おじさん、馴染めず
転校生と言えば質問タイムがお約束だ……でも、問題が発生。おじさん、最近の流行の芸能人やアニメが全く分からないのです。
ノリについていけず、動画投稿サイトなんて一時間もしないで消したぞ
「しつもーん、信吾は彼女いるの?」
最初に手を挙げたのは、雪代さん。あの夜からは想像も出来ないフレンドリーさだ。
(しかし、いきなりド直球な質問だな。最近の子は凄いね)
田中信吾三十六歳、独身彼女なし……仕事柄出会いがないんです。心霊問題は恋愛に発展しやすいらしいけど、俺の場合は解決すると皆前に進んじゃうんだよね。
「僕はモテないですから。彼女なんていないですよ」
正確に言うと、ここ五年間はいないのだ。それと悲しいけど、モテないのは事実です。氷室さんは満足そうに頷くと、ショートカットの少女をチラ見した。
「ほーい、僕からも質問。信吾っちの趣味はなに?」
次に手を挙げたのは、氷室さんがチラ見したショートカットの美少女。
背は小さいが、中々のお胸をお持ちでトランジスターグラマーって感じだ。
しかし、初対面で信吾っちですか。
俺の趣味か……九十年代のjポップを聞きながら、酒を飲む。お気に入りの居酒屋で一杯……どう考えても、高校生の趣味じゃない。
「料理は割と好きで良く作りますよ」
嘘ではない。独身一人暮らしなので、必要に迫れて作っていると言った方が正確なんだけど。身体が資本の仕事だから、健康に気を使っている。
「次は私《私》からよろしいでしょうか?田中さんは、どこから転校して来られたのですか?……すいません、四月半ばに転校してくるのが珍しくて」
次に質問してきたのは、大和撫子系の美少女。良かった、これは書類を偽造……作製済みなので、調べられてもボロが出る事はない。
「青森県の弘前市です。親が海外に転勤になったので、知り合いの家に居候させてもらっています」
弘前は俺の地元だし、元から俺が住んでいるアパートから通っているので、調べられてもボロは出ない筈。刑事の家に住んでいるって聞いて、たまり場される事はないと思う……気のせいか、男子の視線がきついんですが。
「舞からも、いいかなー。しん君は、どこの部活に入るのー?」
おっとりした口調で質問してきたのは、ショートボブの少女。これまた美少女。そして爆乳。このクラスって、美少女率高くないか?
俺の経験上、美少女は厄介事に巻き込まれやすい。容姿が良いってだけで人の目を惹き、勝手な欲を押し付けられるのだ。
何より目立つから、彼女達とは距離を置きたい……クラスの雰囲気を見ると競争率が高そうなので、自然と距離が出来ると思う。
「桜守の授業についていかなくてはいけませんし、家事もあるので部活は考えていません」
学校が終わったら、職場に戻って日報を書かなくてはいけないのだ。それに殺人現場に行った奴等にお祓いを頼まれるから、部活なんて無理です。
「そろそろ良いか?それじゃ、来週の金曜に行うオリエンテーショングの話をするぞ」
頃合いを見て鉄二が質問タイムを中断してくれた。これ以上質問されたら、ボロが出かねないのでありがたい。
桜守は幼稚園から通っている人も多いが、高校から入学してくる人も少なくないので、親睦を深める為に行うらしい。
幼稚園から通っている人は蕾組と呼ばれて扱いが違うらしい。ちなみに高校から入学した人は葉組というそうだ。
(そういや、鉄二がと蕾組と葉組と対立しているって愚痴っていたよな)
桜守は元お嬢様学校だ。当然、幼稚園から通っている蕾組には金持ちの子弟が多い。逆に高校からの葉組はスポーツ推薦とかで入ってくるので、庶民の子が殆どらしい。
思春期で中学校の三年を一緒に過ごしているのは大きいと思う。何より経済観念とかの価値観が違い過ぎる。
泊りのオリエンテーションなんかで距離が縮まるのだろうか?
