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ご安全に!


 とあるギルドホールのとある日常――。


 ある者は掲示板に張り出されている依頼を吟味し、またある者は即席のパーティを組むために募集をかけ、依頼後なのだろうか金を山分けしている姿も見受けられ辺りは大変な賑わいを見せていた。

 その日の宿代を稼ぐために訪れている者や、ランクを上げて更なる上位の依頼を受注出来るように高みを目指す者、畑仕事の手伝いを依頼する者から護衛を依頼する商人までと雑用からモンスターの討伐依頼まで幅広く取り扱っているこのギルドには様々な目的で多くの人が詰めかけている。


 ギルドが提供する依頼は完遂することに越したことはないが、命あっての物であり失敗しても生還さえすればそこまでの罰則ペナルティを受けることはない。

 それでも依頼が高難易度になるにつれて当然危険は付きまとうもので、命を落とす者も少なくはないのである。

 ギルドに属する傭兵たちは冒険者と呼ばれ、各々が目的とした依頼を完遂するために利害が一致すればパーティを組んだり、一人で依頼に当たったりしているのだ。

 当然、大人数でパーティを組めば依頼をこなしやすくはなるがその分、報奨金が山分けとなる為やみくもに人数が多ければいいというわけではない。

 実入りのことも考えて割に合うライン――、必要最小限の人数の選定が必要になるわけだが、そこが難しく、見誤ると依頼の失敗、果ては大事に至るような事故に繋がるのである。


 しかしながら少人数でありながらも高難易度の依頼を受け続け、一度も受けた依頼を失敗したことがなく信頼と安心を寄せられているパーティがあった。

 そんな彼らは現在、当該ホール内の一角に設置されている丸テーブルを囲んでなにやら神妙な面持ちで向かい合っていた。

 軽装を身に纏い腰に長剣を差した剣士らしき青年、黒のローブを羽織り背丈程はあろうか杖を肩にかけて座る青年、どこか宮殿の姫様を彷彿させるような装飾に身を包んだ聖女。

 三人共は若い身でありながら、身に纏う高価な装備が数々の高難易度の依頼を熟してきたことを表している――、しかしながらそれでいて奢るような態度はなくどこか貫禄を感じさせる様は自由奔放、唯我独尊をく冒険者が多いギルドにおいて異質な存在そのものであった。


「それではこれより荷物チェックを行う」


 そして傍から見ても――、いや誰がどう見てもこのパーティの四人目であろう人物のおっさん……、他の三人とは煌びやさもさることながら一回りは確実に年齢が違うだろう男性の声がした。

 屈強な筋肉で覆われた肉体を持ち、まるで大きな鉄くずのような大剣を背負った男性が腕を組んだまま、決して大きくはないが身体に響かせる重低音な声色を発したのだ。

 その合図と共にどこかピリつく雰囲気の中、男性は続けて「いいな?」と他の若い三人に問いかける。


「はい、問題ありません」


 男性の問いに対し三人は短く的確に、しかしながらはっきりと伝わるよう声を揃えて応える様はどこか洗練された統一性を感じるところがあった。

 そして返事を聞いた後、彼らの荷物の確認は始まった。


「現在の傷薬ポーションのストックはどうなっている」


「一人五本とし計二十本、数に問題はありません」


 主に応急処置に用いる傷薬ポーションであるが、その効用を遥かに凌ぐ程の回復魔法を得意とする聖女が傷薬を大きな鞄から取り出し、確かに二十本あることを伝えると――


「指さし呼称、傷薬ポーション――、"ヨシ!!"」 


 全員がテーブルに置かれた傷薬ポーションに向かって指をさして"ヨシ!!"と唱え、荷物の確認は続いていく。


魔力水エーテルのストックはどうなっている」


「僕とエクシアが使う分として十本、問題なく」


 魔法使いにおける魔力の保有量には個人差がある。

 大半の魔法使いであれば数回、熟練者とあれども数十回の魔法を使用したとなれば寝て自然回復を待つ以外には魔力水エーテルを補給しなければならない。

 しかしながら一日であれば魔力量の補給をしなくてもある程度の幅が効く程の実力を持った黒ローブの青年が言った。


魔力水エーテル――、"ヨシ!!"」


 再び全員がテーブルに置かれた魔力水エーテルに向かってヨシと唱え、さらに荷物の確認は続く。


「簡易テントはどうなっている」


「主要としてのテントが一つと、予備に一つ。寝袋は予備を含めて六つまであります」


 剣を腰に差した青年は大きな鞄に取り付けられてた袋から中身を取り出して数を確認し、報告した。

 

