奇跡の日
だらだらと、気のむくままに書きました。 いちお、ラブストーリーですが、あまり甘くありません。 こんなですが、読んでやって下さいm(__)m
少し、本当に少し。泣き出しそうになりながら玄関のインターホンを押すのとドアが開くのではほぼ同時だった。
ドアを開けた人物は、かなり面倒くさそうな顔をしていたが、すぐ開けてくれたあたり待っていたのだろう。
「…おはよ。留衣…」
「おう…」
留衣はドアを開け片手で支えたまま体を傾け片側を空けた。
その隙間からそろりと入り込むと後ろでドアの閉まる音がした。
「…で?」
で?と言われても困る。
今日きた理由など一つしかないし、その事を分かっていたから留衣は待っていてくれたはずなのだ。
改めて言うのはなんか恥ずかしい。しかも…
「で?って言われても…」
「バカ。箱の中身だよ。なんで来たかなんてしってるし。」
なんだ、そういうことか。だけど、ホッとはしない。言いにくいことを余計単刀直入に聞かれてしまっただけなのだから。
「箱の中身。なんなの?」留衣の整った顔がすぐ目の前にきた。
心拍数が一気に上昇する。それは、単に留衣の顔が近いからか、今からあり得ない醜態を留衣の前に曝け出す恥ずかしさなのか、よくわからない。
何も言わないあたしを見兼ねて留衣は箱を取り上げた。
「あっ!!」
スルリと箱のリボンを解く長い指。
いつものあたしだったら見惚れるだろうが、今は目も見られない。
恥ずかしい!
恥ずかしい!!
恥ずかしい!!!
目を覆っている手がカタカタふるえる。
箱が開いた音がする。
長い、沈黙。
耐えかねて涙が滲んだ時だった。
「…これ、お前が…?」
驚いたような留衣の声。
見上げると、あたしの作ったあり得ないほど不細工なケーキを持ったままあたしを見つめていた。
ほとんど泣きながらコクンとうなずくと、言い訳が次から次へと出てくる。
「い…つも通りマフラーとかでいいかなって思ったんだけど、ほら留衣結構甘い物すきじゃない?ケーキなんかどうかなって思ったんだけど上手く焼けなくて、だけ…」
あたしのお喋りな口は、無口すぎる留衣のそれでお喋りを禁じられてしまった。驚いて目を閉じる事すら出来ないあたしを、留衣はケーキを置いて抱き締めた。
「る…い」
あまり上手く状況を飲み込めないあたしは、ようやく離れた口でそれしか言えない。
留衣はあたしを抱き締めたままポツリと言った。
「…超うれしい。」
顔を上げてあたしをみたその顔は、言葉通り喜びに満ちていた。
いつものしかめっ面じゃない、穏やかな笑顔。
「…お前、めっちゃ不器用なのに、作ってきてくれたの?…俺、ヤバイくらい嬉しいわ。」
そしてまたあたしの肩口に顔を埋めると、はっきり言った。
「大好き。」
普段、絶対言わない言葉。いや、そう思っていてくれた事すら今日初めて知った。
どうしよう。泣けてきた。
「…ありがとう」
しばらく、そうしていた後、思い出した。
「あっ、そうだ。まだ言ってない!」
あたしから離れた留衣が不思議そうな顔をする。
「誕生日おめでとう、留衣。」
大好きな人が生まれてきて、大好きな人と結ばれた、それは奇跡の日。