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デビュタント開始とエスコートについて sideフェアラウネ

 馬車から下りた私達は、王城内で別れた。私はデビュタント用の控え室でと、お父様とお母様は高位貴族用控え室でと、お姉様はパートナー待ち用の控室でと、控える場所が違うためだ。


 社交界等って基本、入場する順番は決まっているの。まず最初に下位貴族である子爵、男爵、士爵が入場し、次が中位貴族である辺境伯爵と伯爵が、続いて公爵、侯爵位を持つ高位貴族が会場へと入る。そしてホストが入場し王族も入場する。もし他国の貴賓が出席する場合は、ホストや王族の前後で入場するの。

 今回はデビュタントだから、今回デビューする子達は王族の後に入場する。この舞踏会の主役だから、王族よりも重要視されているということみたい。


 そうそう。エスコートなのだけどね。エスコートは普通、家族や婚約者が相手をするのだけど、もちろん私みたいにいない人は沢山いるから、爵位順で決められるのよ。下の爵位の子は余ってしまうこともあるみたいだけど、その場合は王城側が騎士だったり侍女だったりを誂えているみたいね。


 でも、こういうのはデビュタントのときのみ。デビュタントが終わりデビューしたからには、相手は自分達で見つけないとならない。だから一応、どこの社交界でもパートナーがいない人用の控室が用意されていて、人にもよるけど、ここで急いで相手を探す人もいるみたい。別に相手がいなくても、笑い物になるわけでも軽く扱われるわけでもないのにね。ちなみにお姉様には、すでに婚約者がいるので控室で待機中。なかなかのイケメンよ。

 まあ、この年(15歳前後)で婚約者がいるのは珍しいのよ?婚約者持ちは、そうねぇ……全体の一割強ってところね。だからそういう人達は、学園で婚約者を見つけるわね。


 控え室で待っていると、一気に時間が過ぎて入場の時間となる。


 今日の格好は、紫一色のドレスと黒いベルトとアメジストのチョーカー、ドレスと共布の手袋と大輪の薔薇の髪飾りだ。テスタとアナ曰く、テーマは“紫の妖艶な薔薇”だそう。だからお化粧も、いつもより(あで)やかというか(つや)やかというか。口紅はいつもより濃い色だし。


 私はあまりこういうのは好きじゃないのだけど……2人が力を入れてくれたのを知っているからか、おかげで緊張せずに堂々と前を向いていられる。そう。たとえ私の数人前を歩いているのがギル様でも……っ!!


 そういえば知っていて?実は(わたくし)、ギル様の婚約者候補に上がっているのですわ。しかも第一候補らしいのです。うふふふふ。


 ……現実逃避してる場合じゃなかったわね。でも、ギル様の婚約者第一候補なのは本当よ。だって公爵位の令嬢は数人しかいないし、そのほとんどが血が近かったり他国の王族に嫁いでたりするし、他は全て婚約者持ち。ということで侯爵位でも1位か2位の地位にいる我が家は、相手として申し分ないわけ。それに私としても、ギル様は申し分ない結婚相手なのよね。実際に話したことはないけど、悪い噂は聞かないし。ギル様と結婚したら将来王妃という、とんでもない重圧が降り掛かってくるけれども。


 いや、本当はね?私は遠くからギル様を見たいのよ。決して近くにいたいわけじゃないのよ。でも(うち)侯爵家だし、多少の政略は仕方ないと思うのよね。その中でギル様は好条件だし、特に何事も(乙女ゲームとか、ヒロインとか、乙女ゲームとか乙女ゲームとか)なければギル様と結婚するんだろうなぁ、と。


