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デビュタント当日と成人の儀式 sideフェアラウネ

「ん……ふあぁ……」


 大きくあくびをして、私は目を覚ました。ベッドから上体を起こし、大きく伸びをすると、カーテンの隙間から差し込んだ朝日が顔に当たって眩しかった。


 ―――コンコンコン


「はい」

「失礼いたします。おはようございます、お嬢様」

「おはよう、テスタ、アナ」


 私が起きた頃合を見はからって、私の専属侍女であるテスタロッサとリアナが部屋へと入ってきた。私は毎朝、ほとんど同じ時間に起きる(起きてしまう)ので、ある程度の差はあれど、決まった時間にやってくればまず返事が返ってくることをテスタとアナは知っているのだ。


 でも、この体質、結構不便なのよね……。怪盗業でどれだけ遅く帰って来ても、寝る時間が30分くらいしかなくてほぼ徹夜でも、必ず起きてしまう。朝早くの約束とかには遅れることはないから便利と言えば便利なのだけれど、たまに寝不足になってしまうのよねぇ。


「さて、テスタ、アナ。今日は忙しくなるけれど、お願いね」

「もちろんですわ、お嬢様!!」

「はい。腕に縒りをかけてお嬢様を、この世で一番美しいご令嬢へと仕上げてみせますわ」


 私の言葉に、アナはフンスッと気合いを入れ、テスタは自信満々といった風に優雅に微笑んで答えてくれた。

 まったく、頼もしい限りね。


 今日は待ちに待った、デビュタントの日。デビュタントの子達は、毎年大忙し。当然私も、今日はずっと忙しいけれど、それでもやっぱり楽しみにしていたデビュタントの日が訪れたことに、喜びを隠すことができないのだった。



ー・ー・ー・ー・ー・ー・ー・ー



 今日は本当に忙しい。


 デビュタントとは、今年成人した貴族令息、令嬢のお披露目の場。このお披露目には、国王陛下やその他の貴族へだけでなく、この世界を創った神様への、成人報告とその感謝も含まれているの。そのため、その年デビュタントする貴族の子女は、デビュタントでお披露目する前に、その身を清めて成人の儀式を各家で行うんだけど、私も例にもれず、身支度をしたあとに受ける予定。


 でもこの儀式がかなり辛いらしいのよ。

 まずはじめに儀式をするということで禊をするんだけど、これが最初の難関。禊では、それぞれの同性の神官がサポートしてくれるんだけど、白い薄めの服(禊用の服だそうよ)を着て30分間聖水を混ぜた冷たい水に浸かるのよ。まあ、その他色々出順や入り方だったりあるんだけど、それは置いておくとしましょう。

 そして体を拭いて儀式用の白いドレスに着替え、どの屋敷にもひとつはある儀式用、あるいは神様を祀る部屋へと向かうの。ただし、この間、というか儀式終了まで一切、あたたまることは許されません。もう体の芯まで冷えて寒いのなんの。

 部屋についたら、さっそく儀式開始。神官が神様への言葉を口にしたり、聖水をかけてもらったり、神様に成人と感謝の宣誓をしたり。

 その後は最後にまた禊。これはお披露目するためのものね。10分浸かって5分あたたまって、というのを合計6回繰り返すのよ。これも本当につらいそうよ。まだあたたまれるだけマシかしら?


 これら合わせて成人の儀式なのだけど、まだ神官達は帰らずに、新成人の相性を見てもらうの。相性といっても、どの職業が良いかだったり、どういった人と相性が良くて、そして縁談が進みやすくなるのかとかを教えてくれるのよ。


 そしてついに、約束の時間がやってきた。でも冷たい水に浸かって儀式するだけだから、言う程辛くないと思うのだけれど大丈夫よね。



ー・ー・ー・ー・ー・ー・ー・ー



「ムリムリムリムリムリ」


 ムリむり無理muri、ムーリー!!何アレ、何なのアレ、どうしてあんな冷たい水の中に、あんな長い時間いなきゃいけないの!?いくらなんでも、アレ冷たすぎるわよ!!水を張っていた浴槽の縁に氷が張ってたのだけど!!ただでさえ広い浴室が、床(石製)の冷たさや水の冷たさ、空気の冷たさで凄く寒かったわ。


「はいはい、お嬢様。分かりましたから、身形を整えましょう」

「それにしても、貴族とは大変なのですねー。成人する際以外にもあのような儀式をするのですか?」

「いいえ、リアナ。禊はこれから何度かする機会はあるけれど、ここまで辛くはないわ。

 さあ、お嬢様、お立ち下さいな。あたたかい服へと着替えましょう?それに、まだ相性診断がありますわ」


 相性診断以外、ひととおり終えた私は部屋のベッドの隅で、儀式のあまりの酷さにガタガタブルブルふるふる震えていた。


「だって。だって、アナ、テスタ。あれはヤバいわ。禊も禊だけど、それ以上にどうしてあんなに冷えた体のか弱い乙女に、あのような仕打ちが出来るの!?30分も我慢の上、あんな長文の宣誓文を読ませるのよ!?酷い、酷すぎるわ……」

