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王城の庭のベンチとゲームのヒロイン sideフェアラウネ

「っはぁ、緊張したわ……」


 殿下と別れた、満月が照らす窓際。私はそこから離れ、誰もいないテラスの隅へと身を隠して、ようやく一息をついた。


 だって、殿下……じゃなかった。ギル様が私から離れた途端に、令息令嬢がわらわらわら……きりがないのよ。ほら、私って侯爵令嬢でギル様の婚約者第一候補でしょ?媚を売っておきたいのでしょうね。


 テラスにある階段から庭へと下りて、テラスの影に隠れるようにあるベンチに座った。

 ここは私がこの前、お父様に忘れ物届けに来たときに見つけた場所。届けるついでにお散歩してたら迷ってここについたの。王城が広すぎるのよ!!


「……綺麗な月」


 ベンチから空を眺めると、丁度真上に月が見えた。

 もうこんな時間なんだ……。初めての公式の舞踏会だったからか、いつも以上に緊張しちゃったみたい。時間の進みが遅く感じてたのに、ギル様とは思っていたよりも話していたみたいで……。不思議。もっと話していたくなっちゃった。


 ――カサッ


 草を踏み締める音が聞こえ、視線を下げる。


「……誰?」


 ここは木々だったりテラスだったりで隠れて、王城の中からもテラスからも見えないようになっている。だから、ここに来る人は少ないし、来るには草木をくぐり抜けなきゃいけない上、隅だからやってくる方向は2方向に限られる。


 じっと音が聞こえた右前を見ると、少ししてそこから女の子が顔をひょこっとのぞかせた。


 同い年くらいの女の子。多分、私と同じように今日社交界デビューをしたどこかの貴族令嬢ね。控え室で見たような気がするわ。


「こんばんは」


 恐らく私より下の爵位の子だけれど、私は先に挨拶する。

 こういった意図せずに会ってしまったり、出先で出会ったときは、挨拶をしに足を運んできた下の爵位の者へと上の爵位の者が先に挨拶しなきゃならない。


「こ、こんばんは。申し訳ありません、お邪魔してしまって……」


 木陰から姿を出しペコリと挨拶すると、ピンクブロンドの髪が肩から一房滑り落ちた。


「いえ、大丈夫です。よければお話しませんか?」


 隣を示して、私は少し横へと移動する。


「は、はい」


 ……ん?何かしら、今の既視感(デジャヴ)……。


「貴方、お名前は?」

「ルシェル・シェルフォレーヌと申します」


 あ、思い出した!!既視感があるはずだわ。この子、『花ユメ』のヒロインよ!!【記憶の花】シリーズってヒロインの顔とか髪色とかが変えられたからすっかり忘れていたけれど、この子、初期ヒロインというかスチルにたまに出てくるヒロインと同じ顔だわ。


(わたくし)はフェアラウネ・マジア。マジア侯爵家の娘よ。

 シェルフォレーヌということは、シェルフォレーヌ子爵家の娘でしょう?」

「はい。

 あの、違ったら申し訳ありませんが、もしかしてマジア様って王太子殿下の婚約者候補ですか?」


 少し不安そうに上目遣いに見てくる姿は、流石ヒロインなだけあってとても可愛らしい。なんというか、庇護欲みたいなものをくすぐってくる。

 

「ええ」

「親に婚約者を決められるって嫌じゃないですか……?私だったらたとえ候補でも嫌です。

 だって、王子殿下の婚約者候補になると、もし婚約者に選ばれなかったときは嫁ぎ遅れとは行かないまでも、良い殿方は皆婚約者が決まっていますもの」

「そうですけれど、そのかわり好きな殿方との結婚が許されていますし」


 たとえ相手が平民でも身分違いでも、婚約者候補だった人達は結婚を許される。これは凄く良い制度だと思うのよ。


「それに(わたくし)は、ギル様のことを尊敬しています。(わたくし)は候補筆頭ですし、ギル様がどなたかお好きなご令嬢ができないかぎり、(わたくし)はギル様と諸手を上げてとまではいかないまでも、喜んで嫁がせていただきますわ」


 そう。ギル様がどなたか好きな人ができないかぎり……。ヒロイン(貴方)みたいなね?


「マジア様はご立派ですわね……」

「……(わたくし)のことはマジアではなくフェアラウネと呼んで下さいな。

 そんなことより、ルシェル様はどなたか気になる殿方はいらっしゃらないのですか?」

「わ、私ですか!?

 え、えっと、その……」


 モジモジ指を突き合わせて、顔をうつむかせはじめた。


 あら、この反応はいるわね……。ギル様じゃなきゃいいのだけど。まあ別にギル様でも良いわよ?その場合は喜んでではないけど、貴方に差し上げるから。そして、そうねぇ……私は結婚相手いなくなっちゃうし、婚約者探しでも……いえ、いっそのことツイスと結婚しようかしら?ええ、そうしましょう。どうせツイスには婚約者どころか好きな人もいないでしょうし。でももしいたら……そうね。誰か別の人を探しましょうか。さっそく今度、婚約者や好きな人がいるか聞いてみましょう。


「あの、ですね……その、ロウェン様を…その……お慕いしています……」


 真っ赤な顔で涙目上目遣いのルシェル様は最高に可愛いけれど、その……ごめんなさい。ロウェンって誰かしら?