「ねー、信吾知ってる?私達が泊まるのは、学校の合宿所なんだけど。出るんだって……幽霊が」
氷室さんはそう言うと両手をだらりと垂らしてお化けの真似をしてみせた。
そんな古典的なポーズをとる幽霊なんていないけどね。
「オリエンテーションのあるあるですね」
なんでも合宿所は七宝山という山にあるそうだ。OGが寄付した山らしく、一般の人は立ち入り禁止らしい。
「あー、その顔は信じてないなー。夜には肝試しもやるんだよー」
氷室さんは俺のリアクションが薄かったのが気に入らないらしく、プッと頬を膨らませた。
いや、そこにも幽霊はいると思うよ。多分静かな場所を求めてやって来た無害な霊だと思う。
「良くある都市伝説だと思いますし……それに僕は肝試しには参加しませんので」
やばい霊ならとっくに合宿所が閉鎖になっていると思うし、問題になっているなら鉄二から相談されていると思う。
「ノリが悪いぞー。それとタメなんだから、敬語は禁止」
いや、悪いけど俺おっさんだぞ。社会に出たら、敬語しか使わなくなる。タメ口で話すのは、昔のダチ位だ。
「タメ口にしても良いけど、肝試しには参加しないぞ」
鉄二を通しておけば、不参加でも問題はないと思う。
ノリが悪いと言われても、嫌な物は嫌だ。
有髪でも、俺は坊主だ。仏様の眠りを妨げる肝試しは好きじゃない。
心霊スポット巡りに行ってとり憑かれたから、お坊さん助けてなんて調子が良すぎだ。
「あー、分かった。信吾はお化けが怖いんだ。可愛いとこあるじゃん」
氷室さんがニシシって感じで笑う……怖いよ。きちんと成仏して頂けなかったり、悪霊化させてしまったらどうしようと不安になってしまう。
「氷室さんは怖くないの?」
普通は幽霊とか怖がると思うんだけども……現代っ娘だから、幽霊とか信じていないとか。
「幽霊なんている訳ないじゃん……だって会いに来てくれないし」
後半は何を言っているか聞こえなかったが、氷室さんは不機嫌になってしまった。現役の高校生なら何らかのリアクションを取ると思う。
でも、俺はクラスメイトと必要以上に仲良くなる気はない。親しくなればボロが出る危険性が高くなるのだ。
鉄二にホームルームを閉めさせるようアイコンタクトを送る。あいつとは十年以上の付き合いだ。絶対に通じる筈。
「田中、来てそうそう痴話喧嘩か?中々やるな。でも、学生の本分は勉強だぞ」
鉄二のいじりでクラスが湧く。誰が受けを狙えと言った。
言っておくけど、刑事の本分は日本の平和を守る事だからな。
◇
まずい。これは一刻も早く心霊写真問題を解決して、呪いを解いてもらわなければいけない。
……高一の授業って、こんなに難しかったっけ。無双とまでは言わないけど、余裕だろって高をくくっていたら、着いて行くのがやっと。午前の授業が終わった頃にはへとへとでした。
気合いを入れ直して、心霊写真騒動の情報を整理してみる。
場所は裏庭にある噴水。そこで男子生徒が写真を撮ったら、女性の霊が写ったそうだ。
男子生徒の名前は新高球児。去年は一年生でエースを任され、県大会の決勝までいったらしい今は二年生で野球部のエース、今年から部長も任されているとの事。
新高は入学した葉組だが、学校の掛ける期待は大きいそうだ……事実、入学させるのに、多額の金を積んだらしい。
しかし心霊写真が撮れて以来、新高は絶不調。当然、蕾組からの不満が続出と……しかも、緘口令が敷かれたにもかかわらず、心霊写真の噂が広まってしまったと。
どう考えても退魔師じゃなくて、顧問の仕事だと思うんだけど。
「信吾、私が学校を案内してあげるよ。ついでにご飯一緒に食べよ。うちの学食まじで美味いんだって」
頭をフル回転させていると、氷室さんが話し掛けてきた。昼飯か……パンで済ませようと思っていたけど、それも良いかも知れない。
「それじゃ氷室さんに案内してもらおうかな」
氷室さんみたいなタイプは人情報通だ。心霊写真騒動の事を何か知っているかも知れない。刑事の話術があれば、気付かれずに聞く出すのは容易だ。
「任せて!それと氷室さんじゃなく、陽向。自分の苗字好きじゃないんだよね」
そう言うと氷室さん……陽向さんは俺の手を掴んで歩き出した。俺色んな意味で大丈夫かな。