♰14 再びの魔界と第十三王国の王。
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翌日。
マイキーへのおすそ分けで持ってきた『氷可憐華』を見せて。
「マイキー。花あげる見返りに、初心者にお勧めの植物教えて」
「と、言いますと?」
「魔界では植物が育たなくて。土が死んでるみたいでね。だから土ごと持って行って育ててみようと思うんだ」
魔界出身の魔物の食欲を見て、思ったのである。
食料大事。魔獣討伐しても、食べたいって発想出なくらい貧相だからね。そもそも食料に相応しくない。
食糧確保したい。そして出来れば、果物がいいかな。
「いつ魔界に戻るんです?」
「今から」
「は!?」
ダロンテに問われて、ケロッと答えた。
「いや、リリンさんが心配だし、暇だろうからお喋りに付き合うついでに滞在するつもりだけど、だからこそ、魔界の用事を済ませておこうと思って」
「そうは言っても、毎日水やりしないと。育つ者も育たないですよ?」
「一日二日は様子見するよ。試行錯誤するなら一週間はあっちにいるかな。時間の経過が違うらしいから、戻りはわからないけども」
ヘラリと、マイキーに笑って見せる。
「大丈夫なんですか? 王国の追手がいるんでしょ? 一週間も滞在なんて……」
過保護になったなぁ、ダロンテは。兄気質のせいかな。流石、長男。
「追手は剣術でプライドを、間違えた、鼻をへし折る予定だ! 大丈夫だ!」
「プライド? 不安しかない……」
めちゃくちゃ疑いの目を向けられた、解せぬ。
そういうことで、植える予定の植物を『収納』しておく。
寒さに強いもの、暑さに強いもの、乾燥に強いもの、と種類別に持って行って、どれが魔界の空気の中、育ちやすいかを調べようということで、いっぱい。
戦いも想定しているから、装備もしっかり準備。
騎士も愛用する生地で黒いコートを作り、動きやすい緩やかなブラウスにウエストと胸を押さえつけるベストと一緒に、短パンを合わせて、防水もばっちりなロングブーツを履いた。
「きゃーセクシーですぅ! ルビィ様!」
「せ、セクシーすぎないか!?」
カリンは太鼓判を打つのに、ジョンも過保護勢。
よいではないか、絶対領域。美少女の太ももが悪魔の油断を誘うかどうかはわからんが、そのためのお洒落でもないしね。
「じゃあ行ってくるね」
ひらっと手を振って【魔界へ 帰還】した。
【魔界 第十三王国】 【廃墟の街】
ポイント位置から再び戻るかのように、また廃墟の街に降り立つ。
正確な位置はわからん。このランダム、なんなんだろうね。
何か法則があるのかもしれないけれど『祝福』さんには出ない。
時間の経過も、地上の時間に合わせてくれないだろうか……まぁ、スマホのタイマーは流石についてないのだろう。魔界と地上を行き来するなら、切実に欲しい機能ではある。
空は濁った青色。
『魔力感知』と『索敵』で、念入りに周囲の警戒。
ずいぶん空けていたので、そこらかしこに、魔獣がいるみたいだ。
こちらに気付いていないので、私は植えるに手頃な場所を探した。
その前に、鼻のいい魔獣に見付かってしまったので、弓矢のような雷で素早く貫いた。
【警告:敵に気付かれました】
「!?」
警告文が、いきなり出てきて瞠目してしまう。
張ったままの『索敵』にも、唐突に現れた気配を把握。『魔力感知』でも、感覚的にわかる。
『鑑定眼』でも、例の悪魔達だとわかった。
【『隠蔽』した『感知装置』が街に設置されていたようです】
装置が街に?
