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♰02 『取り引き』成立。

   ●♰●♰●



「さっきも言ったけど、私は生まれたてだからね。悪魔らしい以前に、力は強くない」


 というか、何が出来るか、わからない。

 …………調べてみようか。『異世界転生の祝福(ギフト)』で。


「そうねぇ……。とりあえず、服を貸してもらえないかしら?」

「服?」

「メイド服。子爵なら、メイド服を手に入れられるんじゃない? その伯爵家に潜入するから、メイド服がいいわ」

「な、なるほど! わかった。上から持ってくる」

「あー。あと難しいかもしれないけれど、下着もいいかな?」

「え”っ」


 やっと立ち上がった子爵はかなりの長身か、ひょろっとしていた。それとも、今の私が低身長なだけだろうか。

 下着も欲しいと言われて、ぴしりと固まる成人男性。


()()()()()……なので」


 私も気まずい。

 黒のロングローブをまとっている私は、少し前にスースーしていることを自覚して、この下が丸裸だと理解した。

 子爵は、ガクガクと首振り人形のように頷いて、扉を出ていく。バタバタと階段を上がる音と床を駆けたり何かにぶつかる音が聞こえるほどに、この建物はそれほど丈夫でもないし広くはないようだ。


 よし。私のステータスの確認だ。

 すぐに目の前に浮かんだのは、右端に【HP】と【MP】と書かれた赤いゲージと青いゲージだ。数値はなく、ゲージだけ。

 満杯状態だけれど、使えば減るんだよね?

 じゃあ、使える魔法はなんだろう?


【初級魔法】

【火】 【水】 【風】 【雷】 【土】 【闇】


 ん? 出てきたけど、使えるのかな?


火球(ファイアーボール)】 【火柱(ファイアーフレーム)


 表記されている『火球』と違って、『火柱』の文字は薄いなぁ。

 そう思って見つめていれば、スゥッと吹き出しが出た。


【条件:『火球』5回発動】


 あ。そういうシステム……? 条件次第で、使える魔法が増えるわけだ。

 …………ゲームとかの育成は、とても気まぐれにやり込んだり、飽きたりしたりしたけれど、これは大丈夫だろうか。ちゃんとやるかな。いやぁ~、でも、流石に殺されたくはないから、強くはなりたいよねぇ。

 『MP』の消費量が表記されていないのは、ケージにも数値がないせいかな。

 これはぶっつけ本番で確認するしかないな。

 他にないのかな。えっと……こういうファンタジーアクションゲームなら、もっと技? とかなかったっけ?


特技(スキル)


 お。出た出た。ありがたや~。


【魅了】


 魅了って……惚れさせるとか?


【自分に好意的な対象を操ることが出来る。強さはその好意に比例する。対象が無防備であればあるほどかけやすい】


 へー。…………なんであるんだ? そのスキル。


【美しい女人タイプの悪魔の多くが所有する特技(スキル)


 なるほど。

 …………つまり私は美少女かぁ~。だからどうとは言わんが……いや、美少女なら『魅了』で操るべき……? 油断するかなぁ~。いやぁ~でもなぁ~。あくどい貴族なんて大抵下劣な見た目してるじゃん? そういうセオリーじゃん? それに媚びるのは嫌だなぁ~。

 私にも選ぶ権利があるのよ。


 そこでバッタン、と扉を閉める音が上から聞こえた。またバタバタしている足音は子爵のものだろう。子爵からもっと詳しい話を聞いて、ちゃんと作戦を立てておこう。色仕掛けでいくかは、臨機応変に。


