囚われたエレナと、趣味の悪いコレクション
五話?
ーーーバキバキバキバキーーー
物凄い衝撃で吹き飛ばされたエレナは入口付近に置かれていた木箱の一つにぶつかり木箱を破壊して溢れ出た物言わぬ柔らかいものに受け止められる。
わけのわからない大量のぬいぐるみだ。
ぬいぐるみのほとんどがわけのわからない形容で、なにを模した縫いぐるみなのかさっぱりわからない。
当然、木箱を破壊させてしまうほどの衝撃を受けて吹き飛ばされたエレナもまた無事では済まされない。
着ていた装備がところどころ破けてしまい、上はブラ一枚の下はボロキレを巻いてるような状態。
こんな最悪のタイミングで、イヤーンとか乙女のピンチだ! なんて言ってられない。
眼前には扉に映りこんだ影がグニャグニャと揺れている。
まるで、久しぶりの贄を見た悪魔のような形相。
エレナにとって幸運なことはブラジャーが無事な事だ。
ブラジャーさえ無事ならばどうとでもなる。 エレナはそう思っている。
この扉に宿った影がすべての元凶であり、この状態を作り出した張本人であるという見解のエレナ。
それと同時にこの状況と眼前の影に対してエレナの本能が警鐘をならしている。
ある意味、丸だしではなく丸腰のエレナ。
だが、関係ない。
エレナは両手手の平を頭上に掲げて一言だけ呟くと瞬時にして手の平を振り下ろし、眼前の影へと向ける。
エレナが突き出した手の平にはゴゥゴゥと音を立てて燃え上がる火球が火の粉を撒き散らし渦巻いている。
大きさは成人男性の頭一つ分くらい。
そして、次の瞬間……それは爆発的な勢いで発射され、火の粉を撒き散らしながら尾を作り、真っすぐに出入口に宿る影へと衝突した……。
したかのようにみえた。
火球が、エレナの寸分の狂いもなく命中し爆発したと思った瞬間だった。
扉の前でエレナ火球を受け止め燃え上がる物体が、そのまま一歩、ニ歩と歩き、そして、三歩目を歩きだそうとしたときにそれは、その場にバタリと、音を立てて煙を巻き上げながら倒れる。
煙が薄れるその向こう側、扉を確認しようとしたのだが、できなかった。
なぜならば、燃え尽きて細い煙りの立ちのぼる向こう側には無数の影が出現し、ゆっくりとこちらに向かってくる。
ーーーーズチャッ、ズチャッ……ズチャッーーーー
。
浅黒い肌の、顔から目がこぼれ落ち、落下しそうな眼球を揺らし、背中から漏れた内蔵を引きずりながら歩くのは、ゾンビやグールといった類。
人の形をした生き霊。 生きた屍が、衣類とは言えないボロ着れをまとい、考えるための頭があるのかどうかわからないが、右往左往しながら、ゆっくりと向かってくる。
脚が折れているのか定かではないが、脚を引きずるようにしているので、エレナが生きた屍を相手にするのには時間がかかりそうであるのだが、この生きた屍が出現したことにより、顔を背けたくなるような強い臭いが充満する。
生きた死霊が放出する人肉の腐敗臭だ。
そんな精神力を削って来る臭いにエレナの胃袋の中身が逆流しそうになっている。
吐き気に耐え兼ねて戦線離脱ということはできない。
もちろん、エレナも生きた屍が到着するのをただ待っているなんてアホなまねはしない。
生きる屍がエレナと相対するのには時間がかかりそうな雰囲気。
ならば、「今のうちに」 と、ズタボロになってしまった装備を脱ぎ捨て、パンツ一枚、ブラ一枚の下着姿になる。
身につけているブラからはこぼれ落ちそうな胸がたゆんたゆんとゆれているがエレナは気にしない。
こんな状況だから誰も見てないだろうと確信しつつ、
自身の胸を守っているブラの中、乳房とブラの間に手を突っ込んで予備の装備を引っ張り出して、急いで着替える。
「やってやろうかしら!」 と自分に気合いを入れて一歩踏みだそうとしたときだ。
ふいに足元に散らかったぬいぐるみに視線がうつる。
「わけのわからない人形……。なんなのかしらね? コレ……………。女の子が喜びそうな人形でもないし、物好きな王様がいたものね……」
と、散乱しているのは大量のぬいぐるみ……。
ぬいぐるみ全般、子供向けの縫いぐるみに、大人用のぬいぐるみを含めて足元に散らばるぬいぐるみを含めてぬいぐるみという類いのものにエレナの心は惹かれない。
エレナの心が引かれるのはズバリ、宝石や珍しい鉱石等の金目のもの、キャロルに換金して生活の他足しになるものだ。
と、散らばっているぬいぐるみをどうしようかと悩んでいた時だ。
エレナは、見逃さなかった。
一筋のどす黒い雰囲気が散乱していた大量の人形の中の一体に突き刺さる。
ーーパーン!ーーー
風船が割れるような激しい音とともに人形がはじけ飛ぶ。
人形の中身である、ふわふわの綿が飛び散り、その中に灰色の粉々に砕け散った結晶の欠片が混ざっているのを見逃さなかった。
「ねぇ、あれってさ……」
と一言だけ漏らし、エレナは、ゼルダ城の歴代の王様がよっぽど、性格の悪い人物だったと推測すると同時に、あの入口から発生する混沌の気配に警鐘を鳴らす。
【身替わりの人形】
かつてエルフの一族が好んで持っていたとされる身替わりの人形。
即死魔法限定で身替わりとなるぬいぐるみだ。
エルフといえば、長命の種族として有名だが、あくまでもそれは寿命の話しであって決して不老不死ではない。
その身体を動かすのは人間と同じ心臓だ。
心臓を突き刺されれば当然だけど、命にかかわるような怪我や病気だったり呪いや魔法等の今みたいな即死魔法を受ければ、死んでしまうのは人間と同じ。
一部の噂ではあまりに長命な故、自害という形でその命を絶つエルフもいたと伝えられている。
エレナは気づいた。この混沌の気配を放出させる相手は、相当ヤバい奴のようだと。
「これは保険が必要かしら?」
足元に散らかる数々のぬいぐるみや造形物を漁る。
もちろん、全部かき集めて胸の中に入れておくのもありなのだが、できなかった。
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