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始まりと出会い

 あれは一週間前の事だ。あるタレコミが入った。都内にある雑居ビルで怪しい呪具が売られていると言うのだ。

 場所は。M区にある第六キリサメビル。M区の中でもお金持ちが多く住んでいるS駅にあり、複数のテナントが入っているそうだ。あの辺は地価が高いから、テナント料も凄いと思う。



「田中刑事、ここがそのビルです」

 俺を案内してくれたのは、現場近くを管轄とする二十代後半位の真面目そうな警察官。名前は木立こだちまもる巡査。礼儀正しく、好感の持てる青年だ。


「ここの占いの館で、訳の分からない物が売られているんだよな」

 流石に呪具が売られているとは言えないので、木立君には怪しい薬が売られている言ってある。


(呪力は並だな……こらなら問題なく捕まえられる)

 ただ今の時刻夜中の十時半。呪力が上がる時間だけど、逮捕するには問題はない。


「私も自分なりに調べてみたんですが、ここで売られているのは片思いしている人を振り向かせるアクセサリーに、死んだ人と話せる様になる薬らしいですよ……死んだ人と話せる薬なんてあるんですか?」

 一応あるけど、素人に進められるもんじゃない。


「さあな、でもそんな物があったら、一課の連中も苦労しないで済むだろうよ」

 いざ、雑居ビルに踏み込もうとしたら、一人の少女とかちあった。

 雑居ビルの入り口にいたのは、ポニーテールの少女。美少女と言って差し支えないと思う。


「おっさん、なに見てんだよ。キモいな」

 確かに俺はおっさんだし、イケメンでもない。天パで無精ひげを生やした野暮ったいおっさんだ。それでもカチンとくる物がある。

 なにより俺は刑事だ。


「君は未成年だよね。もう遅いから帰りなさい」

 大人の余裕を見せつつ、君には興味がないんだよアピール。我ながら完璧な対応だ。


「はっ?そんなの私の自由なんですけど?うざいから、そこをどいて」

 ……思春期の娘を持った父親や学校の先生は、いつもこんな口撃を喰らっているんでしょうか?俺には無理です。

 気持ちを切り替えて、階段を登っていく。割と新しめのビルで、大きな鏡を置いてあるフロアでは若人がダンスの練習をしていた。

 俺が目指すのは、占いの館と呼ばれるフロア。そこで呪具が売られているそうだ。

 情報のあった店に入り、お目当ての人物を指名する。占いなので、木立君にはドアの前で待機してもらう。

 通されたのは、薄暗い部屋。光源はテーブルランプのみ……デッドスペース多すぎです。


「ようこそ、今日は何を占いましょう」

 現れたのは人の良さそうな中年男性。でも、眼鏡の下にある眼は酷薄そのものだ。


「それを当ててみてはどうですか?……浴式えきべ明、呪殺及び違法呪具販売の罪で逮捕させてもらう。先に言っておく。俺は愛染明王様と結縁けちえんさせて頂いているから、お前の呪術は効かないぜ」

 逮捕状を浴式の眼前に突き付ける。

 ……結縁と言っても、お言葉を聞かせて頂いた事もないレベルなんだけどね。お力にすがらせて頂いていると言った方が正確かも知れない。


「そう言われて“はい、そうですか”って素直にお縄につくと思いますか?おいでなさい!オーク」

 浴式はポケットから、カードを取り出すと宙に放り投げた。

(召喚用のカードか……粗悪な模造品だろうな。しかし、こんな奴にまで持ってるとはね)

 召喚用カードは、式神を召喚する呪符を進化させた物だ。呪符と違って濡れても平気だし、財布や名刺入れにしまう事も可能。本来は退魔師協会に属さないと手に入れない物だ。

 それでも裏では模造品が出回って問題になっている。

 現れたのは、巨大な斧を持ったオーク。

 オークと契約している術師は結構いる。何しろ肉さえ差し出せば、正邪問わず契約に応じてくれるのだ。しかも、人間と比べ物にならない力を持ち、性格は酷薄。

 早い話が肉さえ渡しておけば、どんな犯罪にも加担してくれるのだ。

 だから邪悪な術師はオークを好んで使う。

 オークは五行でいくと五虫の獣だから金行となる。相克で考えると、火行に属している妖か魔物を召喚したいんだけど、この密室では火はまずい。

(密室で相手はオーク……確か、鞄の中には魚肉ソーセージが入っていたな)


