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マークオン ユアラブ

 いざ、キャンパスライフを始めると、特に忙しいわけでもなく、激しいわけでもなく。まだ、穏やかなんだろう。

 果南以外にも友達はあっさりできた。授業中に知り合ったりとか、食堂で話しかけられたりとか。異性の人とか。

 私は別段可愛いということもなく、目立つような人間じゃなかった。それでも、仲良くしてくれるのは素直に嬉しい。

 

「ねえ、あの果南って娘、紹介してくれない?」


 学舎内の仄暗いリノリウムの廊下で不躾に頼まれる。次は3限の基礎数理。

 男の方は私に果南目当てで話しかけてくることが多かった。とても失礼で、非常に不愉快だった。

 私が無視されたからではなく、果南を穢すような視線で見てくることがとても腹が立つ。

 

「果南、そういうのめちゃくちゃ嫌うから。それに、男の人が苦手だよ」

「なんだよ、使えねぇな……」


 如何にもリア充な、どこにでもいるイケメン。2ブロックの茶髪にファッション雑誌から切り取った感じの容姿。自信があるから上から目線で話してくるんだろうね。私を見下してるのがよく分かる。

 果南も友達自体は作ってるらしいけど、暇があればずっと私にくっついてくる。だから、一番仲のいい私が狙われたのかな。

 高校生ではここまで露骨にナンパすることが無かったけど、大学生になると男は自由奔放になるんだろう。複雑というか、私には蚊帳の外の出来事。無関係な出来事。

 

「摩耶、早く教室に行こう」


 クールな表情で機嫌よく微笑む果南。ぎゅっと私の右腕を絡ませて、弾力のある胸を押し付けてくる。黒いTシャツがパツンパツンに締め付けるレベルで大きい。均整の取れた乳房が私の二の腕をむにゅっと包んできた。

 その柔らかさに、私はドキドキとしてしまい、男じゃないけど興奮してしまう。美人って、同性であってもエロく感じちゃうからすごい。

 夏も近い熱気をはらんだ昼間の青空が照らす、新緑の並木道が立ち並ぶキャンパスへの道すがら。砂地の通路を歩きながら果南は私の耳元に囁いた。

 

「明日さ、一緒にデートしようよ。2人きりで」

「デートっていうか……どこに行くの?」

「動物園ってどう? 中学生以来行ってないし。ハシビロコウ見たいなぁ」

「その微妙なチョイスってどうなのさ。うん、別にいいけど」


 休みの日は果南といることが多く、彼女から色々誘ってくる。

 本当にデートをしている感じで、私は少しだけ複雑な気分になってしまった。

 なんというか……果南はレズビアンなのかと疑ってしまうくらいには。私に熱烈なスキンシップを重ねてくる。

 ただ単に、距離感が近いだけの人かもしれないけど。その点は、断言するには判断材料が乏しい。

 

「あとさ、デートが終わったら、僕の家に来なよ」

「……え!? いや、それはその」

「別に気兼ねする仲じゃないし。お願い。僕は摩耶ともっと一緒に居たい」


 何食わぬ顔で果南が誘ってきた。にやって視線を合わせて意地悪く笑う。

 ぶっちゃけた話、ここは断るべきだ。でも、果南の潤んだブラウンの瞳が私を見つめる。腕の締め付けが強くなる。

 不安げというか、媚びていると言うか、逃さないと言うか。私に有無を言わさない算段だ。

 

「まあ、その。ちょっとくらいならいーかなって。ほら、私、門限あるし!」

「摩耶は実家ぐらしだから仕方ないか。一人暮らしは自由があっていいよ」

「両親がさ、女の子が夜中ぶらぶらするのが心配だって言っちゃってて。分からなくもないし、従うしかないよねぇ」

「たしかに。摩耶って押し切られたら逃げ出せないからね。ほら、あのサークルの時も――――」

「その話はしないでってば! でも、そこで果南と知り合えたから結果オーライかな」


 あの時の出会いには本当に感謝してる。これって、神様が引き合わせてくれたってことにしといたほうがいいのかな。

 にこっと果南に小さく微笑んだら、ぐいっと私の腕を引いてきた。何事!?

 

「ほら、僕からも逃げ切れない……んんっ……」


 ちゅうぅ……


 髪をのけて、むき出しになった私のうなじを吐息でくすぐり、柔らかい唇が当てられる。そのままついばむように……キスをした!? 嘘でしょ!?

 とっさに、私は果南から距離を取り、唖然としながら彼女を見つめる。果南のうっとりとした表情が目についた。

 

「ええ、えええ!!?」

「大丈夫。ただの、友愛。フラテルニテさ。仲の良い友達ならこれくらいしてもいいかなって」

「距離感めっちゃ近くて、ビビっちゃったんだけど」

「欧米なら口以外なら挨拶代わりにキスをするもんだよ。だから、至って普通。隣人愛を確かめただけ」


 果南はフラテルニテって言葉を使いすぎてるふしがある。それだけ、この言葉が好きなんだろうけど……

 るんるんと軽い足取りで私から離れた果南。私はただ呆然と立ち尽くすしか無かった。周りに誰も居なくてよかった。

 ねたっとくっついた果南のキス後を手の甲で拭う。そして、よくよく手を見たら―――

 

「口紅ついてる!? 洗い流さなきゃ……」

「授業に遅れちゃうよ。急いで」

「果南がやったんでしょ! どうすんのよこれ……」

「髪で隠せるから大丈夫大丈夫。それに、バレたほうががぞくぞくする」


 ニヤリと犬歯をギラつかせる果南の表情はサディスティックで背筋がゾクッとした。なんでだろうか、目が離せない。あまりの衝撃で、頭の処理が追いつけてない。

 やっぱり、果南は私のことが好きなのだろうか。いわゆる、その、恋愛対象として。

 それを認めてしまうと、今後、果南とどう接したらいいか分からなくなる。だから、果南とは仲の良い友達であると、思い込むしか無い。それで、いいはず。

 

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