長野看護師の休日
夜勤明けの休日である。明日は完全休日。しっかり休めと言われているようだ。しかし、長野珠穂は昨日のできごとについて考えていた。
ナースの間で占い師と呼ばれている患者さん。鏑木さん。手に触れたらとても熱く感じた。あれはいったいなんなのだろう。そして、あのアドバイス、なのかな?ちょっと気持ち悪い。
「一人でおでかけ、ぶらりお近くの散歩、ぐらいがいいと思います」
ですって。占いでなにか出ているのなら、ラッキーアイテムとかそういうものを教えてくれればいいのに、よくわからない。中休みのときに聞いてみたけれど、そうしたアドバイス的なことを言われた人はいなかった。生まれ月や出身地を当てられた、という話。
「あれは、占い師じゃなくて、ホームズさんじゃないかな?」
と言ったのは、小夜ちゃんだった。看護学校の同級生。もう、10年近い付き合いになる。お休みが一緒になったときには一緒にお出かけすることもあったけれど、同じ病棟勤務になってしまったから、今後はそんな機会もしばらくなさそうだ。その小夜ちゃんは昔から推理小説、ミステリの類が好きなので鏑木さんとのお話が盛り上がったのかもしれない。
「観察して、服装や言葉遣い、しぐさからどういう人なのかを推測するってこと」
「趣味が推理小説って言ってたからね」
推理小説を読むことと探偵のような推理力を持つこととはちょっと違うような気がする。読んだからといってそんな力がつくとは思えないし、真似をしているだけにしては言われたことは的中しているようだし。
それより不思議なのは、あの手から感じた熱。あれは何だったんだろう?病変と言っても、「一瞬、手が赤く熱くなってすぐに冷める」なんて話は聞いたことがないし、そんな症例は読んだ覚えもない。注射の作用で熱く感じることはある、というのは習った。でも、注射は使ってない病室での出来事だし、ほかのナースからそんな話は出ていない。わたしだけが感じたのだろうか?それとも、皆黙っているだけ?わたしも誰にも話していないけど。それに、触れていた私に感じられたのはどういうことだろう?
『考えてもわからないものはわからない。それより、今日はお休み、なにしよう?』
次に小夜ちゃんと同じシフトに入ったとき、帰りにお茶か食事に誘って相談してみることに決めた。