 陛下の近くにいる宰相に名を呼ばれ、エスコートしてくれている侯爵家子息にひとこと断って離れ、近くにいくと頭を下げる。


「頭を上げよ」


 陛下から声がかかり、頭を上げる。陛下の近くには、王妃様とギル様がいる。


「マジア侯爵家が娘、フェアラウネ・マジアと申します。この度、デビューさせていただくこととなりました」

「うむ。楽しんでいけ」

「はい」


 陛下も大変ねぇ。デビュタントする子達皆に、こんなこと言っていかなきゃいけないのでしょう?しかも毎年。私だったら無理ね。


 陛下への挨拶を済ませ、宰相から白い薔薇が一輪贈られて耳の上に飾ってすごすごと下がった。


 しばらくすると、ようやくデビュタントの子達のあいさつが終わり、陛下の開会の言葉を合図として舞踏会が始まった。


 最初に踊るのはギル様と、その相手の令嬢。髪の先が深緑だから、王族の血が入っているわね。

 そしてギル様達が一曲踊り終わると、デビュタントの子女が加わって踊りながら、パートナーとの会話を楽しむのよ。


 私の相手は侯爵子息なんだけど、私この人あまり好きじゃないのよね……。


「フェアラウネ嬢?私が相手をしているのです。余所見などせず、私のことだけを考えてくれませんか?」

「まあ。ふふ、ヨゼック様ったら」


 え、何コイツ、気持ち悪い。この兄も好きじゃないけど、こっちは生理的に受けつけないわ。ナルシストなの?あ、そういえば私、ナルシストと脳筋と淡色って相性悪かったわよね?コイツの髪、淡い黄緑だし、目も淡いオレンジで話してる内容も自分の剣術や体力自慢ばかり。うん。完全に相性悪いわね。


 けれどそんな考えをおくびにも出さず、私はステップを踏みながらあらあらまあまあうふふふふ、と適当に相槌を打つ。……早く終わらないかしら。こういうときに限って、曲や時間の進みは遅く感じるもの。ある種の拷問よね……。


 ようやく終わったダンスに、私は若干の、いやかなり大きな疲労感を抱えて壁際へと下がった。本当は家族のところへと行きたかったのだけど、お父様は貴賓である隣国の使者達とお話しているし、お母様やお姉様はそれぞれで挨拶回りをしているから邪魔はできない。


「「フェアラウネ様、デビュタント、おめでとうございます」」

「ありがとうございます。ドルチェ様とライチ様も、デビュタント、おめでとうございます」


 私の幼馴染であるドルチェとライチが、いつもと同じように2人でやって来た。

 2人は私と同い年なため、もちろんデビュタントに参加している。


 今回は公式の場だから、初めの会話だけはしっかりと形式を踏んだ挨拶を行う。

 この場での形式とは、“デビュタントの子女達(主役)には、しっかりと祝いの挨拶をする”だとか、“爵位を持つ者は、自らより上の爵位を持つものには自ら足を運ばなければならない”とかの基本ね。だから2人は毎回、私と話すときとかはわざわざ来てくれる。まあ、基本中の基本なんだけど。


「2人とも、パートナーはどうしたのですか?どちらも素敵なパートナーにエスコートしてもらっていましたよね?」


 ドルチェとライチは、15歳なのに珍しく婚約者持ちなの。


 ドルチェの婚約者は、オーツェルグ魔王国のレストレア男爵。もちろん魔族だから、年は圧倒的に男爵が上なのだけれど、見た目は何故か若いまま。魔族も緩やかに年を取るのに不思議ねぇ。少し腹黒(?)なような、そうでないような……。


 ライチの婚約者は、メヤランス獣王国のマリーベル伯爵家長男。こちらは獣族だから、寿命等に関する年の概念は人族とほぼ変わらない。柴に似たイヌミミが立派な好青年。


 どちらも国外の貴族なのは、スターブル伯爵であるおじ様がお父様の部下で外交官だからね。ドルチェの場合は、同じく外交官であるレストレア男爵がたまたまスターブル家に来て見初められ、ライチの場合は、「ドルチェが婚約したのだからライチも!!」と、おじ様がお見合いをセッティングした結果よ。ちなみにその時、2人は8歳。ライチはともかく、ドルチェのときは私もその場にいたから、思わず「ロリコン……」と呟いてしまったのは悪くないわよね?