「ごめんなさい、ロウェン様とはどなたでしょう?」

「あ、えっと、王太子殿下の専属の執事です。いつも殿下のお傍に控えているので、一度は見たことがあるのでは?」

「実は(わたくし)、シターギル殿下に会ったのは今日が初めてなのです。それまでは見かけたこともありませんでしたし……」


 今まで王城に何度も来たことはあるけど、会うことはおろか、見かけたことすらないのよね……。王城は広いから仕方ないにしても、王妃様に呼ばれたときすらギル様の都合が悪くて、一回も一度も一瞬も会ったことがない。


 私は右手を頬にあてて、ほうとため息をつく。


「そうなのですか?」

「ええ。でも、尊敬しているのは本当ですわ。もとから噂は予予(かねがね)聞いていましたし、今日お会いしてよりそれは深まりました」


 ともかく、そのロウェンっていう人とくっついてもらえれば、私はギル様と結婚することになりそうね。でも、ツイスとの結婚も捨てがたいわ……どうしましょうか。まあ、面倒くさいので私は動かないし、まわりも動かさないけれど。


「それで、そのロウェン様をいつから、どうしてお慕いしていますの?」


 私だって女子。恋バナしたい!!そして気になる!!好きな人をいつから好きなのか、いつどこで出会ったのか、どのような場所が好きなのか、などなど。これらが気にならないのなら、その人は女子じゃないわ!!女性じゃない!!女として終わっていると思うの。いえ、終わっているわ(断言)。


「えっと、実は私、ものごころつくころから市井で遊んだりすることが趣味なのですが」

「あら、奇遇ね。(わたくし)も市井へとお忍びでおりて、歩きまわったりお買い物をすることがかなりありますわ。気分転換に丁度良いのです」

「え!?フェアラウネ様もですか!?」

「ふふ、見えないでしょう?」

「は、はい。フェアラウネ様はまさに“令嬢の鑑”で完璧なので、てっきり市井は嫌いではないけれど好まれてはいないものとばかり……」


 あら〜、私、まわりにはそう見えているのかしら?家族や屋敷の使用人達はそうは思ってないだろうけど……う〜ん、やっぱり私の普段の行動や令嬢モードが悪いのかしら?私は貴族なんかよりも、平民や中流階級、下流階級の方が好きなのだけど。貴族よりもそっちに生まれたかったわ。この世界では、下流階級と中流階級の差や壁はあまりないしね。ほら、平和で豊かだから。


「うふふ。それで?姿勢がどうしたのですか?」

「あ!!それで、たしか私が5、6歳の頃、いつものように市井へとおりて遊んでいたのです。そのとき、たまたま同じように市井へと遊びに来ていた殿下を見かけたのです。お供としてロウェン様も一緒に来ていまして……私はロウェン様に一目惚れしてしまったのです」

「まあ」


 うん?あれ、何か聞き覚えのある……。確かソレって、ヒロインがギル様に一目惚れする、プロローグ的な、最初に出てくるやつでは?え、そのときにギル様じゃなくてロウェンって人に一目惚れしたの……?……うーん?


 ……まあ、いいわ。そうねぇ。


「ルシェル様」

「?はい」

「貴方、(わたくし)の侍女になりませんこと?」

「へ?……侍女、ですか?」


 ルシェルが首をかしげている。首が90度くらいかたむいて地面と並行になりそうなんだけれど、大丈夫かしら?首痛くないのかしら?


「ええ。そのロウェン様ってギル様の執事なのでしょう?なら、(わたくし)の侍女になったら接触しやすいのではなくて?ほら、(わたくし)ってこのままいくと、ギル様と結婚して王太子妃だから機会は沢山ありますわ」

「それは……そうですが。でも、良いのですか?フェアラウネ様に迷惑がかかるのでは?」

「いえ、大丈夫です。丁度、もう1人くらい(わたくし)付きの侍女を増やそうと思っていたのです」


 使用人は沢山いるんだけど、私付きって実は2人しかいないのよねぇ。勿論その2人とは、テスタとアナ。だから大変そうで……。楽しそうではあるんだけどね?


「……それでは、お願いできますか?」

「ええ。辞めたければ、(わたくし)に言ってからなら辞めてといいですけれど、ただし、何も言わずに休んだり辞めたりは辞めてくださいね?あ、勿論辞めるときは退職金を渡しますよ?」


 私のところ、そこまでブラックじゃないからね?皆明るくて優しい、アットホームな雰囲気のホワイトだからね?


「ふふっ。それじゃあ、これからよろしくお願いします、お嬢様」

「こちらこそよろしくね、ルシェル」

「はい!!」

ノリノリで書いていて、途中で気づいた。


“ボクたちって女子じゃなかったのかな……?”


と。


え、女子だよね?女子……だよね…………?

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