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『悪魔転生』のちに『赤き悪魔女帝』  作者: 三月べに@『執筆配信』Vtuberべに猫


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♰01 悪魔転生と『異世界転生の祝福(ギフト)』

(2023/12/06◎)

主人公視点→ ●♰●♰●

三人称視点→  ◯♰◯♰◯

   ◯♰◯♰◯



 とある街の貴族の館の地下部屋。

 『悪魔召喚』のための魔法陣が血と薬草や塩でブレンドされた赤い液体で描かれ、円に沿って立てられた蝋燭は若い男の呪文に合わせ強弱をつけて揺らめき、重苦しい空気に変わった。

 それは『魔界』の空気だと言われている。

 それでも男はやめない。

 願いを叶えてもらうために。

 決死の覚悟で、『悪魔召喚』を行った。


 立ち込める黒のモヤは徐々に人の形になっていき、黒いロングローブをまとう赤い髪の少女へと変貌した。

 人形のように美しい造形の顔立ちは、ダークレッドの瞳が大きいせいで、幼くも見えて、せいぜい15歳、それ以下にも見える容姿だ。

 地下部屋の蝋燭の灯りだけでも透けて見えそうな赤い髪がしなやかに艶めく。毛先は内側にカールした長めのボブヘアー。


 無機質にも見えた大きな瞳が、パチパチと瞬くと、金色に艶めくハイライトがつく。


 必要な贄もなく召喚されたために『生まれたての悪魔』が、ここに誕生した。



 のちに、召喚主の男達に『赤き大恩人』と呼ばれることになる悪魔だが。

 この時、彼女は、自分が『悪魔』だという自覚がなかった。


 それだけではなく、何故ここにいるのかもわからず、?マークをひたすら浮かべていたのだった。




   ●♰●♰●




「悪魔よ! 私の願いを叶えてくれ!!」


 なんか両膝をついて両手もついて、頭を下げる男の人に悪魔呼ばわりされている。

 この状況はなんなんだろうか?

 その疑問に答えるように、目の前に文字が浮かんだ。


【悪魔召喚されました】


 …………え?

 …………私、悪魔なの?

 なんじゃ、この文字。ゲーム画面のテロップのようだけど、邪魔だな、と思えば消えてしまい、視界はクリアになった。

 私は魔法陣の上に立っていて、地下らしき部屋にいる。いかにも悪魔儀式のための陰湿な部屋だ。


【悪魔召喚の魔法陣。

 取り引きが成立した場合、地上に出れるが、不成立の場合、悪魔は魔界に戻る】


 魔法陣の説明テロップが出てきた。文字を読もうとした時には、頭が内容を理解した気がする。


 ……魔界ってなんだ?

 という湧いてきた疑問に、答えるかのように吹き出しが【魔界】の部分から出て、魔界の説明文を並べた。


【魔界。

 生粋の魔物が住まう異空間。

[補足]悪魔は地上に滞在するために、魂のエネルギーを消費しなければいけない。取り引き遂行の間は、例外である】


 ……そもそも悪魔とは?


【悪魔。

 魔界の住人であり、『悪魔召喚』により、地上で対価と引き換えに願いを叶える魔物。魔物中でも高位に位置する種族】


 魔物、ねぇ?


【魔物。

 魔界生まれの生き物の総称】


 めっちゃ説明テロップ出てくるわ。


「あ、あの……?」


 声が聞こえてきて、思い出した。そういえば、なんかお願いして頭を下げている人がいたんだった。

 そう意識を戻せば、目の前のテロップも文字も消えてクリアになった視界に、魔法陣の外の足元で見上げてくる男性と目を合わせる。


【人族 男】 【召喚主】


 その男性の説明は、それだけらしい。


「ちょっと待って」


 私は手を突き出して、待ったをかけた。

 その右手は、色白で、指先は細くて、爪は白く尖っている。


【爪】


 わかってるわ。

 ん? 待って? ステータスっぽいなら、自分のステータスも出るのかな?

 私は誰?


【生まれたての悪魔 女】 【ノーネーム】


 生まれたての悪魔……?

 悪魔って、赤子からじゃないわけ? 視線の高さからして、絶対赤ちゃんじゃないことはわかる。

 自分の髪を触ってみれば、長めのボブヘアーだと知る。透けそうな髪質で煌めくルビー色。毛先は内巻きカールだ。

 ギョッとした。頭の上部分には、左右に角らしきものがあったからだ。掌で包めそうな大きさの角はねじ曲がって上向きに尖っていた。

 ひょぇええー。人外……!

