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「起きて知らない人が居て驚きましたね。大丈夫です。ここに君を傷付けようとする人はいないですよ」
「あ、ぁ…オレ…おれ…」
「こっちの子はアラン。優しい子です。君と年が近いでしょうからアランから色々聞いてみると良いでしょう」
「先生、僕、やだ」
「アラン、この子に悪気はありませんよ。この部屋を片付けてしまいたいので、隣の部屋で待っていてくれませんか。」
「…僕も掃除手伝うよ」
「ありがとう。ナーナに頼むから大丈夫ですよ。
掃除が終わるまでこの子にこの家のこと教えてあげて下さい。」
「…分かったよ。おい、お前、行くぞ」
呆然としているそいつを引っ張り隣の部屋へ行く。本当は先生の手伝いをしたかったが、頼まれてしまった以上断りたくない。
これも先生のためだと思えばさっきまでの怒りも少しは治まる。
「…お前、名前は」
「オレ、あんなこと、するつもりは…」
「先生が手を滑らせたって言ってただろ。なら、それで良いんだよ。」
「でも…食べ物…せっかく…」
「はぁ、しょーがねーだろ。これからは食べ物粗末にすんなよ」
「あぁ、そうする…」
「それで、お前の名前は」
「える、エルって呼ばれてた」
「ふーん、僕はアラン。
ここにいる奴らは皆訳あり。僕も気付いたらこの家に居たし、名前も先生に貰ったもの。居たければいれば良いし、出ていきたかったら出ていけば良いよ」
「おいおい、そんなこと言ったら出ていっちまうだろうが」
ダズ兄さんが水の入ったコップを二つ持ってきてくれた。一つをエルに渡し、もう一つを僕に渡した。
「ありがとう、ダズ兄さん」
「え、あ、ありがと…」
「おう。俺はダズウェット。皆からはダズって呼ばれてる。今はこの家では一番上だから頼ってくれ」
「オレはエル、です…」
「エル、な。ゆっくりで良いからここに慣れていけばいい。アランはこんなんだが良い奴だから、仲良くしてやってくれな」
「え、は、はい」
「何だよー、それ」
ダズ兄さんは座ることなく飲み終わったコップを持ちまた扉の方へ歩きだした。
「はは、アラン、この家を案内してこいよ。先生はもう少しかかるってって言ってからよ」
「はぁ、分かった」
「頼んだぞ。エル、体調悪くなったら我慢しないでアランに言えよ」
「ぇっと、はい、大丈夫、です」
「ふん、行くぞ」
「あ、うん」
風呂やトイレ、先生の部屋から物が置いてある場所を簡単に説明する。途中で会う小さい子達も紹介しながら家のなかを歩きまわる。
一緒に歩いているうちにエルも緊張が解けたのか僕には普通に話せるようになっていた。
「お前、その変な喋り方やめれば」
「変って何だよ。普通だろ」
「ほら、他の奴にもそうやって喋ろよ。これから一緒に居るんだから」
「っ…」
顔を歪め一度頷き、そのまま俯いてしまった。何か嫌なことでも言ったのかと思ったが、耳が赤くなっており少し覗き見た顔が嬉しそうにしていたから心配ないと分かる。
家のなかを見終わり外に出る。裏にある庭を見たらとりあえず先生の所に戻ろう。
「ここは先生のお気に入りなんだ」
「へー、花がある」
「あぁ、先生が育ててる」
真ん中に小さいテーブルと椅子があり、それを囲うようにして花壇がある。
「先生が家の中にいないときはだいたいここにいるから」
「あっちは何だ?」
「野菜を育ててるんだ。こっちはナーナがやってる。」
その横には畑がある。先生が始めたことだが、ナーナが世話をしたいと言い出し、下の子と一緒に育てている。収穫したものは皆で食べる。
野菜嫌いの子達も自分が育てたものと知ると喜んで食べていた。
「ブランコとかはダズ兄さんが作ってくれたから、壊れたりしたらダズ兄さんに言えば直してくれる」
畑の周りには遊具が置いてあり、木に吊るされたブランコや滑り台までもある。
「ダズのお兄さんって凄いんだな」
「そうだろー」
目がキラキラしているエルを見て、そういえば先生のも庭にあるテーブルや椅子をダズ兄さんが作ったとき、すごいキラキラしていたなと思い出した。