しい』ってことなんだよ」
「「「おいしい~!!」」」
可愛いなぁ。
『美味しい』を学習したもふもふっ子達。
「子ども達を手なづけているルビィ様……なんて可愛らしい!」
「ルビィ、子ども好き~」
「ニコニコ優しいルビィも可愛い~」
喧しいな、何故か悶えている組。
「何が目的だ!」と、声を上げたのは、右目に傷跡をつけた長身の少年だ。チーターの獣人みたい。
「こんな肉で手なづけて! 何を企んでやがる!?」
ギッと睨みつつ、問い詰めるチーター少年は、がうがうと肉の塊にかぶりついている。ここにもツンデレかな。
「なんだこのクソガキ」
「仕置きしてやろうか?」
「噛みつく相手はよく見定めるべきだ」
「大人気ないな、お前ら」
殺意全開になるな。他の子達が私の後ろに隠れちゃったじゃないか。
「ルビィ様。こういう輩は子どもと言え、放置してはいけません。あなたの威厳に汚れが……汚れ」
諭すように言いかけた大公爵の目が鋭利に鋭くなったかと思えば、見ている先は、私のローブを握った女の子の手。
「ひっ! ご、ごめんなさいっ! ごめんなさいごめんなさい!!」
慌てて手を離した女の子は、ガクガクと震えた。犬耳も尻尾も、ぶるぶると震えている。見てみれば、ローブが少し汚れていた。さっきの肉の油や、砂埃か。
「大丈夫よ。ほら、『清浄』」
無属性の魔法で汚れを取る。それを見せて、涙目の女の子を安心させた。
「先に綺麗にしてあげればよかったね」と、全員に『清浄』をかけると、一同はぶるるっと震え上がる。
耳も尻尾も逆立つのは、魔力に反応したからだろう。でも、服も肌も綺麗になった。
「んー。いっぱい食べたら、水浴びしようか? ある? 水浴び場所」
問うと、首を振られる。
「じゃあ、作ろうか。村長に許可もらおう」
ついでに、水場を作るに相応しい場所を尋ねようとした。その前に、肩を掴んだ大公爵。
「ルビィ様……ルビィ様も入るのですか!?」
ハァハァと頬を紅潮させていたので、強めに水塊をその顔面に叩きつけた。
頭冷やせ。むしろ、顔冷やせ。
獣っ子に餌付け!
2024/01/18





