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第85話 「貴女を助けられるのは、彼しかいない」

ブックマークといいねをありがとうございます!

 

 バルニエ侯爵令嬢の、婚約者が、王……太……子……?


 フィルマン・ヨル・バデュナン。そう、レリアは言っていた。婚約者……婚約者!?


 待って、何で?


 フィルマンは確か、乙女ゲーム『アルメリアに囲まれて』の攻略対象者の一人“王子”だ。


 オレンジ色の髪に紫色の瞳。攻略対象者の中で、一番整った顔立ち。

 誰もが憧れる、物語の中の王子様。それがフィルマン・ヨル・バデュナンだ。間違いない。


 でも、マリアンヌと婚約した後、王太子になった、と思うんだけど……。

 あぁ、そっか。マリアンヌじゃなくても、婚約すれば王太子になる設定だったのかな。


 いや、その前にフィルマンは婚約者がいたはずだから、王太子になる条件じゃない。


 あれ? なら、フィルマンの元婚約者は? 彼女はどうなったの?

 私は王子ルートに入っていないんだから、フィルマンは彼女と結ばれる……はず、じゃぁ……。


 エリアスがバルニエ侯爵にならなかったから、フィルマンルートも変わってしまったの?


「マリアンヌ?」


 エリアスに肩を掴まれて、私はゆっくりと顔を上げた。それと同時に、意識も浮上する。


 目の前には、不安と焦りが入り混じったような顔をしたエリアスがいた。


「エリアス……」


 頭がごちゃごちゃして、気持ち悪い。それに何だか頭も痛くなってきた。


「うっ」


 痛みが右から左へ走る。

 考えなければならないことがあるのに、扉をぴしゃりと閉められたような気分だった。そう、まるで今はダメだと、遮断されてしまったのだ。


 私は右手でこめかみを押さえ、胸元に左手を添えた。


 痛い、気持ち悪い。


「マリアンヌ!」

「エリ……アス……」


 助けて――。


 そう言おうとした時には、もう目を開けていられなかった。



 ***



 意識が下へ下へと下がっていく。底知れない暗闇の世界へと。私は逃げた。


 四年前の選択が、行動が正しかったのか、分からなくなってしまったのだ。その途端、私は恐怖に襲われた。


 ストーリー自体はだいぶ変わってしまったけれど、これまで出会った攻略対象者の未来は、(おおむ)ね変動はなかった。


 エリアスは、バルニエ侯爵ではなく、カルヴェ伯爵へ。

 リュカは、色々あったけど、使用人のまま。

 ユーグに至っては、問題だった父親と姉から離れ、母親と穏やかに暮らしている。

 ケヴィンは……まぁ、ネリーの頑張り次第かな。


 けれど、王子ことフィルマンは違う。

 ストーリーにすら上がることのなかった人物に、攻略されていたのだ。


 ううん。レリアを非難しているわけじゃないの。ただ、その事実が怖かっただけ。


 私の知らないところで、勝手にストーリー補正が働いていたこと。

 それによって、フィルマンの元婚約者が、婚約破棄されたという強制力に。

 恐怖しない方がおかしかった。


 やっぱり四年前、お父様を説得してでも、エリアスを伯爵邸に連れてこなければ良かったのかな。

 ううん。そしたら、お父様の運命は――……。


「ストーリーの進行通り、命を落としていたと思うわ」

「誰!?」


 ここは、私しかいないはずなのに。


「そうここは、私しかいない。貴女と私。“マリアンヌ”の精神世界」

「……いたんだ。この体に、ずっと……」


 本物のマリアンヌが。


「うん。ごめんね。私の人生なのに、ずっと貴女に押しつけてしまって」


 姿は見えなかったが、マリアンヌの悲しみがダイレクトに伝わってきた。

 ここが私たち“マリアンヌ”の精神世界だからだろうか。


「いいの。私はすべての困難に、立ち向かえとは思っていないから。逃げることだって、時には必要だもの」

「今みたいに?」


 マリアンヌの問いに、私は言葉を詰まらせた。


「でも、私と交代しようとは思っていないんでしょう。四年間とはいえ、貴女には大切な人ができたんだもの。大丈夫。彼なら受け止めてくれるわ」

「エリアスに話せっていうの?」

「ここで不安がっていても、私にはどうすることもできない。悩みを聞いて、一緒に考えることはできても、それが限界。貴女を助けられるのは、彼しかいない。勿論、支えることもね」


 確かに今、私に必要なのは話し相手じゃない。

 この押し潰されそうな不安から、助けてほしい。他でもない、エリアスに。でも――……。


「信じてもらえると思うの? ここが乙女ゲームの世界だって」

「私も貴女と性格が似ているから、その不安は分かるよ。さっきだって、貴女に話しかけるの、勇気がいったんだから。私って分かってもらえなかったら、どうしようって」


 そうだね。自分の精神世界に、別の人格がいることを受け入れないこともある。さらにパニックに(おちい)ることだって。

 私はもう、マリアンヌがいないと思っていたから、尚更。


 うん。彼女が勇気を出してくれたんだもの。私も!


「もし、受け入れてもらえなかったら、またここに来ていい?」

「あまり来ない方がいいと思うけど……。私はいつでも歓迎するわ」

「ありがとう、マリアンヌ」


 私がホッとしたのと同時に、穏やかな空気が流れた。きっとマリアンヌも安堵したからだろう。


 そうして私は、背中を押されたかのように、意識を浮上させた。

 私の、ううん。私たちの選択が正しかったのか。答えを求めに。


精神世界での会話について。二人しかいないので、どっちがどっちか分かるかと思うんですが。

あえて、口調を同じにしているため、分からなくても問題はないように書きました。

どっちも、マリアンヌなことには変わらないので。


次回、エリアスに……話します。


エリアスがどんな反応するか気になる方は、ブックマーク・評価・いいねをよろしくお願いします。

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― 新着の感想 ―
[良い点] マリアンヌがこんなにショックを受けるとは。 ここまでは、わりと彼女の計画通りというか、想定内だったんですね。 あまり、もとの話から逸れないようにしておかないと、先でバッドエンドになる可能性…
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