「お嬢様…口調が……」


 アナとテスタに困ったように眉を下げられ、その上困った子を見るような目で見られてようやく私は正気に戻った。


 確かに、アナとテスタが言うように口調が乱れてしまったわ、失礼。


「正気に戻られましたか?それならば、早く着替えて応接室に参りましょう」

「ええ、ごめんなさい、テスタ、アナ。私のせいで、予定より少し遅れてしまっているわね。お手伝い、お願いしますね」

「わかりましたわ!!」


 アナとテスタは、私の専属侍女なだけあってとても優秀なのよ。多少の遅れはカバーしてくれているはず。けれど急がなければ。待たせている側、そして招いている側として、相手方に失礼にあたってしまうものね。


 2人に手伝ってもらい、急いで、そして丁寧に着替えて、足を応接室へと急がせた。


 ―――コンコンコン


「お父様、フェアラウネです」

「入りなさい」


 中に入ると、上手にお父様が、下手に神官2名が座っていた。私はお父様の隣へと腰を下ろした。

 この場にいないお母様とお姉様は、離れに位置するサロンでお茶会をしながら結果報告を待っているそう。


「さて。フィーアも来たことだし、さっそく見てもらおうか」

「わかりました。ロウカ」


 ロウカと呼ばれた女性神官さんが、私の相性を見てくれるようね。

 このロウカさんは、禊のときに一緒について来てくれた神官さんで、お母様とお姉様がこの場におらず、私とロウカさん以外皆男性しかいない今、ロウカさんのみが私の癒しだ。だってロウカさん、凄い可愛いんだもの。綺麗系ね。


 ロウカさんが、一言断って私の手を取ると、左手で私の手を取ったまま右手で何かを紙に書いていく。おそらく私の相性ね。この紙とインクは特殊なもので、相性診断された本人しか読めないようになっているらしい。書いた神官にすらそれは読めず、見ている間の意識はほぼないので、プライバシーはきちんと保護されている。


 しばらくすると、書き終わった紙が手渡された。


 紙は表のようになっていて、『職』『人』『縁』『色』の4つの項目でそれぞれ『最良』『良』『可』『否』『悪』『最悪』に割り振られている。

 一応4つの項目の方を説明するわね。別に『良』とかのランク分けは説明いらないでしょ?


 まずひとつめの『職』ね。この欄には、私と相性のいい職業が載っているの。どの職業だと活躍できるだとか、出世できるだとか、あと幸せに暮らせるとかね。


 ふたつめは『人』。これは、私と相性の良い人がどんな人か書かれたもの。相性の良い人っていっても、結婚相手とかそういうのではなく、ただ単に友人という意味ね。


 つぎのみっつめは『縁』。縁談の縁ね。文字通り、私と相性の良い結婚相手をみつけるためのものよ。


 そして最後の『色』は、私に合う色のこと。相性の良い色を身の回りに置くか置かないか、または身につけるかで全く違うのよ。もし相性の悪い色を身につけると、怪我をしやすくなったり病気に罹りやすくなったりで、身の回りで不幸が起こりやすくなる。なかなかびっくりでしょ?色を変えただけで、この世界では簡単に不幸になるのよ。凄いわよねぇ。


 それで私の相性なのだけど、紙にはこう書かれていた。

 まずは『職』からね。

     『職』

 『最良』 怪盗

 『良』  魔道具師

 『可』  魔術師、魔法師

 『否』  騎士等

 『悪』  怪盗

 『最悪』 助手


 次が『人』。

     『人』

 『最良』 頭の回る人

 『良』  特化型の人

 『可』  穏やかな人

 『否』  2面性のある人

 『悪』  なし

 『最悪』 ナルシスト


 そして次が『縁』。

     『縁』

 『最良』 侯爵家以上

 『良』  2面性のある人

 『可』  おおらかな人

 『否』  頭の回る人

 『悪』  のめりこみやすい人

 『最悪』 脳筋


 最後に『色』。

     『色』

 『最良』 緑系

 『良』  黒、青系

 『可』  白、紫

 『否』  赤系

 『悪』  淡色系

 『最悪』 黄系


 ……うん。ひとつだけ言いたいわ。何故、『職』に怪盗が2回も載っているのかしら?しかも『最良』と『悪』に。


「フィーア?フィーア、どうしたんだい?何か不備でも?」

「いえ、お父様。大丈夫ですわ。少し驚いてしまっただけですので」

「そうかい?なら、結果を見るのはあとにして、神官達の見送りをしよう」

「ええ」


 ……お父様達、これを見たらどんな反応をするのかしら?やっぱり一部(とくに魔道具師)を伏せて見せるべきよね。魔道具師は秘密にしてるしね。



 このあと、神官達を見送って診断結果を家族に知らせたのだけど、この後はそりゃもう大忙しだった。お風呂で体をあたためて、隅から隅まで洗うのに1時間半。爪の手入れや肌の手入れ、髪の手入れとそれにマッサージで1時間半と少し。そしてメイクや髪結い含め、ドレスアップに1時間と少し。私はとくにすることはなかったんだけど、私を磨き上げるアナ達は凄く忙しそうだったわ。


 私はこれで準備万端。あと1時間弱でデビュタントが始まる。

 家族揃って馬車に乗り込み、王城へと馬車を出発させると、間もなくして王城の門が見えた。


 さあ、いよいよデビュタントが始まるわ。


 王城の正門を潜り、馬車を止める。


 そして今。初めて出る社交界に私は、大きな期待と少しの緊張で体を少し震わせ、けれどしっかりと前を向いて馬車から体を出して足をつけた。

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