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『悪魔転生』のちに『赤き悪魔女帝』  作者: 三月べに@『執筆配信』Vtuberべに猫


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10/57

♰10 『赤き大恩人』の悪魔・ルビィ(ジョンside)

主人公視点→ ●♰●♰●

三人称視点→ ◯♰◯♰◯

   ○♰○♰○



 『赤き大恩人がいらしています』



 デイクからの急ぎの伝言を受け取り、喜びが込み上がった。

 事情を知る者達で、あの悪魔のことは『赤き大恩人』と呼ばれるようになっていたのだ


 デート中にもかかわらず、愛しい妻の腰を引き寄せて「帰ろう! ()()()()()()!」とジョンは教えた。




 始まりは唐突だった。


 領主のダバス伯爵が、妻や家族同然の使用人が大事ならばサインしろと、借りてもいないのに多額の借用書を押し付けてきた。

 弱みになる家族がいて、権力も武力もない貴族を狙った恐喝だ。

 架空の借金を背負わせて、支払わせるという手口。

 妻達を守るためにサインするしか術がなかったジョンだったが、支払うことも無理だった。期限を守らなければ、利子が増える。借金地獄だ。またいつ脅かされるかもわからない。


 だから追い込まれたジョンは、ダバス伯爵を殺めることを決意した。

 藁にも縋る思いで、数年前に友人から聞いた悪魔に詳しい知人を紹介してもらい、悪魔に頼ることにしたのだ。

 上手くすれば、自分の関与もバレないのではないかと、本当に藁にも縋る思いで期待も抱えた。


 その知人はとんでもない変人ではあったし、ぺらぺら語る悪魔を実際に召喚したことがあるのかと問えば「いいえ? そんなまさか」と、こてんと首を傾げてケロッと答えたものだから、癇に障る変人だと思ったものだ。


「悪魔も十人十色、性格は凶暴だったり傲慢だったり、比較的温厚だったり、どの悪魔が召喚されるかは運次第。僕は人間さえもイラつかせるようなんで、凶暴な悪魔を引いてしまったら殺されかねません! そんな危険を冒す気はさらさらありませんよ!」


 ケラケラと笑う変人は、自覚があるのかないのか。さっぱりだった。


 『悪魔召喚』のやり方を聞き出して、贄はなくても出来ると聞いて、少し安心した。

 人殺しを頼むのに、家畜さえも殺すことを躊躇うのは、敵を家畜以下と思っている証拠だ。

 しかし、変人は「やめた方がいい」と笑いながら止めた。


「失敗する可能性が高いです。成功したところで、比較的生まれたての悪魔となるでしょう。新米に願うような内容ですか?」


 ニヒルに笑う変人には、願いの内容は言っていない。


 要は、悪魔に頼むほどに切羽詰まった願いなのに、新人の悪魔に頼っていいのかということだ。

 変人は各地から悪魔を召喚したであろう事例をかき集めて調べているという変わった趣味を持っているが故に、詳しかった。

 大抵が名前を持たない悪魔。

 逆に名指しも可能だが、拒否されることもあり得る。高位貴族並みに高慢だが、それに相応しい力を持つという。

 酒一杯分だけ話に付き合って、ジョンは変人と別れた。

「生きていたら、また会いましょう」と意味深な言葉を受けて。



 贄なしで失敗したのなら、覚悟を決めて家畜を捧げようと思っていたが、一度目で成功。


 真っ赤な髪と黒いローブの美しい少女が魔法陣の中に現れたのだ。

 そして、ジョンは博打に大勝利した。


 真っ赤な少女は、こちらを気遣うほどに親切で、真摯に話を聞いてくれて、最善を尽くしてくれた生まれたての悪魔だったのだ。


 取り引き内容も、捨て身のつもりだったジョンを救う形で成立させて、脅威の排除に成功。

 正直、彼女に支払う対価が見合うとは今でも思えない。


 ひたすら感謝しかなかった。



 話に聞いていた悪魔らしくない、いい悪魔の『赤き大恩人』だ。



 黒い噂の絶えないダバス伯爵は酔っているところを恨みを持った犯人、もしくは殺し屋が焼殺して、あちらこちらに放火してその混乱に乗じて逃げたと推測されている。

 同じく脅された他の貴族達も、架空の借用書が燃えたために、誰もがそれを口にしなかった。ジョンの関与は疑われてもいない。


 証拠に、次期領主に白羽の矢が立った。


 正直、荷が重いと思ったが、金庫を開けられた功績も手伝って、善人のジョンならついていけると他の貴族は賛同。領民の評判もいいから、王都の文官も後押ししてきて、領主となったと同時に陞爵で伯爵となった。早くお礼を言いたいと思いながらも、命の危機が迫ってもいないので呼び出すことは出来ず、新しい領主として日々が忙殺された。


