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熱帯地エンドラーサ 3


 四人がエンドラーサに到着した時から半日以上の時間が流れ、夕焼けが見える頃には体感で直ぐに感じられる程に気温が下がっていた。

 陽がひとたび地平線の向こうへと隠れようものなら、すべてが凍てつくまさしく極寒の地と化す。

 まるで別の世界にでも来たのような温度変化の具合である。

 

 あれからすっかり調子を取り戻したエクシアと共に食事を済ませたエモンは、残る二人と合流すべく街の入り口に待機していた。

 その姿は、これから砂漠越えをするというのにまるで雪山にでも行くのかというような防寒具に身を包んでいる。しかし、本来であればこれでも足りないくらいだった。

 エンドラーサの砂漠を越えるには、陽と陰の時間を上手く使い分けなければならない。

 灼熱を行くか、極寒を行くか。

 究極の選択ではあるが、このパーティにおいてはシャルドネがいる限り、極寒が択一だった。




「来ないですねー」


 まだかまだかと時折背伸びをしながら遠くの方を見ようとしているエクシアが呟いた。


「そうは言ってやるな。まだ集合には早い時間だ」


 エクシアと何かをするわけでもなく食事をしたり買い物に付き合ったりはしたものの、想定していたよりも時間を持て余してしまったエモンはそれじゃあ入り口で待ってるかと提案したのだった。


「リンクスさんとシャルドネさんってこう、全然タイプが違うのに仲が良いですよね」


 待つことに退屈してしまったのか、二人揃って街中へ繰り出していることからエクシアは言った。

 真面目で仕事熱心なリンクスと、少しばかり生意気でどこか幼さが残るシャルドネ。

 意外な組み合わせといっても差し支えなく、とても意気投合するようには見えない二人だけれど喧嘩しているところはエモンも見たことがない。


「それはアイツらが互いを尊重しあっているからじゃないか」


「尊重、ですか?」


 エクシアはエモンの言葉に首をかしげる。


「そう、尊重だ。自分に出来るからと決してそれらを押し付けることはしない。また自分に出来ないことをして貰う時は感謝と敬意を持つ。あいつらは、剣士として魔法使いとして互いを尊重しているんだろう」


「おぉ! まさしく男の友情ってやつですね!」


「……少しずれているような気もするが、まぁそういうものだ」


 エクシアの自信満々な表情を見て、否定することが出来なかったエモンは思わずそんなもんだと答えてしまった。


「私は、どういう風に見られているんでしょうか?」


 ふと、気になったのかエクシアは自分はどう見られているのかとエモンに聞いた。


「ん?エクシアか?エクシアは――」


 そのあとを言いかけたところでエモンの言葉は突っかかってしまった。

 ……思わずゲロというワードが出てきそうになったからだ。


「たまには私も一緒に同年代のお二人と遊んでみたいなーって思うんです」


 でも誘ってもらえないし、とどこか拗ねるエクシア。


「……実は嫌われてたり、なんてしないですよね?」


「それは無いと思うがなぁ」


 これには即答だった。

 おそらくあの二人もエクシアのことは嫌ってはいないだろう。

 ただ、何故かとはあえて言わないが毎回エクシアがダウンするものだから、回復するまでの空き時間を自由に過ごしているだけに過ぎないのだ。

 そこにエクシアがいないというのは至極当然なわけで――。

 オフの日ともなれば、エクシアは協会に返却しているため行動を縛ることも出来なければ気軽に遊びに連れ出すわけにもいかない。

 となると、こうした依頼を受けている途中しか接点が無いわけだが、当の本人が寝込んでしまうのでどうしようもないのである。


「今回の依頼が終わればすぐに戻って報告する予定だったが、一日だけこの街に滞在するか?」


「え?」


 これまでいつも依頼が終わればすぐに帰路についてギルドへ報告し、少し豪勢な食事にエモンが連れて行ってくれて解散する流れだったのだ。

 突然の提案にエクシアは目を点にしてエモンを見た。


「随分と長い間一緒にパーティを組んでいるから盲点だったが、たまには全員で息抜きをしてもいいだろうと思っただけだ。仕事だけの間柄じゃあお前もつまらんだろう」


「あの、いいんですか……?その、報告は――」


 確かにギルドへの報告は期限が設けられているが、ギルドへの報告はそこまで問題ではない。

 問題は協会からのエクシアのレンタル出来る期日のことだ。


 今回の依頼は緊急性を伴う為に飛竜を貸してくれたといったが、実際のところはエモンがエクシアの乗り物酔いを逆算した上でギルドへ提案し、それを呑んでもらったのだ。

 サラマンダーを討伐し、再びエンドラーサへ戻ってくるのはギルドへ報告している計画プランでいけば今より二日後。

 そして飛竜でギルドへ戻れば、エクシアが再びゲロったとしても最後に飯を食っても充分に間に合う時間設定だった。

 しかし、そこから一日停泊するとなれば確実に延滞してしまうことは目に見えていた。


 まさか自分のことが噛んでいようとは露知らず、ただ単にパーティメンバーとして今回の計画プランがギルドへの報告までだと思っているエクシアは目を丸くしたのだった。

 達成率100%を誇るパーティなのに良いのかと。


「報告を完了するまでが依頼であるのは間違いないが、今回はサラマンダーを討伐することが目的なんだ。目的さえ期日内に果たせば報告が一日遅れた程度で何か言ってこようものなら俺がなんとかしてやるさ」


 レンタルの期日についてはあえて伏せながらエモンは言葉を続ける。


「たまには計画プラン通りいかないことだってあるだろ?」


 そう言って不器用ながらにもエモンは笑って見せた。


「あ、ありがとうございます!! 私もこのことは協会へ内緒にしておきますね!!」


「当たり前だ、くれぐれも気を付けてくれよ」


 ギルドよりも厄介な協会へ漏れたらさすがにエモンといえどうっかりどこでは済まない。

 だが、浮かれてしまってうっかり漏らしてしまいそうなエクシアを見ていると、やっぱり辞めようかとも思えてきてしまうのだから不思議だ。


「はいっ!!」


(でもまぁ、これくらいは許されてもいいだろう。なぁ?)


 それでも彼女が浮かべる満面の笑顔を見ていると、同じ釜の飯を食う"仲間"として、何よりも年上の甲斐性としてこれくらいはしてやろうと一度思ったのだから今更取り下げるわけにはいかないと空を見上げながらエモンは思う。


「あ、エモンさん。お二人が来たみたいですよ!」


「そんな時間か」


 再び背伸びをして遠くの方を見るエクシアがエモンを呼びかけながら手を振る。

 エモンの目にも遠くの方から手を振っている二人組が映り、本腰を入れるかのように大きな荷物の入った鞄を背負うのだった。

 


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