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そこにあった祖母のぬくもりがまるで初めからなかったかのように感じられなかった。
祖母が居た場所には誰も座っていない椅子があるだけで、使われていた痕跡はなかった。
「おばーちゃん?どこいっちゃったの…」
周りを見渡してもやはりその姿はなかった。もしかしたら、先に戻ってしまったのかもしれない。お料理を見に行ったのかも。
「もー、びっくりしたぁ」
それならそうと言ってくれれば良いのに。頬を膨らませながら、怒ってますというかのように足をドタドタさせながら家に戻ることにした。
髪ゴムは絶対に返す!今度町に出たときに違うものを買ってもらおう。何も言わないで勝手に戻ったのだからこれくらいの我が儘は聞いてもらわなければ。
「おばあちゃんもしょーがないんだから。アキラは優しいから、それで許してあげる」
誰に言うでもなく言い、だけれど、やはり忘れられたショック大きい。
バンッ!!
扉は静かに開けなさい、壊れてしまったら大変でしょう。
母に何度言われたか。怒られるのが怖いから静かに開けるようにしていたが、今このときはそんなことあたまの中から抜け落ちてしまい、思いっきり扉を開けた。
母の怒りを買う前に祖母に文句を言わなければ。
「おばーちゃん!!」
けれど、その怒りは家にはいるなり萎んでしまった。
言おうと思っていた言葉も、今日のケーキは何かと楽しみにしていた気持ちも、部屋を見渡すにつれなくなってしまった。
「お母さん?」
怒られると思っていた。
何回言えば分かるの、と目を吊り上げた母がいるはずだった。
「お、姉ちゃん、お兄ちゃん!!」
怒られている私を見て、姉はどうしようもない、といった顔で見てくると思っていた。そんな姉の後ろから直すのは俺なんだぞ、と不満をもらす兄がさっきまでいたのに。
そこに誰かがいた気配がない。飾り付けも、料理さえも。
「ぇ…」
どこかに隠れているのかもしれない。皆でわたしを驚かせようとしているのだ。今日は特別だから。宝探しのように。
それなら、探そう。少しびっくりしたけれど。
部屋を一つ一つみて回った。隠れられそうな場所はくまなく探したが、1階にはいなかった。
それならば2階かもしれない。料理も2階に運んだのかな。
悪い方向に考えがいかないように階段を一段一段上がっていくけれど、不安な気持ちはどんどん大きくなった。
本当にいなくなってしまったのか。誰も、何もかも。
そんな魔法じゃないし、ありえない。
だって、今日は私の誕生日で、今日は特別だから。
だから、こんなことは絶対にあってはいけない。