 レストレア男爵はドルチェを溺愛していて、ドルチェも男爵も幸せそうだし、ライチはライチで婚約者に事務系統の才能がないから代わりに領地経営を任されて嬉しそう、幸せそうだから、是が非でもこのまま結婚まで進んでもらいたいわ。


 ……ん?私?私は知っての通り、ギル様の婚約者候補だから。縁談はいくつか来てるけど、全て蹴っているわ。だからこのままいくと、さっき言った通り、高確率でギル様と結婚して王太子妃、そして未来は女性の頂点、国母の王妃様よ。わーい(棒読み)。


「カルメ様は顔見知りの人達に挨拶してくるって」

「ネスドル様は、お義父様とあちこちに挨拶回り。領地経営は私に任せるから、せめて沢山の人と繋りを持ってサポートしてくれるんだって」

「あら」


 ふふっと微笑むライチは本当に幸せそう。


 「相変わらず仲が良いみたいで、安心しました。それにしても羨ましいですわ、素敵な婚約者がいて」

「何を言っているのよ、フィーア」

「そうよ、フィーア。フィーアは王太子殿下の婚約者第一候補じゃない」

「そうですけど……」


 確かにギル様と結婚したら、ギル様は大切に扱ってくれるでしょう。でもそれは、私が妻だから。結婚したからといって、一緒に暮らしているからといって、必ずしもそこに愛や恋が芽生えるわけではない。芽生えたとしても、高確率でそれは友愛か家族愛。夫婦愛ではないような気がする。だって私はモブ。ここは乙女ゲーム世界。そして私はモブ。モブ……。…………モブ?怪盗ってモブ……?…………モブだな。モブにしておこう。私はモブだ。


「あれ……?ねぇ、ライチ。あのこっちに向かってきているのって……」

「そうね。殿下に見えるわ。フィーアは婚約者候補筆頭だから……」

「あぁ……次のダンスのお相手ってことね。

 ということでフィーア、殿下がこちらに向かってきているけれどいいの?」

「そう、殿下が……」


 いや、でもやっぱり『花ユメ』に怪盗って出てきたわよね。名前までは出てこなかったけど、この世界には怪盗って私しかいないし。少なくとも今は、ルミドシュしか聞いたことないわよね。でも名前は出てこないんだから、やっぱりモブ?


「フィーア?」

「フィーア、聞いてる?」


 そもそも、モブの定義って何かしら?モブはモッブ(mob)からきたのよね……てことは、群衆とか野次馬、もっというなら攻撃的、活動的群衆集団の意で……。


「ねぇフィーアったら」

「王太子殿下がこちらに向かってきてるんだってば!聞いてる?」

「聞こえてる?」

「うん……殿下が来るんでしょう?王太子殿下が……て、え?シターギル殿下が?」

「あ、ようやく聞いてくれた」


 え!?ちょっと待って、(・・?こちらに!?私が第一候補だから?筆頭だから!?あ、でも私じゃないかもしれないわよね。そうよ、何故私に向かって来ていると思ったのかしら。まあ、私の周囲に他に人がいないからなのだけど……って、やっぱり私だわ、これ。


 そうそうそう忘れてた。どうしてギル殿下は私より上の位なのに、わざわざ私の方へと来るのか。殿方が令嬢のもとへ足を向かわす理由なんて、挨拶をのぞいたらひとつしかないわよね。


「お初にお目にかかります、殿下。マジア侯爵家が娘、フェアラウネでございます。この度は、デビュタントが無事に迎えられましたこと、お喜び申し上げます」


 ギル様が私達の前で足を止め、私へと視線を向けたことを確認して自己紹介をする。カーテシーをするのも忘れずに。


「ああ。こちらこそはじめまして。シターギル・ロレンティカです。どうぞ、シターギルと呼んでください。フェアラウネ嬢こそ、デビュタントおめでとうございます」

「ありがとうございますわ」


 私とギル様の自己紹介がとりあえず終わり、それを見計らってドルチェとライチがギル様へと挨拶を述べた。ギル様は2人と数言話すと、さっと私へと向き直って右手を出し微笑んだ。


「フェアラウネ嬢、どうか一曲、私と踊って下さいませんか?」

「はい。喜んでお受けいたしますわ、シターギル殿下」

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