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まさかの二度目の高校生活

お久しぶりです。何話か書き溜めが出来たので連載を開始します。

 青春。言葉にすると青臭くて照れ臭く、面映ゆい感じがする。特に何もなかったけど、おじさんにも、確かに青春時代があった。

 青春時代は一度きりだという。大人になって昔を思い出せば、あの頃が青春だったんだなと分かる。

今年で三十六歳、学生生活とも青春とも無縁だと思っていたんだけど……おじさんは今校門の前に立っています。

しかも学生服ブレザーなんて着ていたりする。普段なら即通報だと思う。


「お前、信吾だよな……今日からお前の担任は俺だ。手続きがあるから、ついてこい」

 校門では、一人の教師が俺を待っていた。名前は熊谷鉄二。担当教科は体育。独身で趣味は鍛錬、好きな酒のつまみは鶏の唐揚げ……この間勝手にレモンをかけたらマジ切れしやがった。


「よろしくお願いします……それで俺は何年何組になるんだ?」

 俺がため口を使っても、熊谷先生は気にもしなかった……逆に熊谷先生、おはようございますって、爽やかな挨拶をしたら、こいつはどんな顔するんだろ。


「1年C組だ。先に言っておく。俺の大事な生徒に悪い事を教えるんじゃねえぞ」

 大丈夫、そこまで高校生に馴染めないから。今の子達の会話についていける気がしない。

 校舎に入り、うち履きに履き替える。壁に貼られた部員募集や学校行事を知らせる掲示物。懐かしいと言うか、ノスタルジックな気分になる。


「確かに俺は犯罪に詳しいぞ。でも、俺の話よかネットの方が悪影響だと思うぜ。少年課の奴も最近はネット絡みの少年犯罪が多いって愚痴っていたし」

 俺の勤め先は警視庁だ。警視庁心霊係所属の刑事。正確に言うと刑事兼退魔師だ。

 世間話をしながら、鉄二と一緒に生徒指導室に入る。昔なら生徒指導室に入ったら、緊張しまくりだったと思う。


「この書類に記入しろ。それと所持品チェックをさせてもらうぞ……おい、これはなんだ?」

 書類を書き進めていると、鉄二が声を掛けて来た。顔を上げてみると、幾つかの物が脇に寄せられていた。


「見たら分かるだろ。煙草だよ。そっちは魚肉ソーセージと女性用の通販雑誌。これはお札入れ……五鈷杵に汚い手で触るんじゃねえぞ」

 どれも俺の仕事に必要不可欠な物ばかりだ。


「良いか、お前は今日から高校生なんだぞ。俺以外の教師に煙草が見つかったら、即停学だ……つうか、お前煙草吸わないのに、なんで持っているんだ?」

 煙草は吸わないけど、持っていると便利なんだ。


「狐狸系の怪異は煙草をふかせば、追い払えるんだよ。それに故人が煙草を吸う方だったら、良い手向けになるし」

 結果、煙草は没収となった。生徒であるうちは居酒屋に行くのも禁止との事。俺の数少ない楽しみが……未成年の姿まま居酒屋で酒を飲んだら店に迷惑を掛けるから諦めよう。

 各種手続きを終え、教室へと向かう。


「ここが今日からお前が学ぶ教室だ。良いか、今のお前は高校生だ。それを忘れるんじゃないぞ」

 ……正確に言うと二度目の高校生活なんですが。


「分かっているって。俺は仕事で、ここに来ているんだぞ。問題を起こしたら減給されちまう」

 そのまま、1年C組の教室の扉に手を掛ける。

 教室のドアが開くと同時に若々しく賑やかな話し声が聞こえてきた。


「お前等、静かにしろ……知っている奴もいると思うが、今日からうちのクラスに転校生がやってきた。田中、自己紹介をしろ」

 熊谷先生が挨拶を促してくる。結果、教室中の視線が俺に注がれた。

 大勢の高校生が俺に注目している。その笑顔はまだ汚れていなくて、おじさんにはちと眩し過ぎる。

 中にはやんちゃな恰好をした奴もいるけど、俺から見たら可愛いもんである。なにしろ普段俺が相手にしいるのは、本物がちの犯罪者なんだから。


「僕の名前は田中信吾って言います。皆さん、今日からよろしくお願いします」

 俺の顔を見てがっかりする女子、なぜか胸を撫で下ろす男子……そして笑いを堪えている鉄二先生。その反応三者三様、様々だ……鉄二、後から覚えてろよ。


「先生―、私の隣空いているから信吾の席はここで良いよね。よろしく信吾」

 俺に声を掛けてきたのは、元気の良いポニーテールの少女。美少女と言って差し支えないと思う。俺が本物の高校生なら恋の予感に胸を躍らせていたかもしれない。

(なんであいつが教室ここにいるんだ?)

 しかし、おじさんの気持ちは暗澹となり、胃が痛くなってきたのだ。


「僕の名前は田中信吾って言います……いや、さすが潜入捜査が得意な刑事さんだ。演技がうまいね」

 進路指導室に鉄二の笑い声が響く。なぜ、転校初日の生徒に担任教師が、こんな態度をとっているのか……答えは簡単。鉄二は俺の元クラスメイトなのだ。


「命懸けの潜入が殆んどだからな……それと俺が刑事なのは、秘密なんだからもう口にするなよ」

 どこで誰が聞いているか分からない。警戒するに越した事はない。


「今のお前が刑事だって言っても誰も信じねーよ……それで、どうなんだ?霊はいたのか」

、俺には霊能力があり、霊を視る事が出来る……心霊係に所属しているから当たり前なんだけどね。


「霊なんてそこら中にいるよ。問題は騒ぎの元になった方かどうか?悪霊化していないかだ」

 警視庁心霊係、もちろん公にはされていない秘密の係だ。俺を始め十数人の退魔師が所属しており、霊や妖怪関係の事件を調査・解決している。


「さすがは退魔師だなあ。でも、その退魔師さんも呪いには勝てなかったと……しかし、見事に高校の時の信吾に戻ったな」

 そう、鉄二の言う通り俺は呪いで高校生に戻ってしまったのだ。

毎朝七時くらいに投稿していきます 面白いと思っていただけたら、ブクマ評価をお願い致します。

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