追放された大魔王は、ざまぁはしない
大魔王はとぼとぼと歩いていた。リュックを背負いたったひとりで、王城から離れた荒野を。
というのも四天王に追放されてしまったからだ。
「大魔王ってなんの仕事もしてないよね」
「そもそも、どれほどの実力があるんだ?」
「俺たちが戦いを挑んでも断るしな」
「親が大魔王だからって、子供も大魔王っておかしくね?」
彼らはそう言い出したかと思うと、大魔王追放を決定してしまった。
とほほな気分で歩む大魔王。
彼は四天王が知らないだけで、きちんと仕事をしていた。書類の。
魔王軍は血気盛んな者ばかりで、それはおおいに結構なのだが、力にばかり重きを置く彼らは、ですくわーくというものがあるのを知らなかった。
だがこれは大魔王もいけない。たいした分量ではないから自分がやればよいと、ひとりで抱えていたからだ。
それに実力を見せないのも、鍛練ですら他人と戦わないのも、彼の独特の美学のせいだ。
実力を隠しているのは、いざというときに
「我の真の力を見せてやろう」
ともったいをつけたいからだ。相手は人間の勇者一行になるが、四天王たちにはモブとして自然に驚いてほしかった。
戦わないのは──
「仲間を傷つけたくないじゃん」
ひとりごちる大魔王。
彼は由緒正しい血の流れる真の大魔王なのだ。四天王なんて比べ物にならない莫大な力を有している。
あまりに強大すぎて弱さの加減が苦手だった。戦いなどしたら確実に相手にケガをさせてしまう。
だから大魔王はどうしても仲間とは戦いたくなかったのだ。
その結果まさか仲間から追放されてしまうなんて。
彼はボタボタと涙をこぼしながら、歩んで行った。
◇◇
追放から数日後。人に化けて人間のホテルで優雅な生活を送っていた魔王のリュックが赤く光始めた。
彼は中から大きな水晶を出す。
そこに彼の近侍が映っている。
「四天王が予定どおり、勇者一行にやられています」
「ふむ。いい感じだな」
追放された大魔王はその足で勇者一行の元へ赴き、最強ドラゴンや無敵ゴーレムをすっとばせるよう、瞬間移動で魔王城の近くまでこっそり送ってやったのだ。
そんなことを知らない四天王は次の大魔王を決めるための死闘を繰り広げていたものだから、満身創痍で勇者に立ち向かう力が残っていない。
大魔王はにやりとする。
「では行くかな。かっこよく助けに入れば皆、私を尊敬し直しすだろう。我ながら素晴らしい作戦!」
ふははははと大魔王らしく豪快に笑うと、彼は城を目指して瞬間移動したのだった。