「どうぞ!!」


 戻ってきた子爵は、思いっきり赤面して、目を瞑って両手で服を差し出した。

 受け取ろうしたが、魔法陣が見えない壁を作っていて、突き指しかける。

 取り引きが成立してないから、私は魔法陣から出れないのだった。

 そういえば、海外では魔法陣は召喚主を召喚したモンスターから身を守るためのものだって、そんな話をチラッと見かけたことがある。こういうことなのだろうか。

 子爵に声をかけて、投げ渡してもらう。

「で、では、着替え終わったら呼んでくれ」と遠慮して上に戻ろうとするから、引き留めた。

 詳しい情報をくれ、と。

 背を向けて部屋の隅っこに立つ子爵は、語り始めた。私はローブ下でいそいそとパンツを履く。


 先ず、彼の名前はジョン・キンバリー子爵。

 領主、ダバス伯爵は小太りの小柄な中年男性。いつも白いネクタイをつけているそうだ。……デブな成金小男を想像した。

 丘の上に屋敷がある。とても広いから、兵が周囲を見回っているとか。それもそのはず。大きな金庫があるんだとか。つまりは、盗まれたくない資産が詰まっているということ。

 子爵も、その金庫を見たことがあるそうだ。なんでも、誰にでも自慢して見せるらしい。執務室の壁に取り付けた大きな金庫。


「その金庫の中に入っていそうね。燃やそう。うん。伯爵邸、燃やそう」


 キュッと、メイド服のエプロンの白いリボンを腰に結び付けて、私は決定する。


 5回、『火球』をぶっぱなして、足りなければ『火柱』を追加! ……『MP』足りるか、わからないけど。初期ステータスだと心配よね。


「で、出来るのか!?」

「んー、やってみる。だから、取り引き内容はこうしましょう。キンバリー子爵」

「ふ、振り返ってもいいか?」


 どうぞ。

 悪魔にも紳士だな。流石、所帯持ち。


「キンバリー子爵の願いは『ダバス伯爵を()()()()()()()』」

「無害、化?」

「縛る誓約書の破棄、または葬ること。必要に応じて成功させた暁には――――」


 対価に、ゴクリと息を呑んで身構えるキンバリー子爵。


「『叶えた願いに見合う地上の知識を与えること』」

「……え?」


 またポカンとした顔。


「そ、それで……いいのか? た、魂とかじゃなくて?」

「うん。というか、働きに応じて、魂よりはいい報酬だと思うんだよね。だって、知識をもらう間、地上にいられるってことだしね」


 魔界がどんなところかは知らないけれど、報酬分の知識こと情報をキンバリー子爵からもらえる間は、地上に居座れる。魂一つでどれくらい地上にいられるかは知らないけど、先ず地上がどういうところかは情報を得られるなら、悪くない取り引き内容だ。


「それに、あなたも奥さんとまだ一緒にいたいでしょ? この方がよくない?」

「……き、君はっ……!」


 うるっと涙ぐむキンバリー子爵。

 キンバリー子爵は、いい人だしね。奥さんを残しては、気の毒だ。

 必ず魂が必要な対価でもないみたいだし、こうでいいだろう。


「本当に悪魔なのか!?」

「取り引き成立?」

「ッ! 取り引きっ、成立だ!」


 視界に、先程口にした取り引き内容が左右にテロップで表記された。間に、ドーンと【取り引き成立】の文字まで浮かんだ。

 もう出れるかな? と手を伸ばせば、突き指することなく魔法陣から出られた。用意してもらったブーツに履いてから「キンバリー子爵。もう一つ、お願い、いいかな?」と向き合う。


「何か必要なものが?」


 覗き込むキンバリー子爵を見上げる。

 『魅了』を試させてもらいたい。今ので好感度はかなり上がっただろうから、かかるはず。

 あれ……どうやって『特技(スキル)』ってどうやって使うんだろう?


 ええい! 【魅了】使用!


 そうすると、キンバリー子爵の目が一瞬ピンク色に光ったように見えた。そのまま、ぼーっとしているキンバリー子爵には【『魅了』状態】と説明テロップが浮き出る。


「自分の頬を平手打ちして?」

「ああ」


 右手を上げると、バシンッと自分を平手打ちした。

 いったそー。


「!? な、なんだ!?」

【『魅了』状態:解除】


 おや。衝撃で解けた。


「ごめんなさい。生まれたてと言ったでしょう? スキルの『魅了』が使えるかどうか、試したの」

「み、魅了!?」

「女の悪魔が、大抵持ってる特技(スキル)なんだって。悪魔相手に無防備すぎでしょー」


 けらりと笑ってやる。

 それからチラリと『MP』のケージを確認したが減っている様子はない。消費しないのか。


「ローブで角は隠せるかな……? 隠せば、魅力的な女の子に見える?」

「あ、ああ……可愛らしい少女に見えるが……『魅了』を使って潜入して、金庫を開けさせるのか?」

「うん」


 最初から着ていたローブのフードで角をすっぽり隠しては、私は不敵ににんまりと笑って見せた。



 

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