「簡易テント並びに寝具――、"ヨシ!!"」


 またまた全員が寝具に向かって指さし呼称を完了させる。

 

「携帯食料並びにサバイバル道具一式はこの通りだ、無駄遣いが出来る程の余裕は持たせていない。各自心得るよう」


「はい」


「今回受注した依頼は皆も知るよう、南東のサラマンダーの討伐だ。過去に行ったことはあるな? 現地は気温が高く湿度も高い。脱水症状を起こす可能性もあるから全員、水分補給はこまめに行え。また、休憩も小刻みに摂るつもりだが何か体調に異変を感じたり必要性を感じたら遠慮なく自己申告すること。体調管理も依頼の内であることを肝に銘じるよう。……ここまでで何か質問はあるか」


 ある程度の概要を説明しおえた男性は、若い三人に何か質問はないかと尋ねる。

 質問はあるかと言われてもこのような雰囲気では、声をあげようにも上げられないのではと周囲の冒険者たちは苦笑いを浮かべながら思う。


「エモンさん、現地へは船で?」


 しかしそんな周囲の思いとは裏腹に剣を腰に差した青年、リンクスが手を挙げて声を出した。

 指さし呼称の指揮を執った一回り年齢が違う男性をエモン呼び、どうやら移動手段についての質問をしたようである。


「いや、今回は緊急性を有していることから飛竜を使って島を渡る予定だ。費用もギルド持ちですでに予約してくれている。用意が出来次第向かう手立てだ」


 船での航海となれば南東の島まで二日と掛かるところが飛竜に騎乗すれば半日と経たず移動することが可能である。

 しかしながら時間の短縮に伴い費用は船の倍以上とコスト面で使用する者は数少ない。

 今回はギルド側の要請ということもあり、移動費用に関しては全額依頼主持ちとのことのようだ。


「では塩で体がベタベタになる心配もないですね」


 重苦しい雰囲気を和らげようとしたのか、船は苦手なんですよねと笑って見せたのは唯一の華。

 ふんわりと柔らかな声色で冗談めいた言葉を発したのは回復魔法を得意とする聖女のエクシアであった。


「でも君は船に限らず乗り物酔いしやすい体質だからね、あとで気付け薬を飲んでおきなよ。誰も聖女のゲロるところなんか見たくないんだからさ」


「そんなのはわかってますよぉ」


 そのエクシアに助言をするのは黒のローブを羽織りどこか気怠さを感じさせる男性、魔法使いのシャルドネだ。

 そんなシャルドネからの助言と余計な一言に少し顔を赤くして不貞腐れながらエクシアは返事した。


「んん」


 荷物チェックを終え、自身の担当する持ち物に問題が無かったことに安心し少しばかり口元が緩んでしまっていたエクシアとシャルドネに、場を持ち直すかのようにエモンは目を瞑り一つ咳払いをする。

 すると二人はハッとしてやばいやばいと姿勢を直し、その様子を見ていたリンクスは苦笑いを浮かべるのはいつもの光景、そして役割である。


「他に何か質問は?」


 再び問いかけるエモンに今度は誰も応答することはなかった。


「それではこれより、南東の地エンドラーサへ向かう。――構え!! 」


 丸テーブルを囲うようにして座っていた四人は立ち上がり敬礼をする。


「本日もゼロ災でいこう」


「"ご安全に!!" 」


 安全第一、完遂率百パーセントのパーティはこうして本日も依頼へ向かっていった。



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