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姉弟

霊の写真を鑑識に出してみたら、合成の跡が見つかった。もちろん、あからさまな影の方である。そしてこの写真は校舎内から望遠で撮られた物らしい。

問題は誰が何の為にわざわざ加工して流出させたのかだ。

 心霊写真騒動を解決しても、お役御免っていかない予感がする……呪いを解く方法が分かっても高校に残るなんて嫌だぞ。


「田中君、ちょっと良いですか?」

 これからどうするか考えていたら、係長が話し掛けて来た。良くなくても、上司の呼びかけはスルー出来ないんですが。


「なんでしょうか?礼の心霊写真騒動の件なら少しだけ進捗がありましたので、後ほど報告書を提出します」

 今関わっている事件は心霊写真騒動だけだ。報告書を提出すれば定時で帰れる。


「君に掛けられた呪いだが、解呪が難しいらしいんですよ。協会に送ってみたが、呪いの根源が特定できないそうなんです」

 呪いを解くには、どの神様や悪魔の力を使っているか分からなければいけない。つまり現時点で解呪は不可能と……。


「退魔師協会でも、分からなかったんですか?」

 退魔師協会、簡単に言えば退魔師の互助会である。明治の開国と同時に海外の怪異も流入してきたので、それに対抗する為に作れたらしい。

 今は色んな国の退魔師が所属しているのでて、大抵の呪いは特定出来る筈なんだけど。


「ああ、なんでも色んな呪法がごった煮になった感じらしいんですよ。退魔師協会の上層部からも、お達しがきていません」

 退魔師協会の会長は千里眼の使い手だ。その会長が何も言ってこないって事は、心霊写真騒動は無害な物……もしくは、とんでもない大事件に繋がっている可能性が……ないない。

俺は会長と話した事もない下っ端会員だ。大事件が起きる可能性より、会長が俺を視てない可能性の方が高いと思う。


 ただいま草木も眠る丑三つ時。俺達は桜守の裏庭に来ていた。不審者扱いされない様に学校ジャージを着用。通学鞄には退魔セットと、今日使う教科書を入れてある。


「なんで俺を突き合わせるんだ?ったく、明日も朝練があるってのに」

 鉄二は調査に付き合わされたのが不満らしく、ぶつくさと愚痴りまくっている。

ただいま夜中の二時、六時起床予定の鉄二はまだ寝ていたい時間だろう。


「この時間は怪異に会いやすいんだだよ。それに生きている人間がいないから、霊の気配を感じやすいんだ。それに真夜中に生徒が一人でうろついていたら、補導されちまうだろ」

 少年課には知り合いが多いんだ。絶対に面倒な事になる。


「それで何か分かったのか」

絶対に、何がしからの手掛かりがつかめると思ったんだけど。


「おかしい。なんの残留思念もない」

 事故死があった現場なのに、新高恵の気配は微塵も感じられないのだ。成仏しているんなら良いけど、写真に写っていたのは間違いなく新高恵である。

 それなら彼女はどこにいるんだ?


「ないなら事件解決で良いじゃねえか。さあ、帰って寝るぞ」

 ……何もないからおかしいんだって。


「ここは学校公認のイチャラブスポットなんだろ?十代の恋心は強力なんだよ。それなのに、残留思念が全くないんだ」

 十代の恋は貴方しか見えない状態だ。そんな奴等が何人も集まっていたのに、残留思念が何も残っていないなんておかしい。


「言っておくけど、公認って訳じゃないんだぞ」

 鉄二の話では、先代の理事長が“それ位の楽しみがあって良いじゃないですか”と言ったのが切っ掛けらしい。そのままなし崩し状態との事。


「待て……誰か来た」

 こんな時間に誰が来るんだ。とりあえず、鉄二と物陰に隠れる……中年のおっさん二人が夜中に学校のイチャラブスポットに潜入。見つかったらやばいのは俺達の方じゃないのか?


「あれは新高だ……授業にも出ない癖に、こんな時間になにやってんだ」

 裏庭にやってきたのは渦中の人物である新高球児君。新高君はあの女神像の前で跪いくと、一心不乱に祈りだした。

 そして懐からなにかを取り出した。小さくてなんだか分からないが、あれはやばい。怨念や邪気みたいな物が渦巻いている。


「これを飲めば姉ちゃんと話せる様になるんだよな」

 確かにお姉さんにも会えるかもしれないが、呪われるとか余計なオプションがついてくると思う。


「おい、それをどこで手に入れた?……こいつはまともな代物じゃないんだぞ」

 気付けば物陰が飛び出して、新高君の腕を掴んでいた。そのまま例の物を取り上げる。直径一センチ位の白い丸薬だ……これは刑事としても退魔師としても、見逃せる物じゃない。


「なにするんだよ!……お前一年生だな。それは、俺のだぞ。返せ!」

 おじさんに向かってため口かよと思ったが、新高君から見たら学校ジャージを着た一年生だ。ため口でもおかしくないのか。

 

「おい、新高。学校をサボってる癖に、こんな時間に何しているんだ……信吾、それはなんなんだ」

 鉄二、ナイスアシスト。新高君から奪った丸薬を調べる……これは即、鑑識行きだな。


「……詳しく調べないと、きちんとした事は言えない。でも、かなりやばい物だって事は言える。持っているだけで、呪われるレベルだ」

 鞄からお札を取り出し、丸薬を包む。新高君がいるから言えないが、この丸薬には人の骨が使われていると思う。


「嘘だ。それを飲めば姉ちゃんと話せる様になるんだぞ」

  この手の薬は昔からあった。でも、それ以外のれい見える様になってしまうのだ。霊は自分を認知出来る人の元へ救いを求めてやってくる。

 救ってもらえないと分かったら、逆ギレして呪う奴もいるのだ。


きゅうちゃん、早く逃げて。ここはお姉ちゃんが、なんとかするから」

 裏庭に響く少女の悲痛な叫び。その警告通り、禍々しい気配が濃くなってくる。


「この声は姉ちゃん!」

 新高君は、既に涙目である。そしてやっぱり声の主は新高恵の様だ。昼間は感じる事が出来なかった気配が、今ははっきりと分かる。

(まるで汚泥に咲く蓮の花だな)

 新高恵の霊からは温かな優しさと穢れのない清純さが感じられる。しかし、その周囲から感じられるのは嫉妬、憎しみ……そして自分は救われて当然だという傲慢さ。


「鉄二、その子を連れて逃げろ!……来るぞ。やばい奴等だ。目を伏せておけ」

 現れたのは髪の長い美少女……そしてその足にまとわりつく数多の悪霊。

 授業を聞いているだけの、楽な仕事だと思ったんだけどな。でも、これを坊主としても刑事としても見逃す訳にいかない。


「信吾……あれは、なんなんだ」

 流石は先生。鉄二は新高君を庇う様にして立っている。


「質の悪い霊さ。多分、新高君のお姉さんは徳の高い人だったんだろ。だから、まとわりつかれているんだと思う」

 鞄からお札と五鈷杵を取り出す。それじゃ、退魔おしごとを始めますか。

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