表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

87/116

第87話 「エリアスに信じてもらいたいの」

ブックマークといいねをありがとうございます!

 

 き、緊張する。


 エリアスを呼びに行ってもらっている間に、どこから話そうか、とか。どう言えば伝わるか、とか。

 思い浮かんでは、違う違うと(かぶり)を振って、消えていった言葉たち。


 今はそんなものでも、脳裏に浮かんでほしかった。話を切り出す言葉が出てこないのだ。


 私は白いネグリジェの上にかけられた、淡いピンク色のカーディガンを引き寄せる。


 こんな時こそ選択肢を出して、どれから話すのか決められたらいいんだけど。沢山あり過ぎて、それこそ膨大な選択肢が出そうで怖かった。


「マリアンヌ。何も順序立てて話す必要はないよ。話したいことから話してみたら、どうかな」


 ベッドのすぐ横にある椅子に座っているエリアスが、優しく声をかけてくれた。

 本当は催促したいくらい、気になっているんだと思う。だからせめて、私が話し易い空気を作ってくれた。


「話したいこと……は、エリアスに信じてもらいたいの」

「うん」

「私が、本物のマリアンヌじゃないことを」


 口に出してから、私はアッとなった。


 いきなりこんな話題を出したら、返答に困るのに。いや、そもそも私が本物じゃなかったら、誰ってなるよね。

 リュカと違って、エリアスは入れ替わる前のマリアンヌを知らないんだから。


 でも、もう戻せない。沈黙が怖かった。


「えっと、その、さっきのは――……」


 気にしないで、と言おうとした瞬間、エリアスに抱き締められた。

 その時になって、私は自分の体が震えていたことに気がついた。


「俺には偽物か本物かは、分からない。出会った時から、ここにいるマリアンヌしか知らない。……その、俺の認識が間違っていなければ」


 凄く言葉を選んでいるのが分かった。

 私を傷つけないように、落ち着かせるように、行動だけでなく、言葉でも優しく包み込んでくれた。


「ううん。間違っていないよ。だってエリアスは、本物のマリアンヌを知らないから」

「それは、どういうことなんだ?」

「この世界に来て、最初に私がしたのは、エリアスを探しに教会に行ったこと」


 エリアスの体が僅かに反応した。

 私は拒絶されるのが怖くて、エリアスの服を握り締めた。


「お父様をね、助けてほしかったの。数年後に殺されることが分かっていたから」

「あぁ、それであの時、あんなことを言ったのか」

「あんなこと?」


 思い出せなくて、エリアスの顔を正面から見据えた。


「出会った頃のことなのに、もう忘れたのか。昨日、ハイルレラ修道院でも話したことなんだけどな」


 残念そうに言いながらも、私の頬にキスをした。


「マリアンヌは、いずれ俺と同じ孤児になると言ったんだ」

「あっ、そうだったね。どうやってお父様を助けたらいいのか、全く考えていなかったから、つい、そんなことを言っちゃったの」

「それなのに、俺を探したのか?」

「エリアスがまだ、孤児院にいるのか確かめる方が先だったから」


 乙女ゲーム『アルメリアに囲まれて』では、いつエリアスがバルニエ侯爵の養子になるのかは、明記されていなかった。


「孤児院からいなくなる……養子か、奉公、逃亡……の可能性があったってことか?」

「……エリアスは、私の話を信じてくれるの?」


 こんな未来を予知していましたっていう私の発言を。


「信じてほしいって言ったのはマリアンヌじゃないか。それに、旦那様は実際、命を狙われていたからな。ポールやアドリアン、オレリアを相手に、マリアンヌ一人でどうこうできるとも思えない。事前にその情報を知っていたとしたら、まず味方になりそうな人物を見つけるのが妥当だ」

「うん」

「当時、邸宅にはリュカがいた。それなのにも関わらず、俺を頼ったのは、その、マリアンヌが本物じゃないから、と考えれば辻褄が合う」


 凄い。私の(つたな)い説明で、これだけ理解するなんて。やっぱり、エリアスを選んで良かった。


「……リュカは、私が本物のマリアンヌじゃないことに、気がついていたわ。この世界に来てすぐに、誘拐騒動があって、私、すっかりリュカのことを忘れていたの。本物のマリアンヌにとって、幼なじみの存在を。大事なポジションにいたのに、エリアスを連れてきて、酷いって言われて、(しま)いには怒らせてしまった」


 そう。リュカとは最初から関係が(こじ)れていた。


「認めたくなかったんだと思う。自分の知っているマリアンヌがいないことに。その行き場のない感情が、エリアスに向かったんだって、今なら分かるの。……嫌な思いをさせて、ごめんなさい」

「いや、あいつの諦められない気持ちは分かるからいいんだ。それよりも気づいていたって、あいつに話したのか?」

「ううん。言っていないわ。でも、言葉の端々で感じるの。自分の知っているマリアンヌじゃないって言われている気がして、辛かった」

「……だから、あいつに甘かったんだな」


 う~ん。リュカは元々甘えん坊っていう設定だったから、気にも留めなかったけど。エリアスからは、そう見えていたのかな。


「もしかしたら、罪悪感が心の片隅にあったのかも。思わせ振りな態度にならないように、接していたつもりなんだけど」

「……善意を好意と勘違いしたあいつが悪いんだから、気にする必要はない」


 相変わらず、リュカに対してはバッサリだなぁ。同じ攻略対象者だから? ううん。ユーグやケヴィンとは仲が良かった。


「それよりも、さっきの話なんだが、旦那様のことは邸宅にいれば、薄々勘付くことだろうけど。俺のことを知っていたのは、どういうことなんだ? 俺が孤児院にいない可能性もあった、というのも引っかかる」

「うん。エリアスが疑問に思うのも無理はないわ。……私は、元いた世界で、この世界のことを知っていたの。乙女ゲーム。ううん、恋愛ゲームとして」


 正式に言うと、女性向け恋愛シミュレーションゲームだ。


「ゲーム?」

「私が本物のマリアンヌじゃない以上に、信じられない話だってことは分かるの。でも、現にゲームのヒロインであるマリアンヌや、攻略対象者のエリアス、リュカ、ユーグにケヴィン。さらに、フィルマンまで現れた。もうストーリーはだいぶ変化してしまったけど、ここは私が知るゲームの世界なのよ」


 またしても言い終えてから、アッとなった。いくら何でも、一気に喋り過ぎた。

 これじゃ、さすがのエリアスでも、パニックになるよね。


「そのゲームというのは、どういう内容のものなんだ? マリアンヌがヒロインとか、俺が攻略対象者、というのも、よく分からないんだが」

「ごめんなさい。気持ちが先走っちゃって」


 私はゆっくりと、乙女ゲーム『アルメリアに囲まれて』についてエリアスに説明した。


エリアスへの説明回でした。すでに読者様は知っている内容なので、今更な感じなんですが。

マリアンヌやエリアスの動揺振りを楽しんでいただければと思います。


次回も、引き続き説明回になります。後半です。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[良い点] これは、エリアス君頑張って冷静に聞こうとしてくれてますが衝撃ですね! ここまで正直に話すものだとは思っていなかったので驚きました。 乙女ゲーム、攻略対象者……別世界の住人にはこれらの言葉が…
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