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「アキラさん」
また来た。パン屋の兄ちゃんが先生に会いに来た。
この前は定食屋の姉ちゃんが来ていたっけ。先生は物腰が柔らかい。だからか、先生を好きだと言って近寄ってくる奴が後をたたない。
ナーナは先生を女性だと言っているけれど、僕とダズ兄は男だと思っている。じゃないとあんなに重たいものを一人で持ち上げられないと思う。
先生に何回か聞いてみたけれど、何故かその度に下の子がぐずったり、お客さんが来たりで聞く前に終わってしまう。
「パン屋のにーさんの顔見ろよ。気持ち悪いな。」
「ダズ兄さん」
ダズ兄さんはナーナよりも年が上でこのハウスでは一番年上だ。いつもニコニコしているが以外と毒舌でそれを知らないで寄ってくる女の子達は泣いて帰っていく。
「ダズのやつ、あれわざとじゃん」
それを見たナーナが嫌な顔をして言う。ナーナ曰く、自分に媚を売ってくる女性が嫌いらしく、済ました顔で相手を傷つけて寄ってこないようにしているらしい。
「俺には先生がいるし、手のかかるチビ達もいるからな」
ダズ兄さんもあのパン屋みたいに先生のことが好きなのかと思っていたが、育て親として好きなだけだと言っていた。
「アラン、先生が呼んでる。あの子、起きたみたいよ」
「ナーナ、分かった」
「ナーナじゃなくて、ナーナお姉ちゃんでしょ、ったく」
「ナーナ、ありがとう」
「はぁー、ほら行った」
ナーナと軽口を叩いたあとあいつが寝ている部屋に向かう。扉の前に行くと何かが倒れるような大きな音がした。
「先生!」
あいつが暴れているのかもしれない、そう思い扉を開き中に入る。
ベチャ
先生は椅子に座いて両手を差し出した状態で止まっていた。あいつはベッドから上半身を起こし、手を振り上げたまま目も口も大きく広げたままだった。
床を見てみると皿がひっくり返っており、僕の足下にはスープが散らばっていて、さっきの何かを踏んでしまった音はこのスープだったことが分かった。
「あぁ、アラン「お前!!」
目の前が真っ赤になり瞬間、あいつに飛びかかった。
「先生に何してんだよ!!」
「アラン、アラン、落ち着いて。私は何もされていませんよ。」
「けと!こいつ!先生の作ったもの!!」
「あぁ、私が手を滑らせてしまって、落としてしまいました」
そう言った先生を驚いた顔で見たあいつのせいで、先生がこいつを庇ったのだと分かった。
「だから、ね、アラン。その手を離してあげて下さい。首が絞まって苦しそうです」
一発殴らないと気が済まないが先生の手前何もできず、先生に解かれる形でそいつから手を離した。