 そうしてようやく、感謝を伝えられる日がやってきた。あれから三ヶ月だ。


 嬉々として帰宅して、客人を案内したという応接室へと意気揚々と入れば、黒いローブと赤い髪の少女が紅茶を啜っていた。


 真っ赤に透けてしまいそうな艶の髪と、ダークレッドの瞳で微笑む、いい悪魔。

 美しい容姿はさながら灯火のように可憐なのに、輝きは苛烈に目に焼き付くような強さも揺らめく魅力を持つ美少女。


「また会えて嬉しいぞ!」

「ジョン。あ、いや、ここは伯爵様と呼ぶべきかな」


 気安く笑いかけてくれたが悪魔は立ち上がると、ローブを摘まんでお辞儀した。

 貴族の貴婦人の真似事だとわかったが、それよりも戸惑いと混乱を受けたジョンは、さらりとしなやかに垂れた長い髪に目が奪われる。

 三ヶ月前に会った時は、肩につくほどの長さしかなかったはず。

 それなのに、今はプラスで背中まで伸びている毛先が内巻きにカールした長い髪になっていた。

 三ヶ月では伸びそうにないが、人間ではなく悪魔だと、自分に言い聞かせたジョン。

 しかし、顔を上げた悪魔の身長は明らかに以前より高くなっている。顔つきもより女性らしくなったように思える。


 幼さが目立つ14歳の少女が、いきなり幼さを残した17歳の少女になったような……。


「い、いや……そんな、別に」と、しどろもどろになる。

 同席していたサムに目を向ければ、彼は顔を強張らせていた。まるで初めて彼女と対面した時のようだ。


「そうはいかないですよ、領主様」

「そ、その……なんだ……君……なんだか少し見ないうちに、大人びたか?」


 にこやかに笑う人のいい彼女らしさを味わいつつ、遠回しに訪ねてみた。

 彼女は、メイド達を気にする視線を向けたので、関係者以外は人払いをする。過保護な護衛騎士も、応接室の外に待機させた。


「進化したの。名前を得たから」


 ケロッと彼女はそう答えたので、ジョン達は激震を受けた。


「な、名を……もらったのか?」

「ううん、自分でつけた」

「え? 自分で? い、いや……自分でつけたとなると、それは実質、『呼称』であって、進化を及ぼす『名づけ』とは違うんじゃ」


 魔物の個体名とは、進化を及ぼす特別なもの。常識だ。

 常識が少々欠けている彼女には自覚がないのかと、ジョンは一瞬疑った。


「いや、自分でつけられたし、パワーアップもしたから、ちゃんと進化出来たよ」


 出来ちゃったんだよ、と長い髪をさらりと撫でたあと、部外者がいないことをいいことに、頭の角を露にした。

 初めて来た時よりも大きくなった角が、そこにあった。


 成長、否、進化している。間違いなく、この悪魔は名持ちの魔物となった。


 名持ちの魔物など会ったことがない。悪魔と初対面したことよりも、衝撃は強くガツンときた。


「改めまして、『ルビィ』です。以後よろしくお願いいたします」


 また『赤き大恩人』はローブを摘まみ上げてお辞儀をする。


「ルビィ……」


 宝石のルビーからきているのだろうか、とジョンは呆けた。


「伯爵様。そちらは伯爵夫人で間違いないでしょうか?」


 笑顔で促されて、ハッと我に返ったジョンは蚊帳の外だった妻の紹介をしそびれたと思い出す。


「妻のリリンだ」

「ご紹介に預かりました、赤き大恩人のルビィ様。リリン・キンバリーと申します。その節は、誠にお世話になりました。ありがとうございます」


 カーテシーで誠意を込めてお辞儀をして挨拶をする愛しい妻。


「いえ、対等な『取り引き』の下、引き受けたまでのことです。リリン様のことは、伯爵様からよく聞かされていたので、その後が気がかりでした。皆さんが無事でよかったです。領主になった経緯を詳しく聞きたいので、お時間大丈夫でしょうか」


 相も変わらず思慮深く、全く持って悪魔らしくない。


 散々妻にも語ったが、リリンも少々驚いて面食らっていた。


 それでも、ここまでの経緯をソファーに座って説明することになった。


 料理長のサムが夜な夜なケーキを無償で配っていると聞いたが、いつでもルビィに出せるためだったのか、とジョンは舌鼓をうつ。毎日作っていただけあって美味いケーキだ。

 ルビィは食事をとる必要のない魔物にもかかわらず、食べるということを楽しみ、サムの料理を絶賛する。

 なんなら、居候中は手伝ってもいた。今もご満悦で半分近くは一人で食べている。



「怖いくらいに、いい方に転がってくれたね」


 本当に怖いくらいに幸運続きだ。ジョンもしみじみ思う。


 最初こそ、悪徳貴族に恐喝を受けて窮地に追い込まれてしまったが、藁にも縋る思いで召喚した悪魔がとてつもなくいい悪魔だったのだ。トントン拍子で陞爵しては領主となれて、大変ではあれど幸福である。


