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このままでは死んでしまう。
水も食べ物も何日も口にしていない。感覚も鈍くなっているし、とても疲れた。
だけど、何もせずには死ねない。
何処にいるか分からないけれど、お姉さんを見つけてあげたい。一人は寂しいから。おばさんの様にしたくないから。
立ち上がるのもやっとだ。ふらふらして思うように前に進めない。それでも一歩ずつ外へ向かう。
久しぶりにテントの外に出た気がする。建物の影になって暗いけれど、空を見上げると青空が広がっていた。それだねで眩しい。
思えば、一人でここを歩くのははじめてだ。
おばさんがいた頃は何度か外に出たけれど、いつも誰かといた。新鮮だ。
道が分からない。あてもなく、ゆっくりと、壁をつたいながら歩く。どこへ行けばいいのか。
歩いても歩いても似たような風景がある。オレはどこにも行けないのだろうか。
「お姉ちゃん!」
声が聞こえた。霞む視界でその声のする方を見てみる。
「もう、手を離さないでって言っているでしょ!」
明るい。そこには光が見えた。最後の力を振り絞ってそこへ向かう。
とても騒がしい気がするが耳もよく聞こえない。
あと、もうすこし。
壁を支えにしていた手が行き場をなくし、空をかく。そのまま身体ごと横へ倒れてしまった。衝撃だけが身体を遅い、痛みはよく感じなかった。
たちあがれない。
ここは暖かい。路地裏の暗さが嘘のように目の前は光が広がっている。今なら眠れそうだ。
瞼を閉じかけたとき微かに頬に熱を感じた。オレの頬を包み込み、少し撫でてくれる。
お姉さん?
目を動かしてみると誰かがしゃがみこんでいるように見える。ぼやける視界では顔を確認できないが、お姉さんではない。お姉さんよりも大きいその人は何か喋っていた。
ごめんなさい。オレにはもう聞こえない。
瞼を開けているのも限界がきて、この人には悪いけれどもう寝てしまおう。すると、身体が浮いた感覚がした。
おばさんが言っていたのを思い出した。「私たちが天に行くときは誰にだって神様が遣いをよこしてくれる。天使様が迎えに来てくれるから怖がらなくても良いんだよ。」
あぁ、オレにも神様が遣いをくれたんだ。
それならこわくないね。
空腹少年編おわり。次は記憶喪失少年編はじまります。