序章〝神との出会い〟
「初めまして、私の名は、アフロディーテ。美と愛の女神です。」
そう名乗った女性。
本当に、この人があの……?
「…えっ、と。初めまして。杏音と言います。」
「えぇ、知ってますよ?八代杏音、18歳。彼氏なし、友だちに裏切られること何百回、親にすら呆れられ程々見放されている始末。本当に可哀想ですね。」
そう言って、ニコッと笑った。
あ……、この人…
「だからこそあなたを転移者にと思ったのですが…、まさか断られるとは思っていませんでした。どうしましょう。」
無自覚系、ドSだ……!!
「…でも、それだけ裏切られてるのにまだ人の世に未練がおありで?私なら滅ぼしますけど。」
おいおいおい!この女神めっちゃ怖いぞ!?
破壊の女神の間違いじゃないの!?
そんな考えはどうやらお見通しのようで、めっちゃ黒い笑顔になった。
これ以上悪い事考えるのは得策ではないな、うん。
「…人の世に未練があるとかでは無いんです。ただ……」
……ただ。
そんな時思い出すのは、過去の記憶。
「…私は、痛いの嫌いなんです。だから安心安全の世界にいたい。ただそれだけです。」
そう言えば女神様は一言。
「じゃあ痛み無くせばいいですか?」
「えっ。」
……そういう、問題なの?
「…お、恐らく?」
そう言うと、女神様は言った。
「なら、あなたに下僕を与えましょう。」
下僕っ!?
この人下僕って言った!!
しもべじゃなくて!!
「…失礼、しもべを与えましょう。」
言い直した!!
女神様が手を叩けば、次々と現れるわ現れるわ。
もう後ろの方の人は見えない。
「さ、この中から選ぶといいでしょう。…そうですねぇ、あっちに用意した方を除いて、10人は必要ですか。」
「じゅっ!?」
待って、あっちに用意した方を除いて…?いるの?あっちに?嘘だろ。
それなのに私に付ける、と?どれだけだよバカー!!
でも、流石に1人は嫌だけど……、こんなに大勢も困るんだけど!?
「…め、女神様。」
「はい?」
その前に、重要なこと1つ。
「あの、私、その、人間苦手で…」
「えぇ、知ってますが?」
ほー、知っとると。
だがここにいる人達はみんな人間。
つまり、女神様はこう言いたいのか。
私に死ねと!!
「…嘘です。人間嫌いのあなたが人間をパートナーに選ぶわけもないし、そもそもあなたを選んだ理由も嘘っぱちですから。本当は、あなたの血筋故なんです。」
私の気持ちを悟ったのか、女神様はフッと微笑んで人間達を消してから騙り始めた。
かつて、大昔にはこの世界を征服した人がいたらしい。
あらゆる人を虜にし、仲間の力を借りて、その世界をいい方向に動かしたとか……
「へぇ、すごい人もいるもんだ。」
「いやいや君その血を継いでるんだけどね?」
「えっ。」
声がした方向を向けば、女神様と同じような神々しいオーラを振り撒いている男性がいた。
…えっ?
えっ、えっ!?いつの間に!?
「あ、俺アレスな。よろしく。」
……アレス?戦を司る神アレス!?
わぁ、すごい…、でも一つだけ……
「今日も綺麗だねぇアフロディーテ。」
「…本当に小指強打して死ねばいいのに。」
「ははっ、怖い怖い。」
すっごい女たらしみたい。
…不誠実って言い伝えは、こういう事か……
「…で?アフロディーテ、俺を呼び出した理由は?」
「あぁ、その前にハデスさんを呼んでいまして。」
「!?」
は、は、ハデスぅ!?
待って待ってハデスぅ!?
め、冥府の神……!?
ま、待って、地下からわざわざ!?天界に!?
とりあえず、小声でラムに聞いてみた。
「えと、ハデス様ってどういう人?」
「…あー…、うん。あの人は見た目のインパクトが…、ね。あとギャップ。」
なんですと?ギャップ?
これはギャップ好きな私としては是非知りたい所。
だけどどうしよ…、まるっきりの悪人顔だったら。
神だろうとビビるぞ?人間じゃなくても恐ろしいよ?
…まぁ、死者を導くものだから、自ら死者を増やすことはしない…、と思いたい。
ハデス様がこの地へ訪れたのは、それから数分後の事だった。
彼が来たのはすぐ分かった。
もうオーラからして違う。
禍々しい、流石冥府の神だと言わんばかりの邪悪なオーラだった。
恐ろし過ぎて、私は彼の方向を向けなかったほど。
「あっ、ハデスさん。この子が例の子ですよ。気になっていたのでしょう?」
そう言って、ずいっと押され、私は初めて彼の顔を見た。
「……えっ!?」
つい、声を上げてしまった。
何故なら彼は人間の姿をしていなかったから。
完全に死人。それどころか生身でもゾンビでもなく、骸骨だったのである。
「…憐れなり、愚かな人間よ。よもや神々の悪戯の玩具になろうとは。」
……うん?ちょっと待って?
憐れなり=哀れだね。
神々の悪戯の玩具=神様の実験台。
つまり、『可愛そうだね、神様のおもちゃにされて』って事になる。
……これって、同情されてない?
てかむしろ心配されてない?
「…えと、ありがとうございます?」
「何故感謝する。」
「え、だって心配して下さったんですよね?」
そう言うと、ほんの少しだけだが、表情が変わったような気がした。
「…何故わか…、そう思う。」
あっ、この神あれだ。
ちょろいタイプの神だ。
「…や、だって……」
私は彼をまじまじと見る。
すると、彼に顔を逸らされた。
うーん、なんか変なんだよなぁ。
「…何をジロジロと、不敬だぞ人間。」
あ、怒られた。
でも、相変わらずひっどいオーラだし、顔面骸骨で怖かったのに、なぜか今は全然怖くない。
彼の顔をじっと見て、目が慣れた?いや、それよりはもっと意外な場面を垣間見れたからかな。
だってこの神…
「……っ……」
……顔、真っ赤なんだよなぁ……
「…ふふっ。」
「な!何を笑っている!」
ハデスは女の子の接し方がわからないって、本当だったんだなぁ……、可愛い。
それに、なんか彼変だ。
性格が不自然過ぎる。
「…や、性格偽ってるのがヒシヒシと伝わって、しかも顔赤いのバレバレで、可愛いなぁって。」
「なっ……!!」
ハデス様の顔は、みるみるうちに赤くなった。
それを見て爆笑する神、一名。
相変わらず微笑んでいる女神、一名。
それを見て苦笑いの妖精、一匹。
「もういっそ俺を殺せぇええええ!!」
そんな声が、天界中に響いた。