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いつも何かしらの音が聞こえていた家は、今は物音1つしない。
薄々気付いていたそれを認めたくなくて、端から部屋の中を念入りにもう一度探してみた。クローゼットやタンス、机の引き出しなんかも開けて、誰かがそこにいると信じて。誰もいなくても良いから、私が知っている何かがあれば、それだけで安心できるから。
全部の部屋をみて回ったけれどやはり見つけられなかった。
「ど、どうして…」
声が震えた。今まで感じたことのない恐怖が身体を支配する。
どうしよう、どうして、どうしたら。
混乱する頭で何か、手掛かりでも何かあれば。部屋をぐるぐると回り、階段を行ったり来たりしても、現状は変わらない。
「あれ?」
ふと、窓から外を見てみた。この小窓は二階の父母の寝室にあり、丁度裏の庭が見えるようになっているのだ。
窓に添えた手が異常に震えた。爪とガラスがあたりカチカチ鳴っている。いや、これは歯の音か。
「なんで」
何度目かの問いを言い終わる前にわたしは駆け出した。階段を1つ踏み間違え、転がり落ちてしまい、擦りむいたところやぶつけたところが痛いけれど、そんなの気にしていられない。
なんで。
早く、早く行かなくては。
なんで。
裏庭までそんな遠くない距離が今はとても遠く感じる。
なんで。
「なにも」
ないの。
父が買ってきたテーブルも母が嬉しそうに座った椅子も、姉が楽しそうに育てていた花も兄が作ってくれたブランコも。
さっきまであった。そう、家にはいる前にはあった。それなのに。
足元から冷えていく感覚。目の前の現実を受け入れられない。
これは夢だ。夢であって欲しい。
もう一度家に入ろう。少し落ち着いてから、そうしたら何か分かるかもしれない。見落としがあるのかも。
そう思い振り返った。
「な、んで…。」
家さえも消えていた。さっきまであった。わたし達の家が。初めからなかったかのように。
ただ、雑草が好き放題に伸びて生えているだけだ。
今、わたしに残っているものは握りした髪ゴムだけだ。祖母がわたしにくれた大切な髪ゴム。
最初は可愛くないし、綺麗じゃないし、いらないと思ったけれど、これだけがそこにわたしの家族がいた、わたし達の住む家が存在したと証明してくる。
これさえも消えてしまってはどうにかなってしまいそうだ。
結べるほどの髪の長さではないけれど、かっこわるくなっても良いから。わたしの記憶と相違のない唯一の物を身に付けていたいと思った。
鏡がないから手間取ってしまったけれど、何とか結べた。
その時に、分かってしまった。どうしてこうなったのか。
思い出した。
そこに
「愛情なんてなかった」のだ。
全てがまやかしであり、わたしの理想が作り出した夢。全ては彼女のため。
私が全て背負おうと思った。
これは罰だ。私だけの罪だ。
けれども、昔のわたしが何を考えて、こんなものを作り出したのかは現在の私には、あの恐怖を味わった私には到底理解ができない。
ただ、繰り返される未来の私が何を思うかは理解できる。
「恨むぞ」過去のわたしよ。
プロローグ終わり。読まなくてもいいやつ。裏設定?みたいな。本当は最終章のあとでプロローグとして入れようと思ってたやつ。主人子の過去みたいな感じで。