私、もしくは魔法を使う誰かが来れば、知らせが受け取れるような魔法か。
この廃墟に、私が戻る可能性が高かった。むしろ、遅かれ早かれで戻ると推測できたのだろう。
お熱いねぇ。早々にお出迎えするくらい、私に夢中ってか。
瞬時に『飛翔』で目の前に降り立った第十三王国の手の者の悪魔一行。
「遅かったじゃねーか。待ちくたびれたぞ、クソガキ」
「えー? 待ってなんて言ってないんだけど? 必要ない重い愛を向ける男は、嫌われるよ?」
笑いかける褐色の男に向かって、挑発を返してやったが、ケッと吐き捨ててノってはくれなかった。ノリ悪いな。
「前より多いんだね? 一応言っておくけど、放っておいてくれる? 来る奴、全員殺しておくけど、それでいいわけ?」
騎士が五体も追加しているじゃん。
「強がってんじゃねーよ! てめぇーは瀕死な状態で拷問部屋に放り込まれるんだ!」
「強がってるのはどっちだよボケが。前より頭数揃えて、ビビってんだろーが」
「自惚れんな! もうてめぇを取り逃がさねーためだ!!」
どうだか。フンと嘲笑で鼻で笑い飛ばした私は、『収納』から取り出した剣を抜いた。
「剣? 地上で持ってきた武器がそんな鈍らかよ!」
ケタケタと笑うが今だけだろう。
『魔法無効化結界』を展開。全員を閉じ込めておいた。
「は!? 『魔法無効化』!? バカじゃねーのか!? 魔法なしでオレ達とやり合うつも、りッ!? うぐあああ!!」
『飛翔』を使って、金髪の悪魔の腹を容赦なく切り裂く。
身構える暇を与えず、鈍色の髪の悪魔の腕を両断した。
拳を振り上げた褐色の男の腹に蹴りを食い込ませて、吹っ飛ばす。
『身体能力向上』と剣術の腕と多勢相手への戦い方を学んできたおかげで、楽勝だ。
複数の『騎士悪魔』の間合いに入って、二振りで仕留められた。反撃を受けることなく、『騎士悪魔』一同は制圧完了。
「魔法さえあれば!」
「ないから死ぬんだよ」
負け犬の遠吠えをしたって、手遅れなんだよ。
鈍色の男の喉に剣先を突き刺して、横に振って裂いた。
前回と同じく同行していただけあって親しかったのか、金髪の悪魔が発狂。
怒り任せに『飛翔』を使って飛びかかってきたが、それで何が変わると言うのだろう。柄で頭をカチ割って、沈めた。褐色の男を見据えながら、トドメに頭を貫く。
「お前は生かしてやるから、放っておけと伝えて、手配しておけ」
「ふざ……ふざけんなっ!!」
怒りで真っ赤になる褐色の悪魔は、拳を振り回しては蹴りをくりだしたが、簡単にかわせた。その足を切りつけて、逆の足を蹴り上げて倒す。そして肩に剣を突き刺して、背中を片足で踏み潰した。
「お前がリーダー格だから指示してんの。他の奴らじゃあ伝わらないかもしれないでしょ。こんなに待ってくれた、お前の王様に伝えてよ。放っておけってな」
一番言葉を交わしているから、生かしているわけではない。
リーダー格だから、この中で一番話が通ると判断しただけ。他を殺したのは見せしめだ。
悔しそうに顔を歪ませた褐色の悪魔は、刺されていない方の手で私の足首を掴んだ。
まだ『結界』は保っている。
なんの悪あがきだと思ったが、不敵な笑みを見て悪い予感が走った。
【『転移』しました】
ブゥンと視界が一瞬黒に歪んだあと、そこは絢爛豪華な広間だった。
「陛下!! 連行してまいりました! 例の名持ちの悪魔です!!」
褐色の悪魔は、そう報告をする。
やられた! 第十三王国の城に無理矢理『転移』させられた!
報告相手は、一人では広すぎる玉座にふんぞり返った男だった。
野性的にぼさっと広がった黒髪と、金のネックレスと金の装飾ジャケットだけで、上半身をさらす。ごついブーツを履いた足を組んで、冷たくこちらを見据えてくる。流石、王か。風格はある。
【悪魔 男】 【???】 【君主】
名持ちは、当然。
魔界の王の一人。階級は一番強い、『君主』だ。
まぁ、彼と一対一で勝てるかどうか、今は問題ではない。問題は、ここは敵地のど真ん中ということだ。
玉座にいた左右にいた悪魔達が睨みつけるが、どれも【伯爵】【大伯爵】【侯爵】と階級は上位の名持ちだった。
マズいな。さっきの非じゃない。
周囲を念のため把握していたら、ここは謁見の間のような場所だったのか、一人の悪魔が対峙するように立っていた。
ちょうど、私は王との間に現れたらしい。
【悪魔 男】 【ノーネーム(水銀)】 【大公爵】
『君主』の次に、一番強い階級だ。
でもノーネーム。名持ちじゃない。そのくせに、一番強い階級……。()の中はなんだ?