「そうだったら、俺達も楽で良いんですけどな……汝、金行に属せし風の妖、盟約にて力を貸し給え……頼みますよ!召喚カマイタチ」

 俺は懐にしまっておい五芒星型のブローチを取り出し、召喚を行う。ブローチには五色の魔石がはめこんである。

 国際化が進んだ今仏法や経が通じない相手も大勢いる。だから俺達退魔師は洋の東西を問わず、様々な妖怪や魔物と契約を結んでいるのだ。

 あくまでビジネスライクな関係なので、都度対価が発生する。ちなみにカマイタチの召喚一回につき、魚肉ソーセージ十本。

 カマイタチは室内でも活躍してくれるので、いつもとカバンには魚肉ソーセージを入れてある。

 一瞬にしてなます斬りなるオーク。そして魚肉ソーセージを受けとると、一瞬にして帰ってしまうカマイタチさん……もふるには魚肉ソーセージが何本必要なんでしょうか?


「……やりますね……でも、私の勝ちです」

 浴式がにやりと笑った瞬間、頭に激痛が走った。振り向くと、木立君が警棒を持って立っている。


「どうやって、丸め込んだんだ?」

 賄賂か?それとも脅したのか?


「言うと思いますか?……どうも、貴方は私達の邪魔になりそうですね?赤字だなんだって言ってられません。これでも喰らいなさい……それでは私は逃げさせてもらいいますよ」

 一瞬に真っ暗闇になる店内。どうやらテーブルランプの電源コードを抜かれたようだ。そして逃げる際、目隠しなのか浴式は俺の額になにか貼っていったらしい。

 スマホを取り出し、陽山が逃げて行った裏口を目指す……そして駆け出そうとした瞬間、見事にすっ転んだ。

 それでもなんとか裏口に辿り着き、ドアを開ける。


「お客様、こちらは関係者以外立ち入り禁止となっています」

 お約束で店員に注意を喰らってしまう。でも、対策は万全だ。


「警察だ。容疑者を追っている。協力をお願いします」

 警察手帳を取り出して、店員に見せる。これで万事解決の筈だった。


「君、まだ学生だろ?ちょっと悪戯が過ぎるな……本物のお巡りさんに叱ってもらうから待ってなさい」

 俺が学生?どう見たら無精ひげを生やしたおっさんを学生と間違えるんだ?

 ふと、窓に映った自分を見る。そこにいたのは、学生時代の俺……高校生に若返っている?


 ◇

 店員言う通り、お巡りさんに滅茶苦茶怒られました。係長という怖いお巡りさんに……。


「まさか現役の警察官が関与しているとは……しかし、問題は貴方に掛かった呪いを解く方法が見つからない事です」

 俺は呪いの所為で、姿だけでなく霊力や筋力も高校生の時に戻っていた。俺に霊力が発現したのも、高校生の時。早い話が、今までの修練が全てパーになったのだ。


「愛染明王様との結縁はそのままですので、事務処理に専念する訳にはいきませんかね」

 お祓いは出来るけど、退魔は出来ない。どう考えても現場では役立たずだ。こうなればお茶くみでもなんでもしよう。


「いきません。田中君は桜守《桜守もり》学院をご存知ですか?」

 桜守学院は、都内でも有数の名門校だ。幼稚園から大学まであり、政治家や芸能人の子供も大勢通っている。ミッション系の学校で、近年はスポーツにも力を入れていそうだ。元は女子高だったらしいが、二十年程前に共学になった。


「ええ、高校生のクラスメイトが体育教師をしてますので」

 正直、嫌な予感しかしない。あんな上流階級セレブな世界とは、無縁な人間なんですが。


「田中信吾刑事、桜守学院への潜入捜査を命ず……一ヵ月前、あの学園で心霊写真が撮られたそうです。その騒ぎを解決して下さい……正し未成年との間違った関係は絶対に禁止ですからね」

 なんでも上の方から、心霊係の刑事を派遣しろと圧力が掛かっていたらしい。でも適役がおらず困っていた。丁度良いタイミングで、呪いで高校生に戻ってしまったと……

 こうして俺は二度目の高校生生活を送る羽目になったのだ。

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