表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

6/9

桜守の闇

冷凍ご飯をチンして、納豆をぶっかける。醤油はダイレクトで投下。そのまま掻き込んで、朝飯終了。

 いつもならスーツに着替えているんだけど、今の俺は高校生。無駄にお洒落なブレザーに袖を通す。

 通学鞄とゴミ袋を持って部屋を出る。自転車に乗って目指すは駅。この姿で運転する訳にいかないので、愛車ともしばしのお別れだ。

(金持ちは不景気と無縁なのか?)

 学校が近付くにつれて、高級車の割合が増えていく……高級外車で送り迎えって、漫画の世界だけだと思っていたのに。


「信吾、おーす!今日も元気に頑張っていこー!」

 勢いよく肩を叩かれたので、振り返ってみると満面の笑みを浮かべている陽向さんがいた。そしてその向こうには俺の給料では到底買えない高級外車。それを運転しているのは、陽向さんと良く似た妙齢の女性。

多分、陽向さんの母親だと思う……正直、母親の方が好みです。

あの車を見る限り陽向さんは、かなりのお嬢様だと思う。


「はい、おはよう。朝から元気だね」

 見た目は若くなったけど、元気というか活気は前と変わらない。見た目は高校生、中身は枯れかけ中年なのだ。


「当たり前でしょ。学校もダンスも楽しいし、もう少ししたらオリエンテーションもあるんだよ」

 陽向さんの目は希望に満ち溢れておりキラキラと輝いている……俺が無くしたのはこれだな。

 前向きな希望、人生に疲れ始めたおじさんがいつの間にか無くした物だ。


「オリエンテーションか……おっ、今日の挨拶係は熊谷先生か」

 ジャージを着た鉄二が校門の前で仁王立ちしている。良いチャンスだ。爽やかな笑顔で“熊谷先生、おはようございます”って、爽やかな挨拶をしてやろう。


「げっ、熊鉄だ。朝からついてないな」

 陽向さんがげんなりした顔で愚痴をこばす。鉄二、生徒の事を大事にしているし、教育熱心なんだけどな。

 生徒に愛が伝わらないとは不憫な奴。ここは友人である俺がフォローしてやるか。


「熊谷先生、良い先生だと思うけどな」

 身体がごついから、女子受けは良くないかも知れないけど。


「まずおじさんって時点でいや」

 タナカシンゴは100のダメージを受けた

 陽向さん、鉄二は俺と同い年なんですよ。がちのトーンでおじさんを否定するのは止めて下さい。


「と、年はどうしようもないじゃん」

  思わずどもってしまう。でもおじさんだって、一生懸命生きてるんだぞ。


「それに三十六にもなって、独身だし……普通だったら、とっくに結婚してる年じゃん」

 ヒナタのクリティカル攻撃。タナカシンゴは虫の息だ。

 ……俺も高校生の頃は、大人になれば結婚出来ると思ってました。でも、現実はシビア。三十超えたら、出会いが激減するのです。


「みんな、色々あるんだって……それぞれ事情があるんだと思うよ」

 確かの俺も鉄二もモテないが、これは言い訳じゃない。でも、何故か遠い目になってしまう。


「とにかく私はおじさんが嫌いなの。いやらしい目で見てくる癖に、上から目線で説教してくるし」

 いや、大抵のおじさんは冤罪が怖くて出来るだけ見ない様にしているんだよ。説教もパワハラ扱いされるし。

 堂々とエロい目で見る奴なんて十人中三人位だと思うぞ……おじさんが百人いたら三十人か……三十人にジロジロ見られるのは、確かにきついよな。

 ここは流れを変えよう。


「熊谷先生、おはようございます。今日もご指導よろしく御願いします」

 ちょうど校門に着いたので、思いっきり爽やかな笑顔で鉄二に挨拶してみる。


「ああ、おはよう。田中、何か困っている事はないか?」

 渾身のボケをスルーされてリアクションに困っています。


「ちょっと相談したい事があるので、余裕のある時間を教えて下さい」

 早く心霊写真騒動を解決して、本業に復帰したいんだ。


 放課後、俺は生徒指導室に来ていた。生徒と二人で会って、怪しまれない場所は、ここ位しかないらしい。

部屋では鉄二が書類整理をしていた。


「それで、用事ってなんだ?氷室達と仲良くし過ぎて、嫌がらせで受けたか?」

 鉄二は俺が入って来たと言うのに、顔を上げようともしない。おい、先生!その態度はまずいだろ。本当に悩んでる少年だったら、逃げちまうぞ。


「仲良くなるも何も、おじさんが大嫌いだって、全否定くらったよ……お前、可愛い生徒が来たんだから、顔位上げろ。今朝もお茶目なボケをスルーしやがって」

 しかし、鉄二は俺の言葉が聞こえないのか書類を書き続ける。


「お前が本物の悩んでる生徒なら、きちんと聞くよ。苦情を言いたいだけなら、帰れ。生徒の悪戯に一々リアクションをとっていたら、仕事になんねーよ」

 それじゃ、俺の悩みを聞いてもらいますか?


「新高恵に関する情報を教えてくれ。それと新高守と接触をはかりたい」

 新高恵の名前を出した途端、鉄二の顔色が変わった……なにか隠していやがるな。


「……真面目で良い子だったよ。新高恵は、陸上部の主将でな。葉組だけども、部員からも慕われていた」

 今まで鉄二が関わった生徒は、何百人もいるだろう。直ぐに思い出すって事は親しかったのか……それとも、記憶に残る程の何かがあったかだ。


「俺が聞きたいのは、新高恵の事故の不自然さだ。桜守は何を隠そうとしている?それと肝心の心霊写真をまだ見せてもらっていない」

 教師が勉強を教えるプロなら、俺達けいじは情報を聞きだすプロだ。


「…新高恵が死んだ数日後から、裏庭で彼女の姿を見たって生徒が続出したんだよ。ほら、うちミッション系だろ」

 普通の高校なら、噂話だと一笑にふしていただろう。

 でも、桜守はミッション系の学校だ。キリスト教において幽霊は存在しないとされている。

もし出て来ても、それは悪魔に誘惑された魂や神の啓示を伝える為だと言われている。つまりミッション系の学校である桜守で、生徒の幽霊が出るのは聞こえが悪いのだ……表向きはそれで話が合う。

 ましてや、牧師の先生が葬儀を行ったのに、霊が現れたりしたら外聞は良くない。幸い幽霊騒動は数週間でおさまったそうだ。

(鉄二達、普通の教師に捜査結果は伝わらないよな)

 外部に漏らす事も出来ないし、伏せておいた方が良いだろう。


「分かった。だから花も手向けていないのか。それでその写真はあるのか?」

 鉄二は週に何度か手を合わせにいっているそうだ。


「これだ……化学の土分どわけ先生も、光の加減加工だって言ってたぞ」

  それは一人の少年が裏庭の女神像に祈っている所を写した写真。少年の脇に髪の長い女性らしき影が見える。そしてこの影は、土分先生の言う通り、合成だ。

(俺じゃなきゃ見落としていたな)

 写真には新高を包み込む様に抱いているにいたかめぐみが写っていたのだ。

タイトルを変えるか悩んでます その前に読まれているのか?

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