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ジェネレーションギャップ

 桜守はお金持ちの通う学校だ。設備が整っているし、使っている物は一級品ばかり……間違って壊したら、とんでもない額を請求されそうだ。


「ここが第一体育館。体育館は、第五まであるから注意してね」

 第五まであるのかよ。ちなみに柔道部や剣道部が使う武道館は別にあるそうだ……まさに別世界だな。


「凄いな。でも、そんなに必要なのか?」

 維持費だけで、笑えない額になると思うんだけど。


「必要だよ。正式な部活じゃないと、中々使用許可がおりないし……あっ、私はチェリーブロッサムってダンスグループに入っていて、第一水曜と第三水曜は第五体育館で練習しているから見に来ても良いよ」

 ダンスか。良く動けるなと感心はするけど、何をどう表現しているのか全く分からないんだよな。

 学校が終わったら、直ぐに署に戻らないと、仕事が間に合わない……円滑に断らなくては。


「学校生活に慣れたら、そのうちお邪魔するよ。陽向さんのいるダンスグループなら人気が凄そうだな」

 これが大人の処世術だ。期限は決めていないから、見に行かなくても嘘をついた事にならない。なんで見に来ないのと言われたら“人が多くて、尻込みした”とか言ってお茶を濁しておけば大丈夫。

 刑事も月給取サラリーマンりである。上司のご機嫌伺いや後輩への気遣いは必須なのだ。


「うん、人気だよ。うちのメンバーはみんな可愛いからね。信吾に質問した女子いるでしょ?あの三人がチェリーブロッサムのメンバーなんだ」

 まじか。全員アイドル級の美少女だったぞ……決めた!ダンスは見に行かない。ここには警視庁のお偉いさんの子供も通っている。誤解されて出世に響いたら、笑えない。


「凄いグループなんだな。折角の昼休みなのに、色々案内してもらって悪いね」

 自然に話題を変更する。お礼を言われて嫌だって人はいないだろう。


「気にしなくて良いよ。信吾は他に見たい所ある?……あれだったら、女子更衣室に連れて行ってあげようか?」

 陽向さんはそう言うと悪戯っぽく笑ってみせた。本人はからかっているつもりだろうが、俺にしてみれば冗談では済まされない。

 現役刑事、高校の女子更衣室に侵入……クビの上退職金までパーになってしまう。


「裏庭にある噴水が見てみたいな」

 学校の中に噴水があるなんて漫画の中だけだと思っていたぞ。維持費が馬鹿にならないし、集う人の民度によっては、一日で無残な事になってしまう。教育が行きたい届いているセレブな学校だから可能なんだだろう。

  俺が裏庭と言った瞬間、陽向さんがニヤリと笑った。


「うちの裏庭って、校内屈指のデートスポットなんだよ。二人で行くと、交際宣言した事になるんだぞー」

 当然、在学中に恋人が出来ない人もいる。桜守は共学になったとはいえ、男子生徒の数はそんなに多くない。

つまり男子がもてるそうだ。恋人のいない男子生徒は、裏庭童貞と馬鹿にされるらしい……俺が通っていたら、絶対に裏庭童貞だったと思う。

最近は同性で裏庭デビューする人も少なくないそうだ。おじさん達の頃とは、時代が違いますね。


「あー、それは陽向さんに迷惑かけちゃうな。場所を教えてくれたら、一人で行ってみるよ」

 陽向さんは、カースト上位の人間だと思う。そんな人と交際宣言と勘違いされる行動をとったら、絶対に面倒な事になる。

高校生相手にケンカで負ける事はないと思うが日報に”高校生に絡まれたので返り討ちにしました”なんて書ける訳がない。

もしかして鉄二が裏庭に連れて来なかったのは、変な噂を流されない為なんだろうか?

 独身の男性教諭が転校生おれと交際宣言……駄目だ、想像しただけで、気持ち悪い。

(鉄二も、まだ独り身なんだよな。そういやあいつまだ吹っ切れないのいるんだろうか?)

 もう二十年近く前なんだけど…心の傷ってのは、簡単に癒えないんだよな。


「むー。信吾、ノリが悪いぞー。でも、ご飯食べる時間がなくなるし、裏庭デビューはまた今度だね」

 こういう時の今度ってのは、社交辞令なんだと大人になって分かりました。

 しかし、そんなイチャイチャスポットなんて学校が利用禁止にすると思うんだけど。


 ジェネレーションギャップの次はカルチャーショックですか。桜守の食堂は広い上にメニューが豊富だった。なにより……。


「普通、学食って安いもんじゃないか?」

 思わず声が大きくなる。

醤油ラーメン一杯千五百円って、俺のランチ予算より高いんですけど。中には五千円を超える物もあって、正に別世界だ……ナイフとフォークが常備されているし、学食にフランス料理や中国料理はいるのか?


「君が噂の転校生君かい?……桜守の学食は一流のシェフが、最高級の食材を使って調理しているんだ。優れた物には、それ相応の評価がなされるべきなんだよ。美味しい物を食べられるのは、最高にハッピーな事じゃないか」

 いきなり話し掛けてきたのは、。背が高く足も長いイケメン。年は二十代前半と言ったところだろう……高そうなスーツを着ているけど、OBか関連企業の人だろうか?


茶良さらっち、おーす。信吾、この人はうちらの英語を担当してくれる茶良光先生。友達みたいに話せる先生で、凄い人気なんだよ」

 茶良っち?おーす?友達みたいな先生?……やばい、理解不能な感覚だ。


「一年C組に転校して来た田中信吾です。まだ不慣れなので、ご指導ご鞭撻のほどよろしくお願いいたします」

 向こうの方が年下だけど、ここでは先生と生徒だ。敬語で話すのが礼儀だと思う。


「ああ、よろしく。しかし、随分硬い話し方だな……それと陽向はモテるから独占していると逆恨みされるから気をつけろ」

 茶良先生はそう言うと、俺の頭をワシワシと撫でた。鉄二もこれ位フランクなら生徒から好かれるのに。


「女子生徒にモテそうな先生だね」

 陽キャラな男子生徒には兄貴分として慕われていると思う……俺が学生時代に出会っていたら、眩し過ぎて避けていたかもしれない。


「モテてるよー。でも、彼女はいないって噂だよ……しーんご。私も彼氏がいないから、安心して良いよ」

 最近の女の子って、こんなにぐいぐい来るのか?絶対に勘違いする奴いるだろ。


「はい、はい。とりあえず食券買うぞ……あれ、なにしているんだ?」

 一人の女子生徒が壁に向かって祈りを捧げている。かなり奇異な光景だけど、誰も気にしていない。


「ああ、あそこの壁に向かって祈りを捧げると、ダイエットが成功するんだって……今日は信吾のおごりね」

 陽向さんはそう言うと、券売機に向かって走っていく。

 (祈りを捧げただけでダイエットが成功する訳ないだろ。そんな都合の良い話よく信じられるな……うん?)

  ふと見ると茶良先生がぞっとするような冷たい目で、祈りを捧げている女子生徒を見ていた。


「確かに美味しいな」

 俺が選んだのは、醤油ラーメン。そして陽向さんは二千円のパンケーキセット……食券の半券を出せば経費で落としてもらえるかな。

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