【呼称です】
呼び名か。……なんで名前がないのやら。まぁいい。
ショートの髪は、水色の白銀髪ではあるが……あんまりな呼び名だな。
醒めるような青い青い瞳には、金色のハイライトがかかっている。
その瞳は少し驚いたように見開かれて、こちらをじっと見つめてくる。極上な美形だと思う。顔が整いすぎるほどに、美丈夫だ。
ひと昔の貴族のような身なりは『大公爵』の階級を持つ悪魔らしいな。
周囲を把握してもなお、勝ち目がない階級の羅列の多さに、冷や汗が出る。
「なんの騒ぎだ、ヴィータ」
王が低い声を発した。褐色の悪魔は『ヴィータ』という名を持つらしい。
「我が主! こいつです! 陛下の許可なく名持ちになり、我々の連行を拒んだ不届き者! ギーダもダルンダも、やられました!! 鉄槌を下してください!」
私に剣を刺されているので、床に這いつくばったまま、無様に声を上げるしかないヴィータ。
推測するに、金髪がギーダで、鈍色がダルンダかな。
なんて思いつつ、剣を抜いた。
上司頼みか。それっていい判断だろうか。
弱肉強食思考が強い王国じゃなかった? 大丈夫か、こいつ。
「……やられておめおめとオレ様に泣きついてきたのか?」
「っ!!」
ほらね。王が一切の同情を抱かずに冷たく吐き捨てた。むしろ、うんざりした様子だ。
「名を得たばかりの悪魔の小娘相手に、そこまでやられて泣きつくとは……貴様達に名をやったのは間違いだったな」
名付け親でもあったのか。それでは助けを求めてもしょうがないかな、とヴィータに同情はした。
それなのに冷たくあしらわれて、可哀想に。どんまい。
「へ、陛下! 我が忠誠心は、あなたにあります! 不届き者は、ちゃんと連れてきました!」
「反乱分子を唐突に届けて、何が連れてきただ。反乱の加担者か?」
「!! ち、ちがっ!」
「なんの役に立たない忠誠心など要らん」
王が、手を翳した。
攻撃されるとヴィータも理解して後ずさったが、逃げられなかった。
手から黒の影が触手のように蠢き、貫くために飛んできたのだ。ヴィータの身体は貫かれた。
ついでなのか、私の方にも飛んできたので叩き切ったが、それで剣は役目を終えたように砕けてしまった。
ちっ。硬い。
「……何か言いたいことでもあるのか? 小娘」
ついでに攻撃されたことに文句でもあるのかと言わんばかりに、王が話しかけてきた。
障る王に祟りなしでこのまま何も言わず戻りたかったが、この際ちゃんと伝えよう。
メッセンジャー、死んじゃったし。
「放っておいてくれます? 私のこと」
「生意気な。指図するか、この王に向かって」
忌々しそうに、笑い飛ばす王。
王とか、ぶっちゃけ私には関係ないしね。
「名を得たらしいな。どこの誰にもらった? 名づけが出来るような奴、そうはいない。どこの国の奴だ。どこの手の者だ」
チラッと王の瞳は、水銀の呼称を持つ悪魔に目が一瞬向いた。
彼も、名づけが出来る魔物ということか?
名づけは自分でやったが、それでは異世界転生者だと言う話を納得してもらうためにするしかない。
特に大きいわけではないかもしれないが、異世界転生者というアドバンテージをさらす気はなかった。つきましては『祝福』さんのことだけど。
「誰だろうが、関係ないですよ。放っておいてください。また追手が来ても殺すだけですので無駄ですよ」
サッサと退散することにしよう。
そう思ったが、雷魔法が横切った。後ろの方の床が焦げて抉れたのをチラッと一瞥した。
「何、生きて帰れるつもりでいるんだ?」
殺気立つ。小生意気なのが、気に障ったらしい。
「生きて帰るからですが?」
黙って帰してくれないなら、開き直って不敵な笑みを見せつけた。
「殺せ」
王は大人気もなく、この場にいる悪魔に命令を下す。
私の抹殺命令。
火魔法による爆撃を受けたから氷結魔法で相殺しようとしたが、威力が足りず、爆風を受けて廊下を転がった先に雷が入り乱れるように落とされて引き続き転がる羽目になった。
その先でも、攻撃を差し向けられるから、風魔法でわざと自分の身体を吹っ飛ばして後ろへ移動。
反撃で大量の水を浴びせたあと、稲妻で貫かせた。
攻撃に集中した私の後ろから影の刃が、私の右肩を貫いた。
間一髪で避けたつもりが、間に合わず、肩を。王の仕業だ。
「もう一度、尋ねてやろう。温情だ。お前の名づけの親は、どこのどいつだ?」
敵だと疑う名付け親を尋ねる王。
「温情で、もう一度言ってやる。私をほっとけ。被害妄想してんじゃねーよ、それでも弱肉強食の王か? ビビりが」
痛みでついつい強めの挑発をしてしまい、ザシュッと足も切り裂かれた。
私は集中を切り替えて、サッと目を走らせる。
相手の位置を把握して各々に『魔法無効化結界』を設置した。
「『魔法無効化結界』だと?」
「何を血迷ったことを! この人数相手に、小娘の肉体で勝てるわけが」
「いや待て! 周囲に『魔法無効化結界』を張ったのではない! 一人一人に『結界』を張っているから、小娘は魔法が使える!!」
悪魔どもが動揺している中、私はニッと笑みをつり上げる。
「爆ぜろ!」
悪魔どもの魔法を封じた謁見の間を、大爆発させる特大の『大火炎爆裂』を放った。
謁見の間どころか、城をぶっ壊してやったわ、わーははっ!
爆発の中で『転移』で廃墟の街に移動したあと、すぐに【地上へ 転移】で魔界を脱出。
冷たい空気を吸い込み、ぜーぜーと呼吸をする。
【地上】 【氷結の森】
流石に、強者の攻撃を受けて半分も『HP』が削れて、初めて息が上がってしまった。
流血する肩を押さえて、はぁーと深く息を吐く。なんとか、窮地を生還。
いいね、ありがとうございます!
2023/12/14





