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そうして僕は死にました

 最初にあったのは混乱。

 何も見えなかったし、分からなかった。

 感じたのはまるで腐った魚のような吐き気を催す匂いと、そして痛み。

 痛み?

 痛い。

 痛いよ。

 叫び出したいほどの痛み。

 実際に叫んでいたはずなのに、その声は僕の耳には届かない。

 胸が熱くて気持ちが悪い。

 体が熱いはずなのに、寒気がする。

 自分の体が壊れたおもちゃになったみたい。

 手も足も動かない。

 それどころか手も足もそこにあるのか分からない。

 ただ視界の端で自分の腕が勝手に持ち上げられて、そうしてぐちゃりと嫌な音が聞こえた気がした。

 誰かが壊れたおもちゃで遊んでいるみたいだった。

 それが分かった時には僕はもう壊れちゃっていた。

 つながっていないといけない手が離れて動いている。

 手を振るみたいに遠く揺れる。

 そうなって痛いはずなのに痛くない。

 自分が考えていることがよく分からない。

 熱が出た時に見る、ぐちゃぐちゃ、どろどろの悪夢みたいな暗闇。

 僕はおもちゃ。

 壊れたおもちゃだ。

 僕がそうなったことを確認したみたいに、僕に乗っかっていた何かが動く。

 そう、僕の体の上に何かが乗っていた。

 暗くて分かりにくかったけど、そんなに大きな体じゃない。

 お父さんでも、お母さんでもない誰か。

 それが暗闇で、違う、暗闇がうごめいていた。

 姿が分からないのが、なおさらおそろしい。

 僕の体は震えていたと思う。

 でももう今はよく分からない。

 自分はどうなったのだろう?

 すごく痛かったはずなのに、もう体のどこも痛くなかった。

 ただ寒かった。

 寒い。

 寒いよ、お母さん。

 どこ?

 どこにいるの?

 まるで僕が呼んでいるのが分かったみたいにお母さんの顔がそこにあった。

 でもなんだかおかしい。

 お母さんの顔は見たこともないくらい怖い顔をしていて、口から何かが流れていた。

 流れた先には何もない。

 首もない。

 体もない。

 頭だけ。

 頭だけになったお母さんが濁った目で僕を見ている。

 その時何かが笑った気配がした。

 暗闇が嗤う。

 ニヤリと嗤う。

 ああ、お母さん。

 寒いよ。

 助けて。

 お母さんは何も言わない。

 何も言わずにふわりと浮き上がったみたいになって、そのままどこかに飛んで行っちゃう。

 どこ?

 どこに行くの?

 そう思った時にはもう僕の体の上にいた何かもどこかに行って、もう誰もいない。

 お母さんも、お父さんも、真っ暗な何かもいない。

 すごくそれが寂しかった。

 僕はひとり。

 ひとりぼっち。

 ひとりぼっちで死んじゃうんだ。

 目に映るのは青白い光。

 丸い光。

 それだけがぼんやりと壊れちゃった僕の目に映っている。

 やだな。

 怖いよ。

 誰か。

 誰かいないの?

 何もかもが分からなくなっていって、ただ青白い何かを眺めていて、やがてそれも真っ暗になる。

 何も見えなくなった。

 何も見えない。

 そうしてどれくらいの時が経ったのだろう。

 いつの間にか、真っ黒い何かが目の前にあった。

 その真っ黒い何かが人の形をしていたことだけが最期に分かる。

 誰?

 答えるようにそれがそっと手を出した。

 5本の指をほんの少しだけ広げるように、手のひらをこちらに向けていた。

 まるで飼っている犬に待てって示すみたいだ。

 なに?

 答えはない。

 そうして僕は死にました。

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