 その実感を得た。


【生まれたての悪魔】って……どういう意味だろう。なんか説明、出ないかな。

 すると、またその文字から吹き出しが出てきて、説明文が並んだ。


【『悪魔召喚』の贄がなかったために、稀に生まれたての悪魔がその場で生まれることがある】


「贄がない……?」


 思わず口にしたら、目の前の男性が返事をした。


「はい! 申し訳ございません。贄にすべき家畜がそばになかったため、用意しないまま『召喚』いたしました。し、しかし! 私の命と魂で足りるなら、支払います! だから願いを! 願いを叶えてください!」


 切羽詰まっているなぁ……。とても他人事に思った。

 若そうな男性は、やつれているせいで老けて見えているみたいだ。髪はベージュ色でオールバックにしている。西洋のお顔立ちであって、瞳はグリーンのようだ。

 洒落たベストに、エメラルドグリーンのカフス……身なりは上質そう。でも、幸薄い感じ。


 悪魔に向かって、早々に身を差し出すとは、よほどの事情が差し迫っているのだろうか。


 でもこっちもこっちで、何がなんだかわからない状態だから、もう少し待ってほしいな。

 私って本当に悪魔になっちゃったの? と疑問を浮かべば、返事のように【生まれたての悪魔】と文字が浮かぶ。

 ……だいたい、このテロップとか、なんなの? 悪魔の眼の通常仕様?



【異世界転生の祝福(ギフト)



 ギフト……? 

 …………やっぱり、異世界転生なんだね……。


 私は死んで生まれ変わったということ。

 地球で生きていたが、西洋の顔立ちだの悪魔だので異世界への生まれ変わった。

 まぁ…………私って不健康な生活を送っていたしね。引きこもりすぎて、たまに買い物に出かけていても、ふらついた足取りだったし、車の前にフラッと倒れてもおかしくない。

 記憶が曖昧だけど、ある日ポックリ逝ったんだだろうなぁ。

 何より、なんで生きているんだろ~、とぼんやりと思うくらいには、生への執着が薄い。怠惰にアニメ、ドラマ、映画を貪って、ダラダラ生きていた。

 異世界転生モノは好きだけど、私は別にしたくなかったというか…………まぁ、転生したからにはしょうがないよな。

 てか、名前って……ノーネーム?


【ノーネーム。

 魔物のほとんどは個体名を持ちません。基本、強い個体が持つもののため、通常は名無し(ノーネーム)表記】


 マジかぁ~。名無しかぁ~。

 まぁ、なんか少女の身体みたいだし、種族名の悪魔でしかないのだろう。

 しかも、生まれたて。そして予想がつくけれど、恐らく私は、弱い。

 贄は、それなりに力ある悪魔を呼び出すために必要なものだったのだろう。大抵の魔物は名前を持たないというし、名指し召喚がほぼ出来ないと思う。贄に比例する強さの悪魔が召喚されて、取り引きが始まる。と、推測する。

 それが『悪魔召喚』なのだろう。

 贄なしとなれば、ほぼ無力だと思うが……。

 そこは『異世界転生の祝福(ギフト)』があるだけ、異世界転生チートだと思うべきだろうか。


 まぁ、ともかく、自分についてはここまでひと段落つけよう。


「残念ながら、私は生まれたての悪魔。それほど力がないと思ってください。だから、叶えられないことも覚悟の上で、願いを話してください」

「っ……! その……葬ってほしい男がいるんだ」


 男性は、苦し気に呻くように切り出した。

 不本意……でも、殺してほしい、のか?

 立ったまま、じっと観察しながら「詳しく」と話を急かした。


「私はしがない子爵家の当主だ……。この領地の領主である伯爵に、脅されて、多額の借金を背負わされた……! 私だけではない! 他の力ない下位貴族もっ……! もう逃げるしかないが、あの男に誓約書まで書かされた私はどこまでも追われかねない! 妻や使用人達も巻き込めないんだ! せめて私の命を対価に、奴を!!」


 どうやら、あくどい伯爵のようだ。逃げるという選択をしたが、それでも自分を犠牲にしている。この子爵は、嘘をついているようには思えない。

 だからと言って、はいそうですか、とサクッとその悪徳伯爵を殺しに行けるほど、悪魔に染まっていないのよねぇ……だって生まれたてだもの。


「誓約書とは?」

「借用書だ……。署名主を追跡出来る魔法具のインクで書かされた」


 彼の言葉とともに、説明のテロップも浮かぶ。

 魔法の道具というわけだ。魔物がいるなら、魔法もあるよねぇ。


「それを燃やせれば、あなたも安全?」

「え? あ、ああ……逃走経路も、その後の生活も決めているから……」

「じゃあ、願いはそれの破棄でいいんじゃない? そうすれば対価も小さく済むし」

「…………」


 小首を傾げて言えば、子爵が目を点にしてポッカーンとした。


「え? 何? 殺してほしいほど憎いってこと? 葬るのは必須がいい?」

「い、いや…………す、すまない。悪魔だから、てっきり嬉々として殺しをするのかと思ったから、意外で」


 ええー?

 サイコパスな悪魔じゃなくて、ごめんなさいね?



 

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