ひとひら:始まりはいつだって優しいから
自己満足でも、ただ単純に憧れてしまった。手に入らないものほど、欲しいと思ってしまうのだ。
私たちの村はひどく閉鎖的だ。今時、双子だからという理由だけで、災いを呼ぶだとか、命を神様に捧げろだとか、そんな事を言う村人やそれを信じる親には虫酸が走った。
何百年も前の話かと笑い飛ばせる。
「シリー」
勿論そんなことに賛同する筈もない。けれど、反抗した所で痛い目を見ることは分かっている。
「ロゼ、大丈夫よ。怖いことなんてないわ。」
従うふりをして、その時を待とう。
一人ではない。私達は二人だ。二人でなら何だってできる。
「でも、シリー。やっぱりあなただけでも…」
「ロゼ。私はロゼがいないと生きていけないわ。」
名前を与えられなかったロゼにあげた私の名前。
存在を許された私は存在を否定された片割れに私が私である記号を託した。
「今日は月が出ないわ。これを逃すともう手はないの。ロゼ、私はあなたと生きたいわ。」
「シリー…。そうよね。私が弱気になってたらダメよね。必ず成功させる。シリーを一人になんかさせない。」
十年もの間、言うことを聞いてきた。従順な人形になることで村の人たちや家族からの信頼は得られた。
全てはこの日のために。誰も疑わないだろう。十年間、何を言われても、何をされても、何も文句を言わず、何も反抗しなかった私達がここから逃げ出そうとするなんて。
この蔵だってはじめのうちは厳重な鍵が掛けられていたが、年を重ねるごとに少しずつ減り、今は錠はひとつもない。
時計も灯りもない。もちろん窓なんてない。
今が何時だか分からないが油断は出来ない。
「シリー、物音ひとつしないよ。もうそろそろ良いんじゃないかな」
「シッ、ダメよ、ロゼ。小鳥の羽音でさえも響くのだから、起きていたってここまでは聞こえないわ。」
それからどれくらい経ったのだろう。緊張のせいか、待っている時間が長く感じた。
恐らく起きている人はもういない。もしも、があるが考えていたらきりがない。
今日を逃すと私達は次の夜を迎えられないのだから。
やっと本編、っぽいのに入ります。長かった。分かりにくいかなと思って補足補足で文をいれていったら長くなった。そして混乱した(笑)