「領主の仕事も大変でしょ? 伯爵位だと高位貴族としての教育も受けなくちゃいけないんだって?」

「ええ、子爵の頃とは違う振る舞いが必要で、教育を受けたよ……」


 誰から聞いたのやら、と思いつつも、苦笑でジョンは答えた。


「リリン様も、領主の夫人となると、かなり大変ですよね?」

「まあ、よく理解なさっていて……。ルビィ様。わたくしのことはどうか、リリンとお呼びください。部外者がいない場所では、どうぞ気軽に夫のこともいつも通りにお呼びください」

「じゃあリリンさんって呼びます。忙しい時に来ちゃってごめんね? ジョン」

「いやいや! 良心的な貴族や王都からの助力もあって、落ち着いた頃だからちょうどいいくらいだ。……あとは、魔物の件くらいだ」


 さらりと距離と縮めるリリンとルビィ。らしいと言えばらしい。

 ジョンは思わず、ポロリと零した。


「魔物? 何か問題が?」

「あー、その……領地の外れの森に大きな巣を作っているらしい。今まで前任者が放置したせいで大きくなってしまい、戦力を投入するために王都の騎士団に増援を頼むかどうか、我々で対処するか、悩ませているところなんだ。発覚した被害がこれまた甚大で」

「あなた……」


 ジョンを咎めるように呼ぶリリン。

 何が悪いのかと、ジョンはキョトンとしてしまった。


「そうなの? じゃあ、それ私が討伐していい?」


 ルビィが言い出したから、リリンが咎めた理由に気付く。

 人のいい悪魔であるルビィなら、困っていると言えば手を差し伸ばすのは、目に見えたのだ。


「あ、い、いや、そんなつもりで話したわけでは」

「いいの。ちょうど戦闘経験が積みたかったの。でも『取り引き』って形で引き受けてもいい? こっちの要求としては、討伐報酬と同等の衣食住の提供で。魔界でちょっとトラブルが起きて、こっちに居座っている間に、経験が積みたいの」


 衣と住はともかく、食は必要なのだろうか。まぁいい。

 でも、対価に要求されなくとも、大恩人のルビィなら無償で提供するのに。

 ジョン達は不満に思う。


「トラブルとは?」

「進化、つまりは名づけを勝手にしたことでいちゃもんつけられちゃって。複数の悪魔に襲われちゃったのよね。魔獣相手なら慣れてはいるけれど、いきなり人型と多数相手はきつくて」

「どうして、そんないちゃもんが……」


「さぁね?」と、言い返すルビィは理由を深く考える様子はない。


「では、あなた、わたくしが『取り引き』をしてもよろしいかしら?」


 リリンが言い出したことに、ギョッとしてしまうジョン。


「何故だ! 私でいいじゃないか、元は私が召喚主だし、複数の『取り引き』も可能だと聞いたし、そもそもが領地の問題だ! 領主が責任を持つ」

「あら、領主の妻であるわたくしにも責任は持てるものよ。魂を差し出すわけでもないので、比較的安全な取り引きではないの。わたくしはまだ根に持っているのよ。自分一人で背負って捨て身になったこと」


 じっと鋭い眼差しで見据えるリリンにたじろぐジョンは、気まずく視線を泳がす。


「あれ? バレちゃったの?」と、ルビィは楽しげに暢気に紅茶を啜る。


 命も魂も自分一人で済ませる覚悟を決めて、あとを追う気がなかったこと。妻達にバレたのだ。

 だからこそ、今回は譲る気はないと、ルビィと『取り引き』することを強行されたジョンだった。


「じゃあ、ルビィちゃんの服を用意しましょう!」

「おお? 早速? あ、サム、ケーキをありがとう。紅茶も美味しかったよ、マイキー。ご馳走様」


 『取り引き』が成立するなり、リリンはルビィの腕を取って応接室を出て行ってしまう。


「美少女のルビィを着飾りたいだけなのでは……」


 ポツリと零してしまうジョンに、サム達はきっとそうだろうと頷いた。

 女というものは、着飾ることが好きな生き物なのだ。


「すまない、妻がまた出かけるから護衛を頼む。ダロンテ」


 中に入ろうとした護衛騎士に指示をすると、彼は頷いてリリンを追いかけた。


「……名持ちなら、その魔物の巣も駆除出来ますよね?」


 恐る恐るとデイクが確認するが、その必要は果たしてあるだろうか。


「この辺の魔物は敵じゃないさ」


 こうして、新領主であるキンバリー伯爵家は『赤き大恩人』の悪魔ルビィを滞在させることとなったのだった。



 


主人公ルビィは、可憐なのに、目に焼きつく火のような魅力の持ち主という設定。


今後、一方的に恋愛フラグを立たせるイケメン魔物達が現れるので、現在のジャンル『ファンタジー』から『恋愛』に移るかどうか、悩みどころです。


いいね、ブクマ、ポイント、ありがとうございます!

(2